7月13日OEK第470回定期公演PH

9月9日オ−ケストラ・アンサンブル金沢岩城宏之メモリアルコンサート
指揮:川瀬賢太郎、メゾ・ソプラノ:福原寿美恵、テノール:宮里直樹、ヴァイオリン:篠原悠那
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 恒例のオ−ケストラ・アンサンブル金沢による岩城広之メモリアルコンサート。マーラー《大地の歌》室内オーケストラ版に期待して 石川県立音楽堂へ出掛けた。

   ロビー・コンサートは行われなかったようだ。
コンサートの前に今年の岩城広之音楽賞授賞式があり、馳浩石川県知事から福井県丸岡出身の篠原悠那さんへ賞状が手渡された。次いで、池辺晋一郎さんと川瀬賢 太郎マエストロとのプレトークがあり、コンサート1曲目はオペラ《死の都》で有名な、しかし聞いたことがないコルンゴルド:ヴァイオリン協奏曲。ソリスト篠原悠那さんは銀色にラメの入ったきらびやかなドレス で登場。OEK弦楽5部は8-6-4-4-2の通常配置。Tbが3人加わる。第1楽章はModerato nobile。nobileは貴族的、上品なであり、上品で甘美な序奏で開始。アップテンポあり、篠原悠那さんによる技巧的進行もあり、 現代曲的なカデンツァも挿入。高揚し、断ち切る如く終了。第2楽章Romanzeは正にロマンス。コルンゴルドは映画音楽も書いたようで、曲想は映画音楽の如く綺麗。篠原悠那さんの叙情性溢れる演奏であった。第3 楽章はAllegro assai vivace。assaiが付くと「十分に」の意。閃光一閃で開始。中間部ではTbが壮大さを演出。この楽章の主題が戻り、Hrが締め括りのファンファーレ。分かり易く、しかも十分力強く終了。アン コールは、藤倉大《夜明けのパッサカリア》。Passacagliaは、「古代イタリア・スペインの踊り」「即興詩の六弦琴の伴奏」であり、夜明けの踊りはおかしいので、六弦琴の伴奏を意識した曲であろう。篠原悠那さんの丁寧な演奏であった。

 休憩を挟んで2曲目はマーラー(シェーンベルク/リーン編):《大地の歌(室内オーケストラ版》。OEKは4-3-2-1-1だったようで、PfとOrgが入る。第1楽章Das trinklied von Jammer der Erde(大地の哀しみに 寄せる酒の歌)は、テノール宮里直樹さんがJetzt nehmt Wein!/Jetzt ist es Zeit, Genossen!(さあ 酒をとれ! 友よ いまこそがその時!)と堂々と歌う。酒はワインであり、Genossenは友、同志。左党の私に は嬉しい一曲。メゾ・ソプラノ福原寿美恵さん登場の2曲目は、Der Einsame im Herbst(秋に寂しきもの)。Ich weine viel meinen einsamkeiten/Der Herbst in meinem Herzen wahrt zu lange. (わたしは 孤独のうちに あふれる涙を流し/心には 秋が 長く長く とどまりつづける)とObの伴奏で綺麗に歌われる。第3楽章Von der Jugend(青春について)は、《子供の不思議な角笛》のような出だし。歌は 宮里直樹さんで、青春の鬱屈した思いを語る。福原寿美恵さん歌う第4楽章Von dem Schonheit(美しさについては)ではハプニングがあった。一人の楽員が退席した。第5楽章の前で分かったのだが、Vnの弦が切れ たようだ。歌はUnd die schonste von den Jungfrau'n sendet/lange Blicke ihm der Sehnsucht nach.(そして 娘たちでもとりわけ美しい乙女は/その憧れのまなざしを 少年にじっと向ける)と歌われる。第5楽章 はDer Trunkene im Fruhling(春に酔える者)。宮里直樹さんは酒は強そうであったが、Ich trinke, bis ich nicht mehr kann,/den ganzen, lieben Tag!(呑むぞ もう呑めないってところまで/一日まるまる ご きげんな一日!)と歌う。東京藝術大学主席卒業の歌声は凄い。福原寿美恵さんが締め括る第6楽章はDer Abscied(告別)。この楽章では、せつせつと歌う福原寿美恵さんも素晴らしかったが、その伴奏を受け持つ OEK木管部門、即ちObソロ、Flソロ、Clソロ、再びObソロの素晴らしさが目立つ楽章でもあった。フィナーレはewig, ewig(永遠に、永遠に)で余韻を残して終了。ブラームス:《ドイツ・レクィエム》では、selig, seligで終了するのだが、seligは「至福を」であり、マーラーはeternalを選択したようだ。

 種々のイベントが挿入されたため、終了時刻は16:30。従って、アンコールは無し。さて、岩城広之メモリアルコンサートはソリスト及びOEKの熱演であったのだが、気になる点が三つ。1つ目は、メゾ・ソプラノ福原 寿美恵さんの発音はフランス語的で綺麗なのだが、ドイツ・リードではもう少し「ごつごつ」感が出ても良かったのではないかと思われる。2点目は、室内オーケストラ版《大地の歌》について、確かに《大地の歌》は 独唱と大オーケストラのための交響曲である。しかし、1曲目におけるOEKの構成であれば態々室内オーケストラ版を演奏する必要は無かったのでは。3点目は岩城広之音楽賞授賞式を含むのは仕方が無いとしても、そ の他の時間調整用プログラムが多過ぎた。従って、終了時刻30分延長は、電車で帰る人にとっては迷惑。関係者による時間配分の再点検を願いたい。


Last updated on Sep. 09, 2023.
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