9月17日OEK第380回定期公演PH

9月17日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第380回定期公演PH
指揮・ウラディミル・アシュケナージ、ピアノ:ジャン=エフラム・バウゼ
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 「アシュケナージ×バウゼ」と題するオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演。 マエストロ・アシュケナージの丁寧な指揮もさることながら、バウゼによるモーツァルトのピアノ協奏曲も楽しみ。OEKの新シーズンに期待して石川県立音楽堂へ出掛けた。

   プレ・コンサートはフルートとヴァイオリンのDuo。モーツァルト:オペラ「魔笛」より、「可愛い娘か女房か」、「愛の喜びは消え」、「私は鳥刺し」。フルー トとヴァイオリンのDuoも中々のものである。ソナタとしてはフルートとピアノが一般的だろう、そうだ、プレ・コンサートではピアノは聞いたことが無い。即ち、 ロビーでピアノ演奏はできないのだ。とすれば、珍しいものを聞けた訳である。
 さて、コンサート1曲目は、プロコフィエフ:交響曲第1番「古典」。OEK弦楽5部は8-6-4-4-2の通常配置。マエストロ・ウラディミル・アシュケナージは間髪を 入れず開始する等元気だ。第1楽章Allegroは、ffのみでなく、ffからppへとアクセントを効かせた演奏で開始。短い楽章を颯爽と風を切り終了。第2楽章Larghetto は緩徐楽章。レスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア」を連想する曲想。第1ヴァイオリンの高音、ファゴットのユーモラスな音が魅惑的。第3楽章 Gavotta (Non troppo allegro)はハイドン風。「古典」の名に相応しい。第4楽章はMolto vivace。一転してUp tempo。中間部のフルート・ソロが綺麗。華麗に終 了した。この前効いたN響と比較すると、異なるカテゴリーでのそれぞれの良さがあることが分かる。
 2曲目はモーツァルト:ピアノ協奏曲第17番。ジャン=エフラム・バウゼさん登場。第1楽章Allegroは、いかにもモーツァルト的イントロ。長めのオーケストラ 演奏の後、ピアノが開始。彼の弾いたピアノはTwitterによると、ヤマハCFXとのこと。彼は、ffでがんがん弾くタイプではなく、アルペジオが綺麗で、抒情的。いつ ものSteinway & Sonsではないのでアルペジオが更に綺麗に聞こえたのか、どうかは不明。カデンツァ(モーツァルト版を使用したと思う)は聴衆に媚を売る華麗さは無いが、 いかにもモーツァルト的抒情性溢れる演奏であった。第2楽章はAndante。プログラムにある「しみじみとした詩情」。モーツァルト最後の曲「クラリネット協奏曲」 の前段か。第3楽章はAllegrretto。弦楽とピアノの競演が心地よい。フル−トとファゴットとの三重奏も素敵。コーダはトランペットではなくホルンが開始を告げ、 優雅に終了。ジャン=エフラム・バウゼさんのテクニックが充分発揮されたのか疑問だったが、これはアンコール曲で解消。アンコールは、ドビッシーだけはすぐ分 かったが曲目までは分からなかった、ドビッシー:映像第1集より第1番「水に映る影」。素晴らしい。彼の真髄はドビッシーのソナタにあるようだ。

 休憩を挟んで3曲目は、武満徹:「弦楽のためのレクイエム」。速度配置はLent-Modere-Lentとのこと。弦楽のみのこの曲は「森閑とした悲しみの森」だ。珍しいヴィ オラ・ソロも挿入され、ヴァイオリンの高音、コントラバスの低音が効果的で、消え入るように終了。
 4曲目は、シューベルト:交響曲第5番。第1楽章はAllegroで、OEKは快調な出だし。やはり、トランペトは無し。管楽器はフルート1人、オーボエ1人、ホルン2人、ファ ゴット2人という布陣。トランペットはモーツァルト、シューベルトの時代には無く、ウィキペディアによれば、16世紀に入って、トロンバ・ダ・ティラルシ(Tromba da Tirarsi, 独:Zugtrompete)という 楽器ができた。これはスライド・トランペットであり、ヘンデルの時代、即ち18世紀後半までドイツの教会内で使用されたが、音程は長3度までしか下げられなかった。 そして1839年にパリにおいて、ペリネが現在のものとほとんど同じ3本ピストンのトランペットを発明したそうだ。第2楽章Andante con motoはフルート・ソロ、およ び「たりらら」、即ち四連符が優雅。ホルン・ソロでフィナーレ。第3楽章Menuetto: Allegro molto; Trioはプログラムにある「決然としたメヌエット」がぴたり。オ ーボエ・ソロも入り、安定感溢れる演奏。第4楽章Allegro vivaceは終章に相応しいTuttiで始まる。曲想はA-B-A-Bと一旦停止を含み進行。フィナーレはA'かB'か分か らなかったが、堂々と終了。気持ちが良い。

 アンコールはシューベルト:「楽興の時」第3番(管弦楽版)。マエストロ・ウラディミル・アシュケナージの好きな曲であろう。弦楽版も綺麗であった。尚、「楽 興の時」は"Moments Musicaux(仏)"で、簡単に訳すると「音楽の時」だ。さて、[アシュケナージ×OEK 秋の全国ツアー2016]は名古屋から始まり、金沢、島根、 大阪、東京と続く。N響が世界のオーケストラになったように、OEKも世界に誇れる室内オーケストラになって欲しいものである。


Last updated on Sep. 17, 2016.
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