隊長の戯言     


 
2003/6/10 (火) 

 男は街を歩いていた。
 すると、見るも無残なボロボロ服を纏った女が近寄ってくる。女の腕に抱えられているのは薄汚れた裸の乳飲み子。
 女は涙を溢して言う。
 「旦那様。お金は要りませんから、せめて、せめて子供のミルクだけでも買って下さい。このままじゃこの子は死んでしまいます」
 女の迫力と良心の呵責に押され負けた男は女を連れて、近くの雑貨屋に向かう。
 男はその雑貨屋でミルクを買い、女に与えた。女は再び涙を流した。


 ―― というような状況に度々出くわすのである、インドでは。何だか哀しくなってくる話しなのだが、実は全然哀しくないのである、インドでは。

 
 続き。
 男が満足して帰って行くのを見送った女は、泣き真似をピタリと止めるとミルクを抱えて一目散に走り出す。行き先は先ほどの雑貨屋。
 彼女はしたり顔で店主に言う。
 「ちょろいもんね。これで今日は三人目よ。はい、ミルク返すからさっさと金おくれ」
 金を得た女は、次に友達の所へと向かう。そして友達には次の様に言う。
 「はいはい、ありがとさん。赤ん坊を返しに来たよ。はい、これ子供の借り賃ね」
 
 わしは残念ながらこの女には会っていないのだけれども、これはすごくよく出来た仕組みになっていると思うのである。登場人物全員が利益を得ているわけだ。
 男→自己満足。雑貨屋→商品を失わずに丸儲け。女→涙と演技力だけで丸儲け。友達→子供の面倒見てもらった上に丸儲け。
 
 インドではこのような体験がゴロゴロしとるわけでして、わしも毎日騙されたのでございます。その体験はあまりにも多すぎて、旅行記には書ききれないので、『戯言』の方にもちょくちょく書いて行こうかなァと、旅行記の宣伝も兼ねましてここに書いたわけでございます、うけけ。
   


2003/6/6 (金) 

 壁が在る。一つの壁が在ったと仮定する。
 これをどのように対処するかは、壁次第、人それぞれである。
 壁を乗り越えて行くためには、余計な荷物を捨て去り、エイヤッと登っていかなくてはならない。危険や失敗は多いにありうるだろう。それら全てを覚悟した上で登っていく者もいる。
 人によっては、荷物を捨てることをいやがり迂回する手段も取られるだろう。
 壁次第、人それぞれである。リスクを負わずに登られる壁は存在しないのだ。
 今、俺の前に、大きな壁が出現した。


 「仕方ない。オレがやらなくちゃならないんだ」
 複雑怪奇。もちろん初めての経験だ。どうすべきか全く分からない。メールや掲示板を通じて沢山の御意見を頂いたが、未だ実行には移していなかった。正直言って怖かったのだ。しかし。
 決心した。

 上下セパレート。まずはスカート部の中に頭を突っ込まなくてはならぬのだが、これが一番の関門となる。スカートを広げ、それを被ろうとする瞬間に果てしない途惑いが生じる。
 「変態だ! 変態」
 「映画のためだ! 映画」
 異なる二つの思考が頭の中を順々と巡り、そして思い直したかようにセーラー服を手放す。制服に装着された「佐藤花子(仮名)」との持ち主の名札。それを見るとさらに気が萎え、頭を抱えたくなった。
 この逡巡を何度繰り返したことだろう。ふと、制服にホックがあることに気がつく。なんだ、ホックを外すせば足から着る事が出来るのである。ワンピースのように着なくてはならないと思っていたのは、オレの勘違いだったのだ。少しだけ気が楽になった。

