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1.前書き(Preface)
海外工事で使われる公式言語は英語、日本では経験することのない英語会議をどう乗り切るか、海外工事経験20年を通じて知った乗り切り術をここに述べます。
海外工事の現場監督として外国に駐在しようとする人の英語の壁を少しでも低くできればと願っています。
私が30数年前に初めて出張した海外の現場において英語での会話に苦労しました。会議で話される内容がわからず絶望的な気分に襲われたものでした。
今でも、映画や英語ニュースなどではかなり困難を感じてますが、仕事の英語なら、問題なく聞いたり話したりできるようになりました。
私の体験から海外現場駐在員の英語は、日本で受けた英語教育にちょっとした工夫を加えればすばらしく改善できます。
自分の英語が下手だから英語で話すのが恥ずかしいと考えている人は
下手(へた)な英語で堂々と話そう
も読んでみてください。
2.英語を使う3つの場面
海外で現場駐在員として英語で仕事をする場面は大きく3つあります。
a.会議 (meeting)
b.作業指示 (job instruction)
c.レター発行 (letter issuance)
b.の作業指示は1対1の対話であり、身振り手振りが結構通じるし、筆談も可能。何とかなります。
c.のレターについては、日本人は聞くより書く方が得意です、また時間をかけることができます。まだ容易です。
この中でもっとも困難を感じるのは会議です。
3.会議が困難となる理由
英語の会議が困難となる理由をあげると、
相手が多人数
あがりやすい
音響が悪く聞き取りにくい
相手の声が小さい
訛りが強いことも多い。
などです。
でも心配ご無用。ちょっとしたこつで問題は解決します。
4.前準備をしっかりしよう
4−1 前回の議事録をよく読もう
会議の進行は通常前回の会議の内容を確認していくという手法で進められます。
前回の議事録をよく読み、問題点を把握することが最初の一歩です。
4−2 施工計画書(procedure)の内容を知る
そもそも何のために現場に駐在することになったのかを考えると、契約書で会社が約束した責任(obligation)を実行するためです。
しかし契約書はかなり分厚い英語でかかれた文書で、法律用語的です。とっつきにくいです。
契約書をふまえて、施工計画書(procedure)が作成されているので、その内容をふまえておけばまず大丈夫です。
しかし、長い目で見れば契約書をさけていてはだめです。契約書の中心部分はフィディック(FIDIC)という組織が作成した「一般条件書(General Conditions)」に準じており、工事が違っても内容はほとんど同じです。一度慣れれば次もほとんど同じです。英語版は契約書にそのまま入っています。
日本語版も出版されているので翻訳文を読むことも助けになります。
「一般条件書(General Conditions)」には追加金をとれるケースについてもはっきり書いてあります。追加金の機会を的確につかむためにも習熟しておくことは大事です。
4−3 相手側が会議で聞きたいことは何かを知る
工程会議における相手側(発注者EmployerとエンジニアEngineer)の関心事(interest)は工事の進捗(progress)が予定通り(as schedule)であるかどうかです。
相手が工程の進捗を聞く根拠(basis)は、契約書(Contract)と計画書(Procedure)と基本工程表(Work Program)です。
当方は契約書と計画書を守る(keep)と約束(promise)しているからです。してみれば会議では契約書と計画書通りに工事が進んでいるかどうかを聞きたいのに決まっています。
つまり、工事がどう進んでいるかをきちんと把握してそれを会議の席で説明するのが現場駐在員の役割なのです。
まず日本語で現状の説明ができることを確認しましょう。日本語で説明できないものはより不慣れな英語で説明できるはずがないのです。
4−4 工程の説明
日本語で工程と言う場合、2つの意味があります。つまり、「工程通りである」という場合の「工程」は「基本工程表」 (Programme または Time Schedule)意味し、「工程が遅れている」と言う場合の「工程」は「工事の進捗」(progress)を意味します。
おそらく、毎週とか毎月ごとに進捗報告書を提出しているかもしれません。その場合は、それをもとに説明します。
