9月19日OEK第445回定期公演PH

9月19日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第445回定期公演PH
指揮:川瀬賢太郎、ピアノ:菊池洋子
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 2021-2022定期公演開始最初の演奏会。若きマエストロ・川瀬賢太郎が、OEK、オ−ケストラ・アンサンブル金沢を指揮する。しかも、シューマンの珍しい《序曲、スケル ツォとフィナーレ》が演奏される。又、菊池洋子さんによるシューマンのピアノ協奏曲にも期待し、石川県立音楽堂へ出掛けた。

   コロナ禍の為であろう、ロビー・コンサートは無し。
 コンサート1曲目はメンデルスゾーン:序曲《美しいメルジーネの物語》。OEK弦楽5部は8-6-4-4-2の対向配置。Hrは2人、Tpも二人。Melsineとは『独話大辞典』小学館では「フランス伝説で海の精とされる女神」、『新仏和中辞典』白水社では「龍 尾裸体の女神」とある。兎に角、水の精だ。プログラムにある「さざなみのようなパッセージ」で開始された。中間部で「土曜日に、自分の姿を見ない」という約束で結婚をした部分がある筈なのだが、その箇所がどこかは不明。自分の姿を見ないで伝 説は『古事記』岩波文庫にもある。「伊邪那岐命、妹伊邪那美命を黄泉の国で相見むと欲ひて黄泉の国に追ひ往きき。しかし、伊邪那美命答へ曰す、『我をな視たまひそ』」と。勿論、「鶴の恩返し」にもある。さて、 音楽に戻ると、約束は破られ悲劇がもたらされるのだが、急にffに変わるのでもなく《フィンガルの洞窟》の様で、様ではなく、静かにpで終了した。
 2曲目は、シューマン:ピアノ協奏曲。独奏の菊池洋子さん、横縞の茶を基調にしたドレスで登場。以前は赤とか緑の単一色のドレスが一般的だった。所が、当夜NHKTVでシベリウスのヴァイオリン協奏曲が演奏されていたが、独奏者は斜め縞模 様のドレスで演奏していた。つまり、昨今は模様のドレスが流行しているようだ。さて、第1楽章はAlegro・affettuoso。affettuosoは伊語で「情愛のこもった」の意である。オーケストラの一撃に続いて、Pfが主題を演奏。中間部では、Cl前奏に続い てClとPfの対話が綺麗。カデンツアはpで開始。高揚し、tuttiに引き継がれる。断定的に念を押して終了。第2楽章はIntermezzo(Andantino grazioso)。graziosoは伊語で「優美な」の意。プログラムに在る「ささやくよ うな」感じ。中間部でVcが素晴らしいespressivo。菊池洋子さんは力強く流れるような技巧も披瀝。Attaccaで続く第3楽章Allegro vivaceは、大団円に向かって突き進む。Finaleはやはり念を押して終了。 アンコールは無し。その理由は後程分かる。

 休憩をはさんで3曲目は、ショパン:《アンダンテ・スピアナートと華麗なるポロネーズ》。spianatoは伊語で「なめらかな」の意。Tbが加わり菊池洋子さん再登場。Pf独奏で始まり、ショパン独特の「ピアノの詩人」的曲想で、最初はピアノソナ タ。その後Hrのファンファーレでポロネーズの開始らしい。ポロネーズのリズムを菊池洋子さんは華麗に演奏。マエストロ・川瀬も伸び上がって精力的に指揮。TbとHrのDuoでFinaleへ。高揚感を演出して終了。
 4曲目は、シューマン:《序曲、スケルツォとフィナーレ》。この曲は聞いたことのない曲だったが、これは凄かった。曲は3楽章の交響曲形式に作曲されている。第1楽章に匹敵する序曲は重々しいイントロで開始。短い序奏の後はシンコペーション の連続。曲は難しい。しかもリズムがアップテンポからa tempoとめまぐるしい。第2楽章スケルツォはテンポがしっかりしたスケルツォ。第3楽章フィナーレはOEKの演奏が壮大。緩徐部分も挿入され、Hrがフィナーレを告げ、難しいこの曲は終了した。 これを指揮したマエストロ・川瀬と一糸乱れぬ熱演を披露したOEK。OEK力作の一つであった。

 アンコールは松江公演で演奏予定のモーツァルト:ピアノ協奏曲第20番を、松江公演がキャンセルされたため「折角練習した曲なので第2楽章を演奏する」とのマエストロ・川瀬の弁。3度目の菊池洋子さん登場で、やはり暗譜で演奏。モーツァルト の綺麗さと菊池洋子さんの底力を示すアンコールであった。尚、若きマエストロ・川瀬賢太郎。余り演奏されない眠った名曲探しが旨い。彼のチャレンジ精神益々の発揚を念じたい。


Last updated on Sep. 19, 2021.
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