1月18日金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第80回定期演奏会

1月18日金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第80回定期演奏会
指揮山下一史
金沢歌劇座

酢谷琢磨

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 指揮者に帝王カラヤンのアシスタントを務めたマエストロ山下一史を迎えての金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会。ラフマニノフの交響曲第2番を演奏する。 マエストロが学生にどこまで要求し、学生がそれにどう応えるか。興味津々裡に金沢歌劇座へ出掛けた。

 ロビー・コンサートは舞台向かって右袖での弦楽五重奏。エルガー:《弦楽セレナード》第1楽章。エルガーは《威風堂々》でもお馴染みのように勇壮な曲の作曲家と思われがちだが、この曲は繊細。学生が丁寧に弾いて好感。
 さて、コンサート1曲目は、A. グラズノフ:《祝典序曲》。金大フィル弦楽5部は変則的11-10-6-11-5の通常配置。Vn(ヴァイオリン)席後方、Vc(チェロ)席後方に予備のVnとVcが置かれ舞台配置は万全。以前金大フィルがブルッ クナーを演奏したコンサートを聞いたことがある。そのとき金管は元気だが、Vcは少々物足りないと感じたことを記憶している。その為であろう、Vcは賛助者も含めて11人(2曲目は10人)。曲は堂々のファンファーレで開始。 すぐ叙情的になる。金大フィル弦楽は綺麗である。グラズノフは我がCDコレクションで交響曲第1番から第9番《未完》まで揃っているシベリウス世代におけるロシアの作曲家。中間部には民族音楽が挿入される。ロシアのフォーク ロアだろう。フィナーレ前のVc、Cb(コントラバス)のユニゾン、Vcのみのユニゾンも効果的。フィナーレはブラームス:《大学祝典序曲》にも通底する輝かしい曲想で終了。マエストロ山下一史の指揮は動作は小さいが的確な指揮 で学生を引張っているのが良く分かった。
 2曲目は、A. ハチャトゥリアン:組曲《仮面舞踏会》より抜粋。バレエ《ガイーヌ》の最終幕で用いられる《剣の舞》で有名なハチャトゥリアンの劇付随音楽。ハチャトゥリアンはバレー、劇付随曲を得意としたようだ。曲は4曲 抜粋される。1曲はワルツ。ロシアのワルツ、どこか物悲しい。ウィーンのワルツは優雅だが、この違いはどこからくるのであろうか。私はロシアのワルツはテンポが一定だが、ウィーンナーワルツはテンポに変化をもたせたためだと 思う。とにかく、マエストロ山下一史ものりのりで進行。3曲はマズルカ。Pic(ピッコロ)が先導する。マズルカは4分の3拍子を基本とする特徴的なリズムを持つ、ポロネーズと並んで有名なポーランドの民族舞曲。あまり3拍子の リズムを感じさせないマズルカ。1曲目のワルツは3拍子を誇張したワルツであったが、マズルカは違う。ショパンも書いている詩的なワルツだ。4曲はロマンス。抒情的。Tp(トランペット)ソロが綺麗。5曲はギャロップ。暴れ馬だ。 中間部にCl(クラリネット)ソロが入る。プログラムにある「音楽の疾走感」裡に終了。劇付随音楽だけに劇の内容が分からないと曲想を理解できないのだが、少々荒っぽさも感じさせる《仮面舞踏会》であった。

 休憩を挟んで、興味津々のラフマニノフ:交響曲第2番。第1楽章はLargo ; Allegro moderato。Vcで開始。金大フィルはコンサート1曲目、2曲目に比して練習量が多かったとも感じさせ中々良い。しかも、この交響曲はダイナミック ではあるが、単調な曲。これを40分聞かせる演奏手法は技術的に難しいものがある筈。これを飽きさせず聴かせる技量は素晴らしい。マエストロ山下一史の特訓の成果かもしれない。曲は、ff、pとアクセントを効かせて進行。中間 部のCl(クラリネット)ソロが効果的。第2楽章Allegro moltoは、弦楽が綺麗に歌い、Hr(ホルン)が主題を提示。金管の咆哮も素晴らしく、Glo(グロッケン)も華を添える。第3楽章はAdagio。Ob(オーボエ)にて開始。ロマンティ ックな緩徐楽章。コン・マス西尾百君のソロも流麗。Vc、Cbのピッチカートで静かにフィナーレ。第4楽章Allegro vivaceは、ffでのイントロ。グスターボ・ドゥダメル指揮ロスアンゼ ルス・フィルハーモニックを彷彿とさせる熱演。Codaも凄い高揚。プログラムには、ラフマニノフは交響曲第1番を作曲したが、「もし地獄に音楽学校があればラフマニノフははその学校の優等生に違いない」と書かれたとあるが、 「交響曲第2番はこうだ」と断定するかの如く、きっぱりと終了。室内オーケストラ・オーケストラ・アンサンブル金沢ばかり聴いていた私には、感動のラフマ ニノフであった。

 アンコールは無し。さて、命題「マエストロ山下一史が学生にどこまで要求し、学生がそれにどう応えるか」につては、マエストロは厳格に要求した。学生はそれに応えるため十分練習を積んだ。コンサート第1曲、第2曲の仕上が りに対して第3曲ラフマニノフの演奏がOne Teamになった原因はここにあると思われる。金大フィルは学生オーケストラのため団員の任期が限定されるという問題もあるだろうが、今後ともOEKにないプログラム編成に期待したい。


Last updated on Jan. 18, 2020.
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