工事の進捗は、基本工程表 により管理されます。
予定通り(as schedule)進んでいる場合
より進んでいる(ahead schedule)場合
遅れている(delayed)場合
があります。
単に進捗中(ongoing とか under progress)とか継続中(continuing)というだけでいい場合もあります。まだ本体の施工にはかかっておらず準備中(under preparation)である場合もあります。各段階の進捗を%で示すとわかりやすいです。
予定通り又はより進んでいる場合は、問題ではない(no problem)ので会議で多くを語る必要はありません。
ここに大きなヒントがあります。会議をうまく進める最大のこつは、会議の前にできる限り未処理課題(pending matters)を解決しておくことです。
課題が処理されていれば、no problemの一言で終わらせることができるからです。
多くの説明を要するのは、遅れている場合です。遅れた理由が問われることになります、
理由が深刻な (serious)ものか単純な(simple)ものかが検証され(be checked)、深刻な問題が原因であれば相手側からの説明要求は厳しくなります。
遅れの原因(reason of delay)が当方にある場合は、その対応策(countermeasure)をあらかじめ策定しておき、それを説明する必要があります。
詳しい説明(detailed explanation)が必要な(necessary)ときは、事前に文書にして、会議の席で配布するのもいい方法です。
そうしておけば口で説明する内容が減り、楽になります。
4−5 遅れの原因が他者にある場合
遅れの原因が当方になく(not in our side)、他者(other party)つまり発注者、エンジニア、他業者(other contractor)にある場合とか
異常気象などである場合には、それに伴う追加費用(additional cost)を発注者に請求できる場合があります。
会社の海外営業部門とよく相談して慎重にすすめるのがよいでしょう。
海外工事 追加金交渉の心得 も読んでみてください。
4−6 全員の立場を両立させる
会議では、当事者間の主張がぶつかりあいます。各者それぞれが限られた予算・人員・設備・時間などの制約を抱えており、
そのなかで全員の立場をどう調整していくかがうでの見せ所です。Win-Winを目指します。
会議に臨む姿勢は、次の点が大事です。
a. まず当方の利益を優先する
b. 次に相手の立場を尊重する
c. 両者の利益がぶつかる場合、両者にとって最小コストの方法を考える
d. 追加費用が発生する場合で、責任が発注者にあるときは発注者からの取得をはかる
当方の利益を優先することは相手側も理解します。お互い様だからです。でもあまり独善的になりすぎると、相手の反感を買って、
非協力という反撃を受けかえって高いものにつくことになります。その意味でバランスが大事です。
4−7 会社を愛する心をもつ
誰が自分の給料を払っているか思い出しましょう。会議では自分の会社を愛し、守る心が大事です。その上で、相手の立場を尊重しましょう。
理不尽な要求には適切に拒否しましょう。理不尽で困難なことを受けてしまえば、現場で働いてくれる人たちに大変な苦労を背負わせることになります。
4−8 耳を慣らしましょう
以上会議の中身に対する対策を述べましたが、英語そのものの聞き取り力を高めることは当然大切です。英語の聞き取りのために、
TOEIC用の聞き取りの教材を通勤時などにいつも聞くことはとても有効です。
4−9 工事完成まであきらめない
下請けさんやパートナーのperformance実施状況が悪く、成果が出ないことがよくあります。
その場合、相手が悪いから結果が悪いのは自分にはどうしようもないことだと考えがちです。でもそれでは工事が予定通り進まず自分が責任者である工事の結果が出せないことになり、負けです。
下請けさんやパートナーが悪くても、彼らが解決策を持てるようになるまで指導していくのが元請の自分の立場です。
あくまでも工事完成を達成することを目指し、あきらめないことが大切です。
英語会議だけでなく、海外工事の運営において立派な成果を出されることを心より期待します。
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