7月18日OEK第416回定期公演PH

7月18日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第418回定期公演PH
指揮:パトリック・ハーン、ピアノ:辻井伸行
トランペット:ルシェンヌ・ルノダン=ヴァリ
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 l 辻井伸行(ピアノ) l ルシェンヌ(トランペット) lと題するコンサート。若手の指揮者マエストロ・パトリック・ハーンがオ−ケストラ・アンサンブル金沢を指揮する。 辻井伸行さんとルシェンヌさんによるショスタコーヴィチに期待して石川県立音楽堂へ出掛けた。
 ロビー・コンサートはグリエール:≪ヴァイオリンとチェロのための8つの小品≫よりだったそうだが、北陸大雨のため電車が18分遅れて聞けずじまい。残念。
 
 コンサート1曲目は、バルトーク:≪ディヴェルティメント≫。ディヴェルティメントは嬉遊曲(喜遊曲、きゆうきょく)とも訳され、ハイドン、モーツァルトでお馴染み。 即ち、ハンガリー風喜遊曲だ。弦楽のみで、OEK弦楽5部は8-6-4-4-2の対象配置。第1楽章はAllegro non troppo。イントロではfとpが繰り返され、色彩豊かに進行。指揮のマエストロ・パトリック・ハーンは若々しく、しかも精力的な指揮。OEKもそ れに良く応えている。第2楽章Molto adagioは、「夜の音楽」。第1Vnのイントロが綺麗。静かなppでの曲想に時々fが挿入されるが、綺麗なppに飲み込まれる。フィナーレも優しくpで終了。第3楽章Allegro assaiは舞曲風。ヤングさんのソロあり、 プログラムにある、Cbによる「弦を指板にパチンとぶつけるバルトーク・ピッチカート」ありで多彩。ハンガリ民族主義とモダニズムの融合でフィナーレ。
 コンサート2曲目は、ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番。OEKはこの曲も弦楽のみ。辻井伸行さんのPfとルシェンヌさんのTpが登場。ルシェンヌさんは黒のミニワンピースだ。Twitterでは「裸足で登壇」との投稿があっ たが、とにかく脚線美の美人・天才トランペッター。第1楽章はAllegro moderato-Allegro vivace Allegretto-Allegro-Moderato。この曲は、1933年に書かれ同年初演されたそうだが、ラベルのピアノ協奏曲をジャズっぽくしたような曲想。ラヴェ ルのピアノ協奏曲(1931完成、翌1932年初演)に影響されたように感じるが、詳細は不明。辻井伸行さんのモーツァルトは良く聞くが、ショスタコーヴィチは初めて。盲目のピアニストには困難と思われる曲を難なく、しかもたっぷりと弾く。流石で ある。中間部でルシェンヌさんのTpが開始。柔らかく、しかも暖かい音である。Twitterでは「単に楽譜通りに吹くのではなく、曲想にあった演奏」とあったように出過ぎることは無く、それでいて自己主張は忘れない。ベートーヴェン≪熱情≫ソナ タから借用したテーマも中々良い。第2楽章はLento-Piu mosso-Largo-Lento。イントロはVnの綺麗なメロディーで始まる。中間部にソロ(カデンツア)がある。辻井伸行さんは素晴らしいソロを披露。盲目とは思えない。その後、ルシェンヌさんのTp。 今度はもの悲しい。第3楽章Moderatoは、ピッチカートで開始。短い楽章。Attaccaで続く第4楽章はAllegro brio-Presto-Allegretto poco moderato Allegro con brio-Presto。ショスタコーヴィチ風に戻る。Tpソロがあるが、プログラムによると 「イギリスのわらべ歌Poor Mary」の引用とのこと。後半はPfとTpによる文字通りのcon brioでフイナーレ。圧巻のショスタコーヴィチであった。アンコールは、ガーシュイン:前奏曲第1番。二人のDuoが心地よく響いたアンコールであった。

 休憩を挟んで、3曲目はチャイコフスキー:≪弦楽のためのセレナード≫。≪弦楽のためのセレナード≫はドボルザークも作曲しているが、チャイコフスキーの≪弦楽のためのセレナード≫は、彼の交響曲を彷彿とさせるドラマチックな作品であり、チャイ コフスキーが敬愛の念を絶やすことのなかったモーツァルトへのオマージュと云われている。イントロ主題は、チャイコフスキーが4手のピアノ曲用に編曲した≪50のロシア民謡集≫の引用だそうだ。これを繰り返す間奏にVcによる「ドレミファ ソラシド」が入る有名な楽章。ロシアの広大な大地を表している様だ。OEKも少ない人数にしてはボリュームある演奏。但し、単にがんがん演奏するだけではなく、pに落とす処はマエストロ・ハーンはしっかりと指示。OEKの反応も良い。第2楽 章はValse. Moderato. Tempo di valse。私の持っているCDの解説によれば、「メヌエットではなく、ワルツである。それはライラックの香りにあふれたウィーンのワルツではなく、セピアながらも、そのなかに大きなエネルギーと情熱を潜めて いるロシアのワルツ」。成程、ウィンナー・ワルツの流麗さに比較して少々泥臭いロシアのワルツである。第3楽章はElegia. Larghetto elegiaco。Elegiaはイタリア語で「哀歌、悲歌」。elegiacoはその形容詞「悲歌の」の意味。従って、 Larghetto elegiacoは「悲歌のラルゲット(ラルゴよりやや速く)の意。Vcのピッチカートに他弦楽が悲歌を表現。フィナーレはppで静かに終了。第4楽章はFinale. Tema russo. Andante - Allegro con spirito。一転して明るく、喜び溢れたTema russo。即ち、ロシアの主題が登場。悲しみを乗り越えたのだ。Codaでは導入主題が回帰し、con spiritoに相応しく熱情裡に終了。OEK弦楽部門の熱演であった。

 アンコールはチャイコフスキー:≪ポルカ≫。ヨハン・シュトラウスの≪ピッチカート・ポルカ≫は全曲ピッチカートなのだが、チャイコフスキーの≪ポルカ≫はピッチカートと弓での演奏が頻繁に交互するポルカ。演奏にはテクニッ クを要すると思える曲。OEKはこれも綺麗に演奏。圧巻であった。さて今回のプログラムは全曲弦楽のみの構成となったのだが、マエストロ・ハーンはfとpとのアクセントを効果的に使う色彩豊かな指揮者である。次回は木管・金管を加えたオー ケストレーションを聞きたいと思ったのは私だけであろうか。


Last updated on Jul. 18, 2019.
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