2月18日OEK第477回定期公演PH

2月18日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第477回定期公演PH
指揮:井上道義、チェロ:ルドヴィート・カンタ
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 「道義ファイナル・イヤー! カンタ&OEKとの集大成」と題するオ−ケストラ・アンサンブル金沢の定期公演。 グルダ:チェロ協奏曲に期待して石川県立音楽堂に出掛けた。

   プレ・コンサートは無し。
 コンサート1曲目は、マエストロ・井上道義がOEKの音楽監督に就任した最初のコンサートの演目であったというハイドン:交響曲第100番《軍隊》。コン・マスには久し振りにヤングさんが戻り、弦楽5部は8-6-4-4-2の対向配置。第1楽章Adagio - Allegroは緩やかな序曲で開始。一転してVivaceに近いAllegro。ハイドン得意の一旦停止を挟み、主題が戻り終了。第2楽章Allegrettoは聞き慣れたトルコ風軍隊。オスマントルコはウィーンを包囲したが、ウィーンを落とせずに撤退した。しか し、その脅威は、ハイドン、モーツァルトが感じていたようで、Cym(シンバル)で堂々と行進するトルコ軍が描かれる。中間部Tpのファンファーレで主題に戻る。第3楽章Menuet: Moderato - Trio - Menuetは、いかにもメヌエットと感じら れる正統派メヌエット。第4楽章Finale: Prestoは急楽章。躍動感溢れる主題で開始。後半には軍楽隊のCymが戻って終了。マエストロ・井上は総譜を見ながらの丁寧な指揮であった。

 休憩を挟み2曲目は、武満徹:《弦楽のためのレクイエム》。能登半島地震被災者を悼む意味では、コンサート1曲目に変更すべきだったかもしれない。しかし、そうなると武満音楽が細切れになる。従って、プログラム通り2曲目。弦楽器 のみなのでチューニングはVcが担当。曲はプログラムによればレント 〜 モデレ 〜 レントの三部とのこと。Lentoは文字通りゆっくりと進行。Moderareで更にスピードを落とし、Lentoで終了。マエストロ・井上による能登半島地震被災者への 鎮魂曲であった。

 コンサート3曲目は武満徹:3つの映画音楽。第1曲は映画「ホゼー・トレス」より《訓練と休息の音楽》。Cbが重厚に響き終了。第2曲は映画「黒い雨」より《葬送の音楽》。池辺晋一郎さんを始め映画音楽の作曲者はその情景描写が非常 に上手。音楽を聞いていると、原爆投下直後の黒い雨が降ってきたのを見ているように感じられる。又、第3曲は映画「他人の顔」より《ワルツ》。3拍子の単なるワルツなのだが、デッサンされた他人の顔が浮かんでくるから不思議だ。

 さて、4曲目はグルダ:チェロ協奏曲。グルダについては、我が家ではモーツァルト:ピアノ協奏曲第23番と第26番《戴冠式》をグルダが演奏したCDがあり、彼は名ピアニスト。彼が書いたチェロ協奏曲はジャズっぽく、弦楽は独奏Vc、Va(だと思う)が 一人、Cbが2台(奏者は一人、この理由は後で分かる)のみで、木管、Tubを含む金管楽器奏者及びドラムセットを含む布陣。第1楽章Ouvertureはカンタさんの独奏Vcで始まる。彼の歯切れの良い演奏は正にゴージャス。尚、Ouvertureは伊語で、 勿論英語ではOverture。第2楽章Idylle(Idillio, 牧歌)は一転して牧歌的。プログラムにある独奏Vcがのびやかな旋律を奏でる。カンタさんは緩急を巧みに熟す。第3楽章はCadenza。これが圧巻であった。よく聞くピアノ協奏曲、ヴィオリン 協奏曲における主題の変奏曲風とは異なり、スラーを含んだ技巧を余すところ無く披瀝する絶品カデンツァ。第4楽章Menuettは、プログラムにある「古風な宮廷舞曲のカリカチュア」Caricaturaは風刺画。ジャズっぽい音楽を趣旨とすれば、古風な宮廷舞曲 は風刺と言えるのだろう。独奏VcとFlとの対話もあり、ジャズとは言えないメヌエット。尚、この楽章中Cb奏者はもう一台のCb楽器に変えて演奏。又、元のCbに戻るのだが、何故だろう?多分2台の低音弦調弦の異なる(シとド)Cbを使い分けたの だろう。2人の奏者でも良かったと思うのだが、2人では音量が大きくなるため総譜では一人と指定されていたのであろう。第5楽章はFinale alla marcia。allaはa + laの伊語で、「・・・ふうに」とlaは英語の定冠詞theに相当。従って、行進曲風フィナーレである。木管、 金管楽器による陽気で行進曲風ジャズバンド。華やかに、しかも分かり易く終了した。この曲は日本では聞いたことがないが、海外では10人以上のチェリストがこの曲を録音しているとの事。正にカンタさん満を持した選曲であった訳だ。テ レビカメラも入り、録音もされたと思われる。是非このCDを発売して欲しいものである。

 コンサート終了はぴったりの16時。従って、アンコールは無かったが、グルダ:チェロ協奏曲の余韻を感じ、絶品を聞いた感触を胸に帰途についた。


Last updated on Feb. 18, 2024.
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