3月16日OEK第374回定期公演PH

3月16日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第374回定期公演PH
指揮:井上道義、ヴァイオリン:アビゲイル・ヤング、チェロ:マリオ・ブルネロ
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 マエストロ・井上道義「渾身の英雄交響曲」と題するオ−ケストラ・アンサンブル金沢の定期公演。何故、シューマンのチェロ協奏曲とベートー ヴェンの英雄交響曲なのか?この解明を目指して、石川県立音楽堂へ出掛けた。

   ロビー・コンサートは輪島漆塗チェロを使用したOEKカンタさんによるコダーイ:無伴奏チェロソナタ第2楽章。重低音から高音までの幅広い音域に加えて、弦を押さえる左手の空いている指でのピチカート等高度なテク ニックの披露に感心。ハンガリー音楽を集めたコダーイの作曲もさりながら、カンタさんの凄さを改めて実感した演奏であった。。
 さて、コンサート1曲目は、武満徹:「ノスタルジアーアンドレイ・タルコフスキーの追憶にー(1987)」。コン・ミス・ヤングさんのソロとOEKの弦楽のみの演奏。OEKの弦楽は8-6-4-4-2の対象配置。映画監督タルコフス キーの追想が、宙を漂うような澹々とした不思議な和音で醸し出される。自宅にアヒルを飼っていたマエストロ・井上道義の指揮も前衛的。武満作品は余韻を残し、静かに終了。
 2曲目はシューマン:チェロ協奏曲。ソリストはマリオ・ブルネロ(Mario Brunello, スペルから読むとマリオ・ブルネッロが正しいと思うが)。第1楽章Nicht zu schnellは、ほんの短い前奏の後直ぐチェロ・ソロが始まる。 開始された彼のチェロは流麗そのもの。プログラムでは、彼の使用楽器は1600年製「マッジーニ」とのこと。名器なのだろう。チェロが休止の時のOEKの演奏も素晴らしい。第2楽章Langsamは緩徐楽章。カンタービレ風に歌 い上げる。第3楽章Sehr lebhaftは急となり、切れ味鋭いソロ。フィナーレ前に短いカデンツァが挿入され、高揚感裡に終了。圧巻のチェロ協奏曲であった。アンコール1曲目はヤングさんとのDuoであるバッハ(シューマン 編:無伴奏チェロ組曲第5番よりサラバンド)。彼のバッハも聞き応えがあるし、ヤングさんのヴァイオリンも秀逸。アンコール2曲目は同じくバッハ:無伴奏チェロ組曲第3番プレリュード。急な前奏曲。マリオ・ブルネ ロさんはサービス精神旺盛で、アンコール3曲目は「アルメニアン・ソング」。チェロの駒近くのみの弦のフィンガリングで、アルメニア風を演出。後ろに座っていたマエストロ・井上道義も音の出し方を確認しようと身 を乗り出して見ていたのが印象的。特殊奏法の披瀝であった。

 休憩を挟んで3曲目は、ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」。勢いよく始まった第1楽章Allegro con brioは、音が硬め。OEKはホルン2名とコントラバス1人が加わったのみ、一瞬ピリオド奏法かなとも思ったが、 そうでもないようだ。単に頑張り過ぎただけなのかもしれない。第2楽章はMarcia funebre(葬送行進曲), Adagio assai。有名な弦楽器による葬送行進曲は秀逸。オーボエ、クラリネット・ソロも秀逸であったが、中間部からのff では、コントラバスの低音が聞こえない。コントラバス3名でも足りないようだ。第3楽章Scherzo. Allegro vivace - Trioは、短いスケルツォ。マエストロ・井上道義による渾身の「英雄交響曲」。ホルン3重奏も無難。 第4楽章Finale. Allegro molto - poco -Andante - Prestoは、中間部の弦楽、オーボエ、フルート・ソロが綺麗。コーダでの壮大な演奏で終了した。

 アンコールは時間の関係で無し。さて、OEKの音量も格段に増大したベートーヴェンであったが、音が硬く、低音が聞こえないという欠点も現出した。一度、弦楽5部を10-8-6-4-4に増員の上マーラー等の音楽を演奏し、 ベートーヴェンはそんなに力まなくても良いということを実感させたほうが良いのでは。とにかく、今後は目一杯のベートーヴェンではなく、余裕を持ったベートーヴェンを聞かせて欲しいものである。尚、シューマンのチェロ協奏曲とベートー ヴェンの英雄交響曲の関係は良く分からないが、タルコフスキーとシューマンを悼んだプログラムであったことだけは間違い無さそうである。


Last updated on Mar. 16, 2016.
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