わははは。ちょっとちょっと聞いてくだされ。びっくりなのです。もうたまらんのです。こいつぁ人に言いたくて仕方がない。笑いがとまらねぇ。
所有している絶版本の市場価格を調べていたのである。
無職生活は得るところが多く、これならばさらに生活を切り詰め、来春の旅立ちに至るまで無職生活続けようとのアブナイな思想が芽生え始めたからだ。一万円あれば二ヶ月生きる自信がわしにはある。数ヶ月の生活を凌ぐこづかいが、絶版本を売れば手に入るかもしれない。
しかし蓋を開けてみりゃどれもこれも定価の五、六倍の値段がついているだけ。これでは酒代にもなりゃしない。
そこで一番自信のあるお宝をぶつけてみることにする。ケルアックの『路上』の単行本だ。これは三年前、場末の古書店でホコリに塗れているのを発見した稀少本だ。『路上』の単行本は既に絶版となっている。そこでわしは狂喜して『路上』を購入したのだけれども、これがなんと初版本だった。つまり絶版の初版である。
こいつはすごいお宝のはずだ。そう思いつつ、ネットで調べて出てきたページがコレ。
に、に、にせん、にひゃく…まん…えん。
見た瞬間にコーヒー吹き出しキーボード汚し、手は震え、思考が固まった。体中の血の気がひいた。
貧乏生活を営む上であらゆる物欲は断ち切ったはずなのに、それらは断ちきれてなかった。心の奥底に潜んでいた物欲が一気に浮上し、開花する。咲き乱れまくる。咲いては散って、散っては咲く。いや、花なんて生易しいもんじゃない。火山だ。こいつは火山だ。次々と溶岩が吹き出で、轟音立てて爆発する。
マーティンのギター「バックパッカー」。パソコン買い替え。毎晩居酒屋はしご。新艇カヤック。高級パドル。高級酒飲みまくり。新刊読みまくり。ウイスキープール。毎日旅。南極も楽勝。
すげぇ。すげぇ。たまらねぇ。貧乏サヨウナラ。みなさんサヨウナラ。へらへら隊、グッドラック、アディオスアミーゴ。僕は別世界の人間になります。ホームページはもう更新できません。
と、人間大金を手に入れたら、大変醜くなることを身を持って体験することが出来た。それだけでもよかったとしようじゃないか。勉強になったと思えばいいじゃないか。2200万円の『路上』初版本は原書に限った話であり、わしの『路上』は二足三文の値段であると判明したとしても。
この無念と口惜しさの程はびっくりでもうたまらなくて、人に言いたくて仕方がない。笑うほかには何もない。
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