120713

7月13日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第324回定期公演PH
指揮:ダニエル・ハーディング、ヴァイオリン: シン・ヒョンス
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 若手のホープ:ダニエル・ハーディング・マエストロがオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)を指揮し、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲 と交響曲第5番「運命」を演奏する。本日(7月13日)の朝日新聞第2石川版によれば、マエストロは「皆さんが一番よく知っている曲だと思うが、どうか気軽には聞かないでほしい」と意気込みを語ったとある。地元の北國 新聞では、「よく知られた曲だが、自分が信じるベートーヴェンを表現したい。聴衆はいつも聞く曲とは違うとは思うかもしれないが、結果として良かったと言って貰えるだろう」と語ったとある。どちらが正確に翻訳され ているのかはさて置いて、聞いてみたいコンサートである。期待して石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレ・コンサートはモーツァルトの弦楽四重奏曲第6番第1楽章。不気味なイントロから、一転して軽快な曲想への変化の妙に感心。OEKは弦楽四重奏曲も一流である。
 コンサート1曲目は、ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲。OEKの弦楽5部は8-6-4-4-2の対象配置。コントラバスは舞台向かって左。シン・ヒョンスさんはピンクのドレス。長い第1楽章Allegro ma non troppoのイント ロは、テインパニーのppで始まる。ヴァイオリンは中々出てこない。中間部から登場した彼女のヴァイオリンは高音域が綺麗で、情感的。ダニエル・ハーディング・マエストロは若手らしく、きりっとした指揮。カデンツァは、 プログラムにある、クライスラーらしい。第2楽章Larghetto - attacca subito:は、エスプレッシボ。正に、夢見心地。attaccaで続く第3楽章Rondo: Allegroは、彼女のヴァイオリンによるヴィオラっぽい音色と高音域と の交互配置で始まる。ここでのカデンツァは凄かった。彼女はテクニックでも一流である。これは、アンコー曲でも証明される。そのアンコール曲はパガニーによる「24のカプリース」第24番。これはピチカートあり、 飛ばし弓ありの難曲。彼女はこれを軽々とこなす。大器である。益々の精進を期待したいものである。

 休憩を挟んで、ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」。OEKはコントラバスが一人増えて、弦楽5部は8-6-4-4-3。後述する如く、この編成が運命交響曲にはベストの構成であった。第1楽章はAllegro con brio。ベー トーヴェンはトントントントンが好きである。イントロは、ご存じ「運命は戸を叩く」である。ここは、ねっちりではなく、さらりと軽快に演奏。勿論ピリオド奏法ではない。ホルンもノーミスで、的確な演奏。第 2楽章Andante con motoは、金管楽器としてトランペットが入る。ダニエル・ハーディング・マエストロ指揮によるOEKの演奏は、音量、質ともにベスト。OEKの成長ぶりは一流オーケストラに匹敵する。第3楽章Allegroは、 ホルンが絶好調。ティンパニーのpの内にattaccaで第4楽章Allegro - Prestoに繋がる。ここで、トロンボーンが加わり、一層華やか。マエストロは若手だけに、がんがんと演奏かと思いきや、pの落と す所はしっかりと指示し、しかも明瞭さを失わせない所謂メリハリの利いた演奏。コーダのテンポも良い。OEKの成長ぶりに感無量の内終了。OEKの歴史上ベストとして刻まれるであろう記念碑的演奏となった。

 アンコールはベートーヴェン:コリオラン序曲。日本の以前のコンサートではコリオラン序曲が最初で、2曲目協奏曲、3曲目は交響曲という内容が常であった。しかし、これが良いとは限らない。若手のダニエル・ハー ディング・マエストロの発想は新鮮である。コリオラン序曲については、OEKは「運命」に力を使い果たしたのか、少々不明瞭な箇所もあったが、「運命」が立派すぎたのだから大目に見なければならない。 さて、「運命」に戻るが、新聞に報じられたような今までと違った「運命」は余り感じられなかった。曲全体の構成を分かり易く、しかも主張を明確にし、OEKのベストを引き出した点でダニエル・ハーディング・マエスト ロの力量に驚嘆したのは私だけではないだろう。マエストロは、忙しそうとのことであった。しかし、又機会があればOEKを指揮し、今度は他の作曲者の曲を指揮して欲しいものである。   


Last updated on Jul. 13, 2012.
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