2月27日OEK第438回定期公演PH

3月18日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第440回定期公演PH
指揮:鈴木雅明
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 マエストロ・鈴木雅明オ−ケストラ・アンサンブル金沢再登場。しかも、「マサアキ・スズキ ベートーヴェン交響曲の世界6&5」と題するコンサート。ベートー ヴェン・シリーズである。バッハの鈴木雅明がベートーヴェンを如何に指揮するかに期待して石川県立音楽堂へ出掛けた。

   コロナ禍の為であろう、ロビー・コンサートは無し。
 コンサート1曲目はベートーヴェン:交響曲第6番《田園》。OEK弦楽5部は8-6-4-4-3の第1Vnと第2Vnの対向配置。VcとCbは舞台向かって左に配置。第1楽章はAllegro ma non troppo。抑制の効いたイントロで開始。この前NHKEテレの「クラシッ ク音楽館」でマエストロ・鈴木雅明がN響を指揮するのを聞いたが、がんがん壮大を旨とする指揮者だと感じた。しかし、今回は違う。田舎に着いた喜びを綺麗なPastoralとして抒情的に指揮。第2楽章Andante molto mossoは、小川のほとりの情 景が流麗に描写される。抑制的過ぎた感もあり、曲想が分かりにくい箇所もあった。だが、Cl、Fl、Obソロが効果的に、又「カッコウ」も二度華麗に挿入され、情景が目に浮かぶ曲想。第3楽章Allegroは珍しいFgソロも入る舞曲。ベートーヴ ェンの時代にFgは存在したのかとも思うが、バロック・Fgもあり、現代Fgについてベートーヴェンは所望したそうなので、彼の交響曲に使用されても可笑しくは無い。Tpも華を添え、Obソロも綺麗。嵐が近づいているようだ。Attaccaで第4 楽章Allegro。人気のTimp奏者による雷鳴が強烈。Tbも加わり抑制から解放される。Attaccaで第5楽章はAllegretto。伊語の接尾語-ettoは縮小の意味で、Allegroをやや遅くする。即ち、AllegroとAndanteの中間。聞いていてその違は分からな いが、とにかく牧歌の主題が提示され、変奏される。ベートーヴェンは好んだようでFgソロが重厚に奏でられる。FinaleはVnが主題を再現し終了。余韻も宗教曲的効果を醸し出し、素敵なPastoralに仕上がった。欲を言えば、抑制的過ぎた ようで、第1Vnをより全面に押し出してOEKストリングスの綺麗さを聞かせて欲しかった。しかし、Twitterでは、この《田園》が良かったともあるので、私の思い過ごしかもしれない。

 久しぶりの休憩を挟み、Tbが3人となった2曲目はベートーヴェン:交響曲第5番《運命》。さて「運命」だが、英語ではFate, 又はDestiny、仏語ではDestin、独語ではSchicksal。Schicksalは「神の摂理、天命」が第1義。従って、「運命」でも良いの だが、英・仏語のDestinyはラテン語のdestino、「決定する」が語源のようだ。昔 "You are my Destiny" という曲があったが、この日本語訳は「君は私の定め」であり、「君は私の運命」とは言わない。即ち、「運命」というよりは、「決定」 が適訳ではないだろうか。私は交響曲第5番《決定(けつじょう)》を提言する。さて、第1楽章Allegro con brioは《田園》とは異なり切れ味鋭く開始。Hrソロが決まる。マエストロ・鈴木はPastoralとの違を演出。中間部Obソロ。OEKのObは綺麗 だ。第2楽章はAllegro con moto。brioは、「活気」、motoは「運動」である。VaとVcによるイントロ。ffの前には、ためとしてしっかりpを挟む。マエストロはがんがんだけでは無い。中間部ではTpが冴え渡り、FlとClのDuoも綺麗。行進曲風に 終始し、終了。第3楽章はAllegro。有名なベートーヴェンのScherzo。ウィーンにおける最初の公演では笑われたそうだが、現代では違和感は無し。Vc、Cbが主役で、迷いを現しているようだ。ピッチカートも効果的に挿入され、Attaccaで第4楽章 Allegro - Prestoは勝利の瞬間。私は決めたのだ、難聴はあるけれど音楽家としてやっていくことを。この勝利の宣言が後のブラームスの交響曲第1番、チャイコフスキーの交響曲第5番に引き継がれるのである。Finale前にベートーヴェン得意のFg ソロも入り、怒濤の如き、そしてマエストロ渾身の「決定」で終了した。

 コロナ禍の所為であろう終演は20時50分だったが、アンコールは無し。壮大なスペクトルであった今回のOEKの演奏とマエストロ・鈴木雅明の指揮。これならブルックナーは無理としてもマーラーは演奏可能ではと感じさせる瞬間であった。OEK公 演プログラム再検討の到来ではないだろうか。


Last updated on Mar. 18, 2021.
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