“ボエーム”とは、“ボヘミアン”のフランス語で、自由に生きることに憧れた19世紀パリの芸術家の卵たちのことを指すそうだ。金沢で《ラ・ボエーム》は二度目。今回は、マエストロ井上
道義指揮最後のオペラとのことで、金沢歌劇座に向かった。
ホールに入ると、OEKはオーケストラ・ピットに入っていて、Cbが3人、Hp1台を確認できたが弦楽5部の人数は確認できなかった。多少窮屈そう。マエストロ井上道義が入場し、第1幕はドンで開始。このオペラ
には序曲は無い。舞台はクリスマス・イブ、パリのラテン区。画家マルチェッロと詩人のロドルフォの屋根裏部屋である。ストーブにくべる薪はなく寒さに震えている。一時は、椅子をとマルチェッロ
の提案。ロドルフォは書きかけの戯曲の原稿を燃やすことになる。ストーブには赤い照明が付き、それらしい。そこに哲学者コッリーネが帰り、突然二人の少年が食料品、ワインを持ってきて、そ
の後に4人目のボヘミアン、音楽家のショナールが現れ、突然の差し入れの説明をする。更に、家主の到来の後ミミが蝋燭の火を貰いに来る。ミミは部屋に入ると目眩がして、蝋燭と自分の部屋の鍵
を落としてしまう。ロドルフオは自分の蝋燭を消し、暗闇の中で蝋燭を探す。二人の手が触れたとき「アッ」というミミの声。これが切っ掛けか、二人は自己紹介。先ず、工藤和真さん扮するロドル
フォのアリア「なんと冷たい可愛い手」。これが凄かった。高音の伸びと声量で圧倒。OEKの伴奏もダイナミックで気持ちが良い。ついでミミ役中川郁文さんの「私の名はミミ」。これもコロラトゥー
ラを遺憾なく発揮。二人はカフェ・モミュス(Momus,仏「[ギリシャ神話]嘲笑の神」)へ行くため部屋を出て、第1幕は終了。ここで幕と思ったら、演出家森山開次さんの演出であるダンサーが登
場。舞踏を披露し、第2幕目となる。
第2幕目は、カフェ・モミュス前の広場。ロドルフォはミミにピンクのボンネットを買ってあげる。広場には商人が男達、女達、腕白小僧等のお客の群れを呼び込んでいる。ロドルフォはミミをマルチェッロ、
ショナール、コッリーノに紹介する。多分ここだったと思うのだが、女達の女性合唱。金沢オペラ合唱団ソプラノ担当の綺麗な合唱が披露された。さて、マルチェッロは元の恋人ムゼッタが初老の
金持ちアルチンドーロと傍を通り過ぎるのを見て愕然。ムゼッタは靴がきついと金切り声を上げるのでアルチンドーロは靴を買いに行く。そのすきにムゼッタはマルチェッロの腕の中に身を投げる。
ここで、ムゼッタ役イローナ・レヴォルスカヤさんによるアリア「ムゼッタのワルツ」。帰営する軍隊の行進があり、ダンサー等がハリボテを高々と上げて後半の悲劇を吹き飛ばすかの如き熱狂的第
2幕の終了。尚、軍隊の行進はビゼー《カルメン》にもあり、《カルメン》の初演は1875年。プッチーニによる《ラ・ボェーム》の初演は1896年。従って、ビゼーの方が早い。
休憩を挟んで第3幕はパリの通行税徴収所の一つアンフェール(enfer、仏「地獄」)門。ムゼッタと旅籠屋に住むマルチェッロをミミが尋ねてくる。ロドルフォもマルチェッロと話すため旅籠屋に
やってくるので、ミミは近くに身を隠し立ち聞きする。ロドルフォは「ミミの病気が重く、死期は近い」とマルチェッロに話す。これを聞いた、ミミはアリア「あなたの愛の呼び声に」で、「さような
ら、お別れしましょう、恨みっこなしに」を切々と歌う。幕終了前は、四重唱、二重唱があり、「花の季節に別れることにしましょう」「花の季節に」「いつまでも永遠に、冬がつづけばいいのに!」
「花の季節に別れることに!」と死を覚悟したミミとロドルフォの二重唱で終了。と思って「ブラボー」の声が掛かったが、間を置いてOEKによるドンで終了。歌詞の内容から「ブラボー」は相応しく
なかったようだ。
休憩を挟んで第4幕は、舞台上にベッドがと思われたが、無い。これは後で分かる。場所は再び屋根裏部屋。マルチェッロ、ロドルフォ、ショナール、コッリーネが粗末な食事中突然ムゼッタが入っ
てきて、「外にミミがいるが、階段を上がれない程弱っている」と話す。ロドルフォはミミを助けに駆け下り、他の者はベッドを設える。この設え方が森山流。ダンサー達が4等分程に分けたベッドの
パーツを踊りながら繋ぎ、ベッドに仕立て上げる。これも面白い。ベッドでロドルフォがミミの世話をしている間、ムゼッタとマルチェッロはミミのためにマフを買いに行き、コッリーネは自分の
オーバーコートを質入れに、ショナールにはミミとロドルフォの二人にするよう頼み、ミミとロドルフォの二人となる。ここで、二人の二重唱「出て行って?わたし、眠ったふりをしていたの」がpで
歌われる。ムゼットは帰ってきてミミのためにお祈りをする。他の3人も帰ってきて、ミミの具合を尋ねるが、ミミは息を引き取る。ロドルフォの「ミミ」との絶叫で、悲劇は幕となる。
このオペラでは大和の緞帳も、幕も一切用いられなかったのだが、とにかくカーテン・コールではミミ役中川郁文さんがブラボーの嵐で大人気。マエストロ井上道義及び森山開次さんも人気。即ち、
森山開次さんによる新演出が華を添え、ソリスト、合唱団、OEKの演奏と相俟って素晴らしい世界レベルの歌劇《ラ・ボエーム》が演じられた。
金沢歌劇場は老朽化のため再建が検討されているらしい。再建にはウィーン国立歌劇場及びシドニ−のオペラハウスを参考に、真似るだけでなく金沢らしい歌劇場を再建すべき。しかも、オーケストラ・ピッ
トは大きく、ワーグナーの歌劇を上演出来る施設にして欲しい。歌劇の開催に関しては、せめて秋、冬の2シーズンに1回ずつが望ましいが、可能かどうか聴衆の意見も聞かなければならないだろう。
さて、世界レベルに達した「文」だが、旧制1中(現金沢泉丘高校)、2中(七尾高校)、3中(小松高校)及び四高は勿論、石川県は「文武両道」を是としてきた。最近の石川県のスポーツ界、
野球では3軍、サッカーではJ3に低迷している。馳石川県知事はプロ・スポーツ界の選手だった筈。スポーツ界の底上げにも尽力して欲しいものだ。
Last updated on Oct. 26, 2024.