確定:能登の語源はアイヌ語NOTTUノットゥ
酢谷琢磨
(注)詳細は令和6年12月04日発行『石川郷土史学会々誌』第57号を参照下さい。
1. はじめに
能登の語源については,蝦夷語「半島」説があり、著者はアイヌ語nottu「岬」を引用しながらも、「湖の多い地」を提示した(『七尾「山の寺」寺院群』)。
しかし、最近ノッは顎(あご)であり、nottuノットゥは「岬、陸地の細くとがって海へ突き出ている所」との言及がなされた(『アイヌ語沙流方言辞典』『アイヌ語地名の歴史』)。この結果、
能登の語源はアイヌ語nottuノットゥであるとの確信に到った。
本論は、この詳細について論述する。
2. 過去提言された能登の語源
著者は『七尾「山の寺」寺院群』で、
「能登(のと)」の語源は、『倭名類聚抄』によれば「蝦夷語謂半島」とあり、「半島」説である。更に、アイヌ語辞典で調べると、ノッツ[nottu]岬、ノト[noto]凪が検索される(『アイヌ語
沙流方言辞典』)。『広辞苑』によれば「半島の小さなものを岬という」とあるが、能登半島を能登岬とは呼称しないと考えられる。故に、ノト[noto]凪が適切かとも思うが、北陸冬季の北西
季節風を考慮すると、常時凪とは言えそうもない。従って、著者は古代より邑知潟(おうちがた)等の湖(潟)が多いことより、ヌ[nu]たくさんある、及びト[t'o]湖、沼(『アイヌ語方言
辞典』)説を提言したい。即ち、「能登」は「湖の多い地」だ。
蝦夷にアイヌは含まれるようだが、どちらも最古の日本に広く分布した先住民族である。従って、著者はアイヌ語辞典を検索し、前述の如く述べたのだが、nottu岬、noto及びnuとt'oに拘泥し過
ぎた。
3. 能登の語源再考
アイヌ語辞典を再検証すると、ノッは顎であり、地名の場合は「岬」(『アイヌ語古語辞典』)とあり、nottuノットゥは岬、陸地の細くとがって海へ突き出ている所とある(『アイヌ語沙流方言
辞典』)。『アイヌ語古語辞典』でノッ顎はあるが、ノットゥはない。一方、アイヌ語辞典の最高峰である『アイヌ語沙流方言辞典』で、nottuノットゥはあるが、notノッはない。
「アイヌ語沙流(さる)方言(北海道日高地方の沙流川流域の言葉)を正確に話す平賀サダモ(1895頃ー1972)が岬をノットゥと発音している(『アイヌ語地名の歴史』)」とあり、アイヌ語古語
ノッは後に単に沙流地方のみならず、日本各地の先住民族の言語としてノットゥに変化した。その理由として、『菅野茂のアイヌ語辞典』では、ノッドnottu,岬とある。ノッドをローマ字表記すれ
ばnoddoだが、nottuとある。従って、ノッドはノットゥの誤りであり、nottuノットゥがアイヌ語として一般的であったと推量される。
尚、岬はどういう方向から見たら顎のように見えるのだろうか。岬を横から見た段差である。つまり、海に張り出した高さのある陸地である(『アイヌ語地名の歴史』)とのこと。即ち、顎のラ
イン形状の岬もあるのだが、先住民族は地図もなく、高い山より細くとがった形状を見ることもできなかったと思われるので、「岬」及び「細くとがって」は現代人が付加した名称と形容である。従っ
て、一般的には「陸地の海へ突き出ている所」と解釈できる。
のと里山海道高松Paから見ると、見にくいかもしれないが、図のように、高爪山(341m)を左手に、陸地が海に突き出た能登半島を望むことができる。
アイヌ語は子音で終わることができる。従って、本来はノッ(顎)であるが、ノットゥに変化した経緯について 、『アイヌ語地名の歴史』では、
これまでアイヌ語の発音はノッであるのを和人がノツトと表記したと解釈されてきたが、ノットゥという発音の表記ではなかったのか。
即ち、アイヌ語古語の発音でノツ(notu)「能ツ」はなく、顎はノッ(not)「能ッ」だが、陸地が海に突き出ている所はノッからノットゥ(nottu)「能ッ登ゥ」に変容した。その後、ッとゥが抜け
てノト「能登」になったと推定できる。
能登の語源は、顎由来のアイヌ語nottuノットゥ、陸地の海へ突き出ている所であり、能ッ登ゥが能登に変容し、養老2年5月2日(718年6月4日)、越前国の羽咋・能登・鳳至・珠洲四郡割きて能登国が置かれ
た(『続日本紀二』)。
4. おわりに
能登の語源について、過去種々考察をしてきたが、『アイヌ語地名の歴史』を読んでその謎が氷解した。著者の児島恭子さんは直接能登の語源について論述していないのだが、その突破口を示唆頂いた。厚くお礼を申し上げたい。
文献
酢谷琢磨『七尾「山の寺」寺院群ー豊かなるブッディズムへの誘いー』桂新書、2022
児島恭子『アイヌ語地名の歴史』吉川弘文館、2024
田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』草風館、1996
京都大学文学部国語学国文学研究室編『諸本集成 倭名類聚抄』[外篇]、臨川書店、1981
服部四郎『アイヌ語方言辞典』岩波書店、1964
平山裕人『アイヌ語古語辞典』明石書店、2013
菅野茂『菅野茂のアイヌ語辞典』三省堂、1996
青木和夫・稲岡耕二・笹山晴生・白藤禮幸『新日本文学大系 続日本紀二』岩波書店、1990
Last updated on Dec. 04, 2024.