3月21日OEK第427回定期公演PH

3月21日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第427回定期公演PH
指揮:マルク・ミンコフスキ、テノール:トビー・スペンス、ホルン:ヨハネス・ヒンターホルツァー
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 メンデルスゾーンのヴァイオリ協奏曲は「甘ちょろい」という人がいたが、今回はバーバーのヴァイオリン協奏曲。マエストロ・鈴木優人オ−ケストラ・ アンサンブル金沢を指揮し、川久保賜紀さんのヴァイオリン・ソロ。バーバーは現代感覚の持ち主である。バーバーのネオ・ロマンティシズムを確認するため石川県立音楽堂へ出掛けた。

   ロビー・コンサートはCbが加わった弦楽五重奏。1曲目はヴィヴァルディ:《オリンピアーダ》より第1楽章。2曲目はモーツァルト:《アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク》より第2楽章。1曲目は春らしく明るい曲だが、 Google検索ではミシェル・R.ヘイゾの吹奏楽とのことで、この曲の出典については不明。  
 コンサート1曲目はブラームス:セレナード第2番。第1楽章Allegro moderatoは、。OEK弦楽5部はVaとVcが入れ替わった8-6-4-4-2の対象配置。第2楽章Scherzo: Vivaceは、。第3楽章Adagio non troppoは、。第4楽章Quasi menuettoは、。第5楽章Rondo: Allegroは、。独奏ヴァイオリン川久保賜紀さんが加わる。彼女はひばり色のドレスで登場。 ひばりの鳴き声、即ち震えるような綺麗な音で開始。この奏法はヴィブラートとは異なり、細かい断続音奏法で、かなりのテクニックが必要。彼女はこの奏法で終始する。OEKとの協奏でも、プログラムにある「心安らぐ田園風景」 を連想させる。Hrが歌い、ffとpが繰り返され、フィナーレは彼女の弾く超高音で終了。絶品のヴォーン・ウィリアムズであった。
 コンサート2曲目はバーバー:ヴァイオリン協奏曲。川久保さんは連続の出演。PfとTpが加わる。第1楽章Allegroは、オーケストラの序奏なしにPfの和音に続いて彼女のVn独奏が始まる。この曲は、断続音奏法ではなくヴィブ ラート奏法。勿論彼女は使い分ける。曲想は現代曲であり、アメリカ的でもある。中間部はTp、Timpによる壮大なオーケストレーション。バッハ・コレギウム・ジャパン指揮者を父にもつマエストロ・鈴木優人は丁寧な指揮であり、 fffの高揚部分ではダイナミックに指揮をし、オーケストラを鼓舞する巧みなマエストロである。川久保さんの独奏ヴァイオリンにより静かに終了。第2楽章AndanteはObソロで開始。Hrから音を引き継ぎ、Vnソロが開始。抒情性 の濃い楽章。第3楽章はPresto in moto Perpetuo(伊、無窮動)。in motoは進める意であり、無窮動はラデツキー行進曲と同じく終わり無し。独奏VnとVaのDuoあり、壮大なfffの高揚感もある。Timpがここで止めようとコーダを告げ、 Vnが窮動、オーケストラは仕方がないと念を押して終了。哲学的要素はあまり感じられなかったが、アメリカ的、しかも情緒たっぷりの曲。川久保さんにより第1曲と第2曲を弾き分けた珠玉の協奏曲であった。

 休憩後はメンデルスゾーン:交響曲第4番《イタリア》。第1楽章Allegro vivaceは明るく、快活、イタリア的な第1主題で始まる。Hrの通奏低音に弦が歌う。中間部ではTpユニゾンが華を添える。Codaでは第1主題の再現、第2主 題で終了。第2楽章Andante con motoは一転して、弦のピッチカートを用いた哀愁を帯びた楽章。付点のリズムでチェコの巡礼歌に由来するといわれる。後述の如くメンデルスゾーンはイタリアのみならずヨーロッパを旅行してい る。第3楽章Con moto moderatoはスケルツォに近く、気品を保った楽章。Hrのファンファーレが何度も再現される。OEKにおけるHrセクションの面目躍如たるシーン。尚。付点のリズムはシチリアーノが原点であり、イタリア(ヨ ーロッパ)を代表するリズムとメンデルスゾーンは感じたようだ。第4楽章はSaltarello. Presto。サルタレロはローマやナポリで流行した民族舞曲らしいが、OEKによるおどろおどろしいイントロで開始。謝肉祭のイメージでもあ るらしい。Timpも盛り上げる。終曲前メンデルスゾーン:交響曲第3番《スコットランド》の主題がそっと挿入され、しかしここはイタリアだと再認識して終了。メンデルスゾーンは1830年から以後2年間にかけてヨーロッパ各地を 旅行、滞在した。交響曲第3番は1829〜1842年にかけて完成し、第4番は1833年完成だから、後者に前者のスコットランドの主題が引用されてもおかしくはない。

 アンコールは有名なバーバー:《弦楽のためのアダージョ》。プログラムには、「アメリカでは要人の葬儀などで使用される」とのこと。追悼の音楽は、曲が終わっても拍手をするのが憚れる程の哲学的アダージョであった。さて、 マエストロ・鈴木優人はお父さんと並び称される、いやそれ以上かもしれない指揮振り。バッハに拘らない、今後の演奏活動に期待したい。


Last updated on Feb. 20, 2020.
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