11月5日OEK第383回定期公演PH

11月5日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第383回定期公演PH
指揮・井上道義、ピアノ:イェルク・デームス、
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 『「ウィーンの三羽烏」の巨匠デームスのベートーヴェン。井上道義 ビゼーが描く、子供の世界&南フランスの音楽』と長いタイトルのオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演。武満徹もさることながら、ナッセン:レクイエム(スーのための歌)、ブラームスの「セレナーデ第1番」に期待して石川県立音楽堂へ出掛けた。

   プレ・コンサートはヴァイオリンとチェロのDuo。ヴィヴァルディ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタOp.2-6。緩-急-緩のヴィヴァルディらしい爽やかな 曲。OEKの奏者は誰が出ても室内楽を演奏できる。特に弦楽部門は素晴らしい。OEKの実力を示す所以である。
 さて、コンサート1曲目は、スクリャーピン/ナッセン:「スクリャーピン・セッティング」。OEK弦楽5部は8-6-4-4-2の通常配置。第1曲欲望はけだるさを感じる。 第2曲ニュアンスはフルート、クラリネット、ホルンが主役。第3曲は、舞い踊る愛撫とあるが私には軽やかに聞こえた。第4曲は半音階らしい。不思議な曲想。 第5曲謎はプログラムにある通り奇想曲(Capriccio)風。突然短い「スクリャーピン・セッティング」は終了した。

 2曲目は、武満徹:「トゥリー・ライン」。Tree lineは、Timberlineに等しく「(高山または北極・南極の)高木限界線、樹木限界線」とあるが、プログラムでは、 「アカシアの並木」とある。長野県御代田のアカシアは樹木限界なのだろう。奏者は、弦楽5部各一人、木管、金管はトランペットとホルン、ハープ、ピアノ及びオ ルガンというセッティング。曲は雅楽でもない不思議な音楽で、静かに開始。Crescendoしてオーボエ・ソロの後オーボエ奏者は退席。クラリネット・ソロをコーダに静か に終了後、退席したオーボエ奏者は舞台に復帰。何を意味するのか?武満徹音楽は難しい。

 3曲目はソプラノ:クレア・ブースさん登場。ナッセン:レクイエム(スーの歌)。スーとは53歳で亡くなったオリヴァー・ナッセンの妻スーのことらしい。楽器 編成は、フルート2、クラリネット2が前列左。前列右には、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1という配置。クレア・ブースさんは英語のテキストIs it true, dear Sue? で始まる歌詞を清楚に歌唱。13行目のAs quiet as the Dew - she droptのDewが大文字。drops of dewは、「露のしずく」という意味。従って、「露のしずくの如く静 かだ」を表していると思う。但し、大文字Dewについてはthe dewの意味とのことで、スーの露だ。レクイエムは進行し、スペイン語Ya el tiempo para el no correria (もはや男にとって時間は動いていなかった)辺りまではついていけた。しかし、その後はフルートとクラリネットの音量に負けて歌詞が聞き取りにくく、コーダのドイツ 語der anbricht・・・(まるで夜明けのように)は追跡不可能裡に終了。伴奏が大き過ぎた原因は、ゲネプロ時フルートとクラリネットは後ろの席で演奏したのだが、本 番では前へ出た所為だと思う。穿ち過ぎかな。

 休憩を挟んで4曲目は、ブラームス:セレナード第1番。6楽章ある。セレナードはシューベルトの窓辺で歌う恋の歌ミファミラーミ♪を連想するのだが、 ウィキペデイアによれば、『口語に残っている「セレナーデ」も、親しい相手や、その他の称賛すべき人物のために、夕方しばしば屋外で演奏される音楽を指す。 このような意味によるセレナーデは、中世もしくはルネサンスにさかのぼり19世紀までにセレナーデは演奏会用の作品に変質し、戸外や儀礼とほとんど無縁になった。 ブラームスの2つのセレナーデは管弦楽曲であり(ただし第1番は当初は室内楽編成だった)、管弦楽法に習熟するための、いわば交響曲の習作だったといっても差し 支えない』とあり、本来の意味から逸れてきたようだ。OEK弦楽5部は8-6-4-4-2でヴィオラとチェロの位置が入れ替わる。第1楽章はAllegro molto。ホルンで開始、好調だ。 中間部には弦楽によるの綺麗なメロデーが挿入されている。やはりセレナード本来の意味も表現されている。第2楽章はScherzo: Allegro non troppo。ここで冷房が入る。 ホルン、クラリネット、オーボエによるカノン風。第3楽章はAdagio non troppo。フルート・ソロとホルン・ソロが優雅。次いで、圧巻であるクラリネットとファゴッ トのDuo。第4楽章Menuetto T - Menuetto Uにも、クラリネットとファゴットのDuo。これはブラームスが好む音楽、大学祝典序曲もそうだ。楽章末に第1ヴァイオ リンのユニゾンが有り、、これも綺麗。第5楽章Scherzo: Allegroは、ホルンのイントロにトランペットが続く。第6楽章Rondo: Allegroは、プログラムにある飛び跳 ねるような、しかもステップ踏むような軽やかさ。一旦pに落としCrescendo。「ため」を作って力強く終了。ブラームスは交響曲だけではない。セレナードも素晴らしい。

 アンコールは丁度9時終了の所為か無し。さて、マエストロ・ナッセンは淡々とした指揮ながら、OEKの魅力を充分に引き出してくれた。OEKの更なるレベルアップ にはSalzburger Festspiele等での更なる国際デビューが必要。実現して欲しいものだ。


Last updated on Oct. 21, 2016.
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