「広上淳一がおくるベートーヴェン『皇帝』『田園』」と題するオ−ケストラ・アンサンブル
金沢(OEK)第496回定期公演。広上流《田園》に期待して石川県立音楽堂に向
かった。
プレトークに広上淳一マエストロと池辺晋一郎さんが登場。「歌ありの淵源はベートーヴェンにある」。「広上《田園》はコーヒーを飲んで寛いでいる感じ」との池辺説が披露された。
コンサート1曲目は、トム・ボローさん登場、神聖ローマ皇帝レオポルト2世の末子ルドルフ大公に献呈されたベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番《皇帝》。OEKは8-6-4-4-3の対向配置。第1楽章Allegroは、
タンタララララの壮大な序奏の後、Pf開始。トム・ボローさんの演奏は丁寧でアルペジオが綺麗。プログラムにある「推進力にあふれた管弦楽の主題」が何度も繰り返される。中間部でHrのユニゾンが綺麗。
広上マエストロものりのりで、何度も指揮したであろう《皇帝》を楽しそうに指揮。後半カデンツァらしきPfソロがあったが、短く、管弦楽との協演で長い第1楽章は終了。第2楽章Adagio un poco mosso -
attacca:は、正に天上の音楽で開始。独奏Pfも緩やかなアルペジオで続く。fあり、高速アルペジオ有りで華やかさも加わる。後半はドミドミと次楽章への橋渡し。これもベーヴェンの趣向であろうが、面白い。
Attaccaでタンタタタラタンの第3楽章Rondo. Allegroが開始。突っ走る曲想。弦楽の間奏を挟み、主題を繰り返す。高揚感を演出し、一旦停止後Codaは加速して終了。トム・ボローさんはイスラエル生まれと
のこと。ネタニヤフの蛮行が思い出され、彼もブーニン並みのPowerある演奏を披露するかと思いきや、綺麗だが大人しい。もう少しブーニンの半分程のPowerを加えれば、彼はより高名なピアニストになるの
ではと思った次第。アンコールは、チェルニー風バッハ(ペトリ編曲)《羊は安らかに草を食み》。ボローさん好みの情緒溢れる一曲であった。
休憩を挟んで、2曲目はフランツ・ヨーゼフ・フォン・ログコヴィッツ侯爵およびアンデレアス・ラズモフスキー伯爵に献呈された(平野他編1999)ベートーヴェン:交響曲第6番《田園》。PicとTbが加わる。
第1楽章Erwachen heiterer Empfindungen bei der Ankunft auf dem Lande(田舎に着いたときの目覚めの喜び)Allegro ma non troppoは、どこか懐かしさを感じるラシ♭レドシ♭ラソドファソラシ♭ソの第
1主題で開始。中間部でHrのユニゾン。安定感あって綺麗。第1主題が繰り返されて終了。第2楽章Szene am Bach(小川のほとりの情景)Andante molto mossoは、Hrが小川のほとりを表現し、中間部ではFgの
先導でCl、Fl、Vnが協演。後半にはFlによるナイチンゲール、Obによる鋭いうずらの囀り、更にClによるカッコーがうずらに応答して鳴く。私には心地良い田舎の描写に聞こえたのだが、絵画的描写ではなく、感情
の表現であることが強調されているそうだ。第3楽章Lustiges Zusammensein der Landleute(田舎の人々の楽しい集い)Allegroは、プログラムにある「田舎風ダンス」。タンタタタAttaccaで第4楽章Donner.-
Strum(雷・嵐)Alleghroは、PicとTbが黒雲(嵐の前兆)の後Timpによる強烈なPowerある雷鳴。終結部はCbの雷鳴音がfからppにディミヌエンドし終了。
第5楽章Hirtengasang . Wohltige, mit Dank a die Gottheit verbundene Gefuhle nach dem Strum(牧人の歌:嵐のあとの喜びと感謝)Allegrettoは、嵐が終わった喜びと感謝がClとHrで表現される。終結部
ではHrソロがClによる最初の主題を回想し、静かに全曲を綴じる。アンコールはビゼー《アルルの女》組曲よりアダージエット。ARTONE MAG2021によれば、「昔の恋人ルノーおばさんと50年ぶりに出会い、お互
いの過ぎ去った日々を思い、愛を確かめ合う場面の音楽」とあり、何故マエストロはこの曲をアンコールに選んだのかは不明。
さて、プレトークで池辺さんが言っていた「コーヒーを飲んで寛いでいる感じ」に戻ると、彼は広上《田園》第1楽章のしかも最初の部分だけ聞いたのであろう。第3楽章以降はベルリン・フィル並みであったこ
とを追記しておく。9月20日のベートーヴェン、10月4日マーラー。耳が離せないOEKである。
平野昭/土田英三郎/西原稔編『ベートーヴェン事典』東京書籍、1999
Last updated on Sep. 20, 2025.