 五分経過。気合を入れるために『ケミカル・ブラザーズ』を大音量で流す。空手の現役選手時代、トレーニングする最中によく聞いていた曲だ。オレはクラブ・ミュージックは嫌いなのだけれども、このCDだけは不思議と何度も聞いたものだ。傍若無人に暴れまわっていたあの頃の、ナイフのように鋭い神経が沸沸と蘇ってくるのが分かる。
 目を瞑り、精神集中を行なう。ビートの一音一音が響く度に気合が充填されて行く。オレはどんどん昇華していく。
 「だあいやぁぅ○×△□ッ!!」
 気合を入れ、足を通した。キチンと気合を入れたつもりだったが、気合は意味不明の言語になり、言葉になってない。一瞬、自分を失いそうになったのだ。
 …大丈夫だ。まだいける。
 生まれて初めて履くスカート。肩まで挙げた途端、オノレのスネゲが剥き出しとなり、再び気が遠くなった。いや、ここで負けてたまるか。
 「く、くくくく」
 泣きそうになりながらも、気合で肩ホックを留める。左腕が吊りそうになる。腰のホックを止める。腰のジッパーを引き上げる。ベルトを締める。それにしても何と気合の必要な服なのだろうか。少しでも気が緩めば、自我がぶっ飛んで行きそうだ。俺は日本中の女子校生を無条件に尊敬する。

 続いて上着を被る。これにスカーフを巻きリボンをつければ、オレは勝利するのだ。と、いきなり
 「ピンポン、ピンポン、ピンポ〜ん」
 玄関のチャイムが鳴った。冗談じゃない、こんな格好では出て行けやしない。慌ててステレオの電源を切り、息を殺す。訪問者には悪いが居留守を使わせてもらおう。例え訪問者が「一五年間音信不通の小学校時代の親友、井口くん」であろうとも、オレは居留守を使う。
 「ピンポン、ピンポン、ピンポ〜ん」
 黙れ。こっちは命かけているんだ。邪魔するんじゃねぇ。
 一秒という時間の経過が果てしなく長い。やがてチャイム音は途絶えた。
 
 チンタラやっていては、大変なことになる。俺は慌ててスカーフを巻いた。結び目を小さくするのが「可愛く」みせるポイントらしい。おお、オレは以外と冷静じゃないか。
 
 オレはついに壁を征服した。
 187cm、褐色、ヒゲ面、サングラスの女子校生は第四次元世界の生物をひっそりと想起させてくれた。
 




2003/6/5 (木) 

 とある方から貰った『江川酒』という静岡県産の日本酒が無茶苦茶上手くて、近頃は毎朝呑んでいる。わしの中では佐賀の地酒『東一』が日本酒ランキング一番だったのだけれども、この『江川酒』もそれに匹敵する旨さだ。日本酒特有のしつこい甘ったるしさがなく、それでいて深みのある味。兎に角うめぇ。
 酒瓶とサシで向き合い、じっくりと勝負するのにちょうど良い。一人酒には持ってこいの味だ。ぐびぐび。うめぇ。


 と、ヤヤほろ酔い気分で考えたことは、「何だ、酒も旅も一緒じゃねぇか」ということだ。この真実に気がつき、わしはやたら嬉しくなった。
 なんというか一人旅ってのはなかなか理解してもらえないわけで、「何で一人で行くの?」との質問はよく聞かれることだ。「一人の方が面白いからに決まったんじゃねぇか」という返事は中々理解してもらえないため、
 「一緒に行く奴がいないからだよ」
 と、適当な答えを言って煙に巻く。しかし何だ、旅と酒は一緒だったのだ。

 酒呑みには理解してもらえると思うが、本当に旨い酒ってのは一人でじっくりと飲むのが一番である。大人数でワイワイガヤガヤシモネタ飛ばしつつ飲むってのはあまりにも勿体無い。本来、感じるられる味も全く感じとることが出来ないのである。気の置けない奴らとバカ騒ぎして飲む酒も旨いのは確かではあるけれど、それは「味わう」ことよりも「酔う」ことに主体が置かれる。
 つまるところ、一人旅もそれと一緒で「一人でしか味わうことの出来ない味」ってのが旅には存在すするのである。その本質は酒と全く一緒だ。
 いや、結局酒に限らず、旨い食い物、いい映画、いい音楽ってのも、結局一緒になるわけだ。今度からは、旅に出る際に「何で一人で行くの?」と聞かれれば、「深く味わうためだ」と答えるのが一番分かってもらえるかもしれない。
   


