9月22日OEK第419回定期公演PH

9月22日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第419回定期公演PH
指揮:ユベール・スダーン、ヴァイオリン:辻彩奈
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 オ−ケストラ・アンサンブル金沢プリンシパル・ゲストコンダクターのマエストロ・ユベール・スダーン再登場による、モーツァルト、ベートーヴェンコンサート。モ ーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番≪トルコ風≫に期待して石川県立音楽堂へ出掛けた。
 ロビー・コンサートはモーツァルト:≪ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲≫第1楽章。VnにVcが協調し、素敵なハーモニーを醸し出す。OEK団員の力量が推し量られる、素晴らしいDuoであった。
 
 コンサート1曲目は、モーツァルト:歌劇≪後宮からの逃走≫序曲。このオペラの筋は、ウィキペディアに よれば、主人公ベルモンテが召使ペドリッロの助けを借りながら、恋人のコンスタンツェをトルコ人の太守セリムの後宮(ハレム)から救い出すというもの。オスマン・トルコのウィーン包囲後、トルコによるオーストリアへの軍事的な脅威はな くなったばかりだったが、トルコへの刺激的な関心は残っていた時代であったようだ。従って、このオペラにはトルコ音楽が含まれる。モーツァルトは以前の作品にもトルコ音楽を採用したことがある。これは、2曲目のヴァイオリン協奏曲 第5番≪トルコ風≫にも描かれているとのこと。本日はオスマン・トルコがテーマだ。OEK弦楽5部は8-6-4-4-3のVaとVcが入れ替わった通常配置。打楽器は舞台向かって左。最初からトルコ風シンバルが入る。叙情的第2主題を経て、再びトルコ 的。オペラでの序曲は静かに終わり第1幕に繋がるのだが、序曲のみの場合はCresc.で終了。

 コンサート2曲目は辻彩奈さん登場の、モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番≪トルコ風≫。辻さんはマゼンタ色の鮮やかなドレスで登場。OEKはCbが2となり、木管・金管はClとHrのみ。第1楽章はAllegro aperto。序奏の後、辻さんのVn、ゆっ くりしたテンポで開始。高音域が綺麗なヴァイオリンである。フィナーレ前にはカデンツア。これが凄かった。誰の曲かは分からないのだが現代的。モーツァルトの曲は勿論クラシカルな名曲だが、そこに現代的、ダイナミックさが付加されたから 鮮烈な印象。第2楽章Adagioは夢見心地の進行。中間部では、VcとCb無し、即ち高音弦のみの箇所もあったが、これも綺麗。カデンツアはドボルザーク風 いやバルトーク風でこれも現代的。第3楽章はRondeau. Tempo di Menuetto。テンポが速く なる。中間部で御存じ童謡≪黄金虫≫が挿入される。短いカデンツアの後、プログラムによる「機知に富み」終了。辻さんの熱演であった。アンコールはバッハ:無伴奏ヴァイオリン パルティータ第3番ガボット。聞いたことのある、難しそう な曲だが、辻さんは難なくこなす。バッハも上手い。彼女はどちらかというと、オーケストラと協奏曲を協演するより、ソロに秀でたヴァイオリニストとの印象を持ったのは私だけであろうか。

 休憩を挟んで、3曲目はベートーヴェン:交響曲第7番。Cbは再び3。Fl、Fg、Ob、Tp3が加わる。第1楽章Poco sostenuto - VivaceはFlが先導、Clがリード。中間部は金管が咆哮。Cl、Flのソロが綺麗。マエストロ・スダーンの指揮は緻密で的 確。OEKは熱演である。第2楽章Allegrettoは、pで行進曲風に開始。Cresc.での高揚ーpを繰り返す。第3楽章Prerstoはスケルツオ。マエストロ・スダーンの指揮はかなり速い。ffによるOEKの演奏は交響楽団風で、素晴らしい。主題が戻り、終 了。第4楽章はAllegro con brio。4連符が4回、プログラムにある16ビートで開始。Tpの重厚な音。但し、ただ無闇にがんがん演奏するのではなく、pも間に含み、マエストロ・スダーンによるコントロールの効いた演奏。フィナーレはダイナミックに、しかも熱情的 に終了。

 アンコールはベートーヴェン:トルコ行進曲(≪アテネの廃墟≫より)。ベートーヴェンもオスマン・トルコ風の曲を書いている。アテネの廃墟は勿論トルコによる侵略を表しているのだが、いずれにしても本日のテーマはトルコであった。オラン ダ・マーストリヒト生まれのマエストロ・スダーン。ヨーロッパではトルコの脅威があった歴史を知る指揮者であり、これを教えるコンサートでもあった訳だ。


Last updated on Sep. 22, 2019.
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