2月3日OEK第398回定期公演PH

2月3日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第398回定期公演PH
指揮:井上道義、チェロ:アレクサンドル・クャーゼフ
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 マエストロ・井上道義オ−ケストラ・アンサンブル金沢を指揮する、「ドイツ、音楽の街」と題する定期公演。私はフィルハーモニー・ シリーズ会員なのだがこのマイスタ・シリーズは逃せない。スターライト席を入手し、期待に胸を含ませ石川県立音楽堂へ出掛けた。

   プレ・コンサートは、シュニトケ:2つのヴァイオリンのための[Moz-Art]だったそうだが、電車が4分遅れたため聞けずじまい。残念。
 さて、コンサート1曲目は、ヒンデミット:序曲「エロスとプシュケ」。本日の4曲目交響曲「画家マチス」の前奏曲といえる。素人の作曲か、それとも現代曲の大家の曲か良く分からない曲想で始まる。OEK弦楽5部は 10-8-6-6-4の対象配置。從って、音量はフィルハーモニー・クラス。しかし、バレー曲を目指したが結局序曲だけ完成された曲とのことで、開始はホルンの奇怪な音階。オーボエ・ソロ、フルート・ソロは綺麗に進行したが、 つかみどころのないままpで終了。4曲目のヒンデミット:交響曲「画家マティス」が思いやられたのだが、これは壮大な4曲目のフィナーレで打ち消されることになる。
 2曲目は、アレクサンドル・クャーゼフ(ALEXANDER KNIAZEV)さん登場のショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番。OEK弦楽5部は協奏曲だけに従来の8-6-4-4-2の対象配置に縮小。第1楽章Allegrettoは、いきなりクャーゼフさんのチェロによる アクの強い「ひょうきんな行進曲」。クラリネットとチェロのDuoが綺麗。マエストロ・井上道義もノリノリ、ffで終了。第2楽章Moderato - attacca:は弦で開始。チェロが高音でせつないメロディを歌う。クャーゼフさんは緩 徐楽章のビブラートをきかした演奏も上手い。特にAttacca前は武満徹風不思議な音階で異次元へ誘う。Attaccaで続く第3楽章はCadenza - attacca:。Cadenzaで1楽章を構成するのは珍しい。ピチカートがアクセントとなり、 後半は正にクャーゼフさんの超絶技巧。Attaccaで続く第4楽章、Allegro con motoはフルート・ソロで開始。今日のプログラムではフルートが大活躍。私の持つCDの解説を借りれば「歪んだ行進曲が子供部屋の中を走り抜ける」 イメージで進行。後半はショスタコーヴィチらしいメロデーで、マエストロ・井上道義の踊りも華を添える。チェレスターの演奏、ホルン・ソロもあり、高揚の裡に突然終了。圧巻のショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番で あった。アンコール1曲目は、バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番ジーグ。バッハらしくない曲で、誰の曲かと思っていたところバッハ。2曲目は、同じくバッハ:無伴奏チェロ組曲第1番プレリュード。この曲は良く聞く曲。 クャーゼフさんは弾きなれているらしく、いとも簡単に演奏する。彼のバッハも素晴らしかった。

 休憩を挟んで、3曲目はメンデルスゾーン:八重奏曲。実はコントラバスが加わって九重奏もあるのだが、今回のOEKはきっちり弦楽4部2人ずつ、チェロを除いて起立での演奏。第1ヴァイオリン1はベルリン・フィルのゲス ト・コンサートマスター町田琴和さん。マエストロ・井上道義の指揮は無し。第1楽章Allegro moderato ma con fuocoは「火」のような曲と思いきや比較的穏やかに、しかも清澄に進行。中間部は悲劇的要素が加わり、フィナー レ前で「烈火」が現出。第2楽章Andanteはビオラで開始。この楽章はビオラ1、ビオラ2が活躍する悲劇的な緩徐楽章。音階は変ホ長調である。第3楽章Scherzo(Allegro leggierissimo)は長調らしく軽快に進行。第4楽章Presutoは チェロで開始。町田琴和さんのソロも綺麗。ベートーヴェン的フーガを経て、曲は流麗に終了。「室内オーケストラ定期公演に指揮者不在の八重奏曲は相応しいか」はさておき、オーケストラ団員でいとも簡単に八重奏曲を演奏でき るOEKを褒めた方が良さそうだ。
 4曲目はヒンデミット:交響曲「画家マティス」。OEK弦楽5部は再び10-8-6-6-4の対象配置。ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ1の豪華布陣。第1楽章(Engelkonzert、天子の合奏)Ruhig bewegtは、キリス ト降誕の情景。第2楽章(Grablegung、埋葬)Sehr langsamはビオラで開始。 墓の中で横たわるキリストのイメージらしい。第3楽章(Versuchung des heligen Antonius、聖アントニウスの試練)はSehr langsam, frei im Zeitmass - sehr lebhaft。聖アントニウスは、ウィキペディアによれば「財産を貧しい者に与え、自らは砂漠に籠もり苦行生活に身を投じる。町での説教で心を打たれた修道僧らと 開いたのが修道院の始まりだ」という。但し、「聖アントニウスらが建てたのは、砂漠での修業小屋や、孤島や岩山に建てた周囲から結界している修道院であり、聖アウグスティヌスのヒッポの町のなか、キリスト教徒地区の一角 にあった修道院とは異なる(出村和彦:『アウグスティヌスー心の哲学者』岩波新書、2017)そうだ。さて、第3楽章第1部は凶暴な怪物に取りつかれた聖者。フルートがその救済を演奏。 チューバ・ソロもある。一転して穏やかな第2部は「秘儀をさずかるために隠者パウルのもとを訪れるアントニウス」だ。チェロのユニゾンが綺麗。勝利への歓喜を金管楽器が壮大に奏で、Finale。OEK第1回定期公演を知 る私にとっては、正に隔世の感を覚える雄大な交響曲に仕上がった。

 懸念されたように4曲目終了が16時20分過ぎとなり、アンコールは無し。久し振りのマエストロ・井上道義登場。彼は今年の7月OEK音楽監督を辞任する。OEKをここまでに育て上げた彼の功績は偉大である。本日のプログ ラムは正に惜別の辞と思えてならない。辞任後も時々OEKを指揮する機会を持って欲しいものだ。マエストロ・井上道義のご健勝を祈りたい。


Last updated on Feb. 03, 2018.
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