3月17日OEK第401回定期公演PH

3月17日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第401回定期公演ME
指揮:井上道義、ピアノ:反田恭平
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 マエストロ・井上道義によるオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)音楽監督としての金沢最後の定期公演。プ−ランク:「オ−バード(朝の歌) 」、ハイドンの交響曲「朝」、「昼」、「晩」とマエストロらしいプログラム。3月16日朝日新聞石川版で、『OEK井上監督最後の定期公演』と題して「11年かんとくをやって、一番最初に戻って終わりたい気持ちが強かった」とのマエストロのコメンが紹介されている。即 ち、最後の定期公演が「朝」、「昼」、「晩」では少し寂しい気もするが、マエストロ初心に戻っての最終公演のようだ。興味津々として石川県立音楽堂へ出掛けた。

   ロビー・コンサートは、OEKカンタ(イタリア語でCantoは歌)さんによる、コダーイ:無伴奏チェロソナタより1・2楽章。途中から聞けたのだが、左手によるピッチカート(左ピッチカートということがNHK-FMを聞いていて分かった)もあり、カンタさんのテクニックの凄さを感 じさせる熱演。演奏会最後にマエストロ・井上道義により紹介されたのだが、カンタさんも定年で、本定期公演が最後とのこと。カンタさんの後継奏者が決まっているのか心配。カンタさん以上の新奏者就任に期待したい。
 さて、コンサート1曲目は、プ−ランク:ピアノと18の楽器のための舞踏協奏曲「オ−バード(朝の歌)」。ウィ キペディアによれば、「森に住む純潔と貞節の女神ディアーヌ(ギリシャ神話のアルテミス、ローマ神話のディアナ)は、自ら定めた神の掟によって恋をすることができず、夜明けのたびに悲しい思いをする」という幻想的な筋書きだそうだ。切れ目なく演奏されるが、下 記の如く10のセクションに区切ることができるとのこと。

1.トッカータ(Toccata)Lento e pesante ? Molto animato
2.レチタティーヴォ、ディアーヌの仲間たち(Recitatif - Les compagnes de Diane) Larghetto
3.ロンド、ディアーヌと仲間たち(Rondeau ? Diane et compagnes) Allegro
4.ディアーヌの入場(Entree de Diane) Piu mosso
5.ディアーヌの退場(Sortie de Diane) Ceder un peu
6.ディアーヌの身支度(Toilette de Diane) Presto
7.レチタティーヴォ、「ディアーヌのヴァリアシオン」への序奏(Recitatif ? Introduction a la Variation de Diane) Larghetto
8.アンダンテ、ディアーヌのヴァリアシオン(Andante - Variation de Diane) Andante con moto
9.ディアーヌの絶望(Desespoir de Diane) Allegro feroce
10.ディアーヌの別れと出発(Adieux et depart de Diane) Adagio

OEKはヴィオラ(Vla)2、チェロ(Vc)2、コントラバス(Cb)2、フルート(Fl)2、オーボエ(Ob)2、クラリネット(Cl)2、ファゴット(Fg)2、ホルン(Hr)2、トランペット(Tr)、ティンパニー(Timp)、並びにピアノ(Pf):反田恭平さんの布陣。冒頭にはHrとTrによる多少風変りなテーマが演奏され る。Clソロによる日の出を思わせるイントロの後、反田恭平さんのPfソロが快速演奏。朝のイメージとは隔絶した曲想だが、これがプーランク。切れ目なく進行するので、どのセクションかは不明なのだが、途中ジャズっぽくなる。動物の鳴き声らしき音楽もあり、その後Flによ る綺麗なメロデー。Fg、Obソロが続き、一転アップテンポ。Hrのユニゾン、カンタさんのVcソロに続き、フィナーレは反田恭平さんのPfによるスタッカートで瞬間的に終了。朝の歌にしては騒々しい曲想である。しかし、これもフランス的洒脱なのであろう。ソリスト反田恭平 さんによるアンコールは、モシュコフスキー:15の練習曲Op.72より第6番。彼はプログラム記載のロシア、イタリアでの略歴が凄い如く、相当なテクニシャンだ。じっくりラフマニノフを聞いてみたいソリストである。今後OEKとの共演に期待したい。

 休憩を挟んで、2曲目は、ハイドン:交響曲第6番「朝(Le Matin)」。OEK弦楽5部は8-6-4-4-2の対象配置。第1楽章Adagio - Allegroは日の出を思わせるイントロ。続いてFlによる主題。今日もFlは忙しい。中間部でマエストロが身を屈めてppの指示。これにOEK奏者も素早 く反応する。OEKの進歩の跡が窺える。第2楽章Adagio - Andanteは、ソリストクラスであるヤングさんのVnとカンタさんのVcによる掛け合いが綺麗。第3楽章Menuet - Trioでは、FgとCbの掛け合いが心地良い。第4楽章Finale(Allegro)はヴィヴァルディ風。ヤングさんのPf とFlソロが綺麗。マエストロ・井上道義の胸を張った凛々しい指揮が印象的。彼もOEK音楽監督11年間を振り返っていたのだろう。フィナーレはハイドン的華麗さの裡に終了。
 3曲目はハイドン:交響曲第7番「昼(Le Midi)」。第1楽章Adagio - Allegroは、マエストが言うには衛兵の交代を表している様だ。やはりヤングさんとカンタさんのDuoが光る。第2楽章Recitativo(Adagio)は、カデンツァ的で物憂い昼下がりをヤングさんのVnが演出。第3 楽章はMenuet - Trio。Hrのユニゾンが決まる。第4楽章Finale(Allegro)の主役はFl。プログラム解説によれば「上機嫌」で終了。
 4曲目は同じくハイドン:交響曲第8番「晩(Le Soir)」。第1楽章はAllegro molto。今度はObソロが快活。第2楽章Andanteは、カンタさんのVcが歌う。第3楽章はMenuet - Trio。プログラム解説には、「とぼけたユーモアを滲ませた」とある。Hrのユニゾンがとぼけた味 を出し、続く首席Cb奏者マルガリータ・カルチェバさん(彼女も退団するそうだ)のソロも妙味を醸し出す。第4楽章はLa Tempesta(Presto)。Tempestaはイタリア語で「嵐」。VnとVcで嵐の前触れ。その後、日本で嵐は「ピープー」だが、「ピーイ」という嵐の音が繰り返される。イギリスの嵐なのだろう。嵐も収まって終了。金沢でのマエストロ最終公演は喝采 の裡に終了した。スタンディング・オベーションで別れを惜しむ聴衆の姿も。感動の金沢最終定期公演であった。

 アンコールは、武満徹:3つの映画音楽よりワルツ。聞いたことがあるような綺麗なワルツであった。さて、マエストロ・井上道義は本年3月でOEK音楽監督を辞任する。OEKをここまでに育て上げた彼の功績は偉大である。本日のプログラムのキーワードは「朝」であった訳 だが、ハイドンの「朝」はマエストロがOEK音楽監督就任時最初に選んだ曲らしい。正に「Retour au debut(初心に帰れ)」を意図した惜別の辞でもあった訳だ。私は第398回定期公演MEにおけるヒンデミット:交響曲「画家マティス」が忘れられない。音楽監督辞任後も時に はOEKを指揮する機会を持って欲しいものだ。マエストロのご健勝を祈りたい。


Last updated on Mar. 17, 2018.
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