2003/6/4 (水) 

 就寝前に日本酒を飲みつつ『戯言』を更新しているわけでして、現在六月四日午前九時。と、どういう生活をしとるんじゃわしは。社会人生活から脱却してから早々一ヶ月でこの域に到達できるとは思わなかった。立派なものである。

 
 中国では筆談のコミュニケーションが抜群に面白かった。時に中国人と白熱した国際論争をしたことがあるが、これぞ真の紙上対決だと思う。
 また、台球屋(ビリヤード場)で遊ぼうと思い、ジェスチャー混じりに「希望台球」と書いた手紙を差し出せば、店員は高らかに笑い「我台球台売却不可」と書いた手紙を突きつけてきた。だれがビリヤード台など購入するか。

 中国はまさしく漢字だけしか使わない国だけれども、外来語の表記は散々苦労してるだろう。日本は読みをそのままカタカナに宛てれば良いだけであって、時には『LED ZEPPELIN』が『レッド・ゼッペリン』などとなることはあるが、中国語の苦労に比べちゃまだまだだ。特にコカコーラの『可口可楽』という表記は口にすべし、楽しむべし、というわけだから感心させられる。表音と意味の一体化。ビバビバ。
 しかし、外国人の表記などは一体誰が考え、それを公式化しておるのか。それがカッコイイ漢字だと良いが、ロッキー主演の汁屁吸多・素太郎などということにでもなったら、本人はあまりにも可哀想だな、と助平なモンゴル人に男痴子(オチコ)なる日本名を授けたわしとしては非常に危惧するのである。  
 
 評論家、森本哲郎の本を読んで知ったのだが、中国語で言う手紙ってのは全く別の意味になるらしく筆談では通じないそうだ。つまり電子メールを中国語で書くと、「電子手紙」になるとわしは思っていたのだが、そうではないらしい。強引に「電子手紙」を解釈すれば、次のようになる。
 「人間が排泄行為を行なった際に肛門部位にこびりつく排泄物を拭き取るための帯電粒子で出来た使い捨て用に加工された水に溶ける紙」
 というわけで、「手紙をくれ」と中国人に言えば、「便所紙」が送られてくるのである。うひひ。
       


2003/6/1 (日) 

   どれだけの方が見られたか分かりませんが、先日「セーラー服を手に入れたのは良いものの、ネクタイの結び方が皆目見当つきません。どなたか結び方を教えてください。いや、とすると、わしが着なくちゃならぬのか、わははは、そりゃ良いや。教えてくださった方には確認のためにも『セーラー服を着た管理人』画像を差上げますので、ぜひとも御教授願いますあばばばばばげろげろうへへへへへ」という内容の日記を酩酊しつつアップロードしまして、朝型に酔いが覚めたわしは慌ててベッドを飛び降り、冷や汗かきつつ日記を削除したわけでございます。酔った頭でホームページを更新するのは、大変危険ですのでやめましょう。…と痛感した次第。


 と、こっそりフォントサイズ最小で激白してみたけれども、余計目立ちますな。まァいいか。
 さておいて、偶然発見したのであるが、このサイトが面白い。ローマ字を打ちこんだら、そのままMP3に変換して喋ってくれるのである。思わず、PRIDEの選手入場アナウンス、「ゥアァァントニィィィィィオォォォォホッドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥリィィゴォォォォォォノッゲェェェェイィィィルルルルルアァァァァァァァ!!!!!!!」風ににわしを紹介させてみたりした。heraherrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrraと"r"を重ね、音声設定を"Nainen"にすればヤヤ再現できる。いや、詰まらないですか、そうですか。変態的格闘技観戦マニアのサトー副隊長なら喜んでくれるのですが。映画の吹き替えにでも使うかね。
 








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