11月28日OEK第422回定期公演PH

11月28日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第422回定期公演PH
指揮:川瀬賢太郎、ピアノ:津田裕也
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 若きマエストロ川瀬賢太郎がオ−ケストラ・アンサンブル金沢を指揮。室内版《展覧会の絵》に期待して石川県立音楽堂へ出掛けた。

 ロビー・コンサート1曲目は弦楽四重奏でマンフレディニー:クリスマス協奏曲(合奏協奏曲ハ長調)。Vcが通奏低音を担当し、さわやかなNoel。2曲目はご存じコレッリ協奏曲第8番《クリス マス》。シチリアーノによる付点が聖夜を印象ずける軽やかな演奏であった。
   コンサート1曲目は、ナッセン≪ムソルグスキー・ミニチュアーズ≫。ナッセンはOEKを指揮したことがある。これを知っていたのでマエストロは選曲したのだろう。第1曲は《紡 ぎ女》(スケルツィーノ)。Scherzoに〜inoが付くと「かわいらしいスケルツォ」の意。OEK弦楽5部は8-6-4-4-2の対象配置。糸紡ぎを表現したのだろう早いテンポの短い曲、第2曲は、《ゴ パーク》。Gopakは、「ウクライナ地方の高く飛びはねる民族舞踏;踊りの最中hop!という掛け声をかける」。即ち、土の香りを伝える民族色的で、Tpも加わり、短いが野趣に富み曲想で終曲。
 コンサート2曲目は津田裕也さん登場のショスタコーヴィチ:ピア協奏曲第2番。第1楽章Allegroは、Fgで始まる。すぐPfが加わりショスタコーヴィチ的。マエストロと津田裕 也さん共若いのだが、落ち着いた演奏。Timp連打の後かわいらしいカデンツァ。Codaは怒涛の終曲。第2楽章Andanteは、メランコリーを表すイントロの後Pfが抒情的に開始。ショパンらしさを 感じさせる津田裕也さんの演奏であった。Attaccaで続く第3楽章Allegroは、ショスタコーヴィチ風飛び跳ねるようなギャロップで開始。中間部で独奏ピアノ練習曲《ハノン》が挿入される。私 は《ハノン》は知らないのだが、Hanonは、フランスのピアノ奏者・教育家であり、Le pianiste-virtuose「ハノン教則本」の作者である。第2楽章の抒情と対照的ショスタコーヴィチ風で終始し、 圧倒的Codaで終了。上質なピアノ協奏曲に仕上がった。アンコールは、ショパン《3つのマズルカ》第40番。短いレント。津田裕也さんはやはりピアノ弾き。ショパンが好きなのだ。
 
 休憩を挟んで、3曲目はムソルグスキー(J. ユー編曲)≪展覧会の絵ー室内オーケストラのための≫。何故ムソルグスキーかというと、マエストロはプレトークで言っていたように、今年は ムソルグスキー生誕180年だそうだ。最初のプロムナードはTpではなく、VaとXyl(木琴)で開始。華やかさには欠けるが、異質とまでは言えない。続く「こびと」はノームの叫び、痙攣を表している。 ウィキペディアによればノーム(ギ、genomos)は地の精、すなわち土の精を表すそうだ。 プロムナードに続いて「古城」Vc、Tbソロが入り幻想的。弦楽合奏によるプロムナードの後「チュイルリーの庭」。Glo(グロッケンシュピール、鉄琴)が公園で遊ぶ子供達を描写。プロムナー ドの後「ビドロ」。ビドロはポーランド語のbydlo(牛車)であるが、プレトークでマエストロが言っていた通り「牛のように虐げられた人」の意味がある。従って、FgとCbによる引きずるよ うな、苦しそうな演奏。VaとXylによるプロムナードに続いて、「殻をつけたなひなの踊り」。Xylが愛らしいひな鳥を表現。再びVaのプロムナードの後「サミュエル・ゴーデンベルグとシュムイ レ」。金持ちのサミュエルと貧しいシュムイレらしい。ClとCb。この辺りからどの絵を演奏しているのか怪しく成ったのだが、市場における女性のおしゃべり「リモージュの市場」。怒りの日を 表すかのような「カタコンブ」。カタコンブ(伊、catacombe)はローマの共同墓地。続いて、「バーバヤーガの小屋」。人間を襲って食うロシア版ヤマンバ。ロシア語バーバ(баба、おかみ さん、おばあさん)と日本語のバーバが共通するのも面白い。打楽器による種々の音色が悪行を表す。pでのVa演奏によるプロムナードの後、終曲「キエフの大門」。キエフの大門はウクライナ (建国当時はキエフ公国)の首都キエフの中央門であり、1982年土に埋まっていた黄金の門は復元されたそうだ。この門を終曲に持ってくるのは壮大な賛歌といえる。しかし、今回の室内版《展覧会の絵》は交響楽団が演奏 する壮大さには及ばず、物足りなさを感じた次第。但し、室内オーケストラとしては、もの足り過ぎた演奏だったのかもしれない。

 アンコールは無し。マエストロ川瀬賢太郎は丁寧な指揮を披露したのだが、選曲が今一だった。ショスタコーヴィチの協奏曲は絶品だったのだから、今後の選曲には室内楽団もしくは交響楽団 に徹したプログラムを選ぶべきなのだろう。2020年7月の定期に期待したい。


Last updated on Nov. 28, 2019.
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