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9月8日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第306回定期公演PH
指揮:井上道義、ソプラノ:濱真奈美
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)2011-2012シーズンの開幕である。望月京さん委嘱 作品、及び定期初の《新世界》に期待して石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレ・コンサートはドヴォルザーク:弦楽四重奏曲《アメリカ》全曲(第3楽章抜きかも)。後述するように「新世界」がボリューム満点だっただけに、弦楽四重奏は新鮮。 チェロのピチカートあり、ソロありで、会場は少々騒々しかったが室内楽の原点を堪能できた。
 コンサートに先立ち2011年度岩城宏之音楽賞の発表があり、金沢市出身の世界的プリマドンナ濱真奈美さんが受賞した。
 コンサート1曲目は、望月京:《三千世界》、世界初演である。OEKは8-6-4-4の対象配置。イントロでブーメランもどきを回す風の音。中間部では篳篥を思わす管楽器の音。 弦楽のピチカート、プラスチック製の薄板による強風の音等プログラムにあった蠢く感じがよく出ている作品。フィナーレ近くでは井上道義マエストロのパフォーマンス。これは、後で分かったのだが、楽譜には「指揮者のカデンツァ」と書かれていたらしい。尚、プログラムには、 「三千世界」に関し、10の200乗という数字が出てくる。ご存知10の3乗で千である。新村出:《広辞苑》岩波書店でも「三千世界」は「千の三乗、すなわち10億のこと」とあ る。10の200乗は大き過ぎる世界だと思う。

 続いて、ソプラノ:濱真奈美さんの登場。最初は、管楽器曲としてもよく演奏されるラフマニノフ:《ヴォカリーズ》。難しい曲を濱真奈美さんは無難にこなす。2番目は、 プッチーニ:歌劇《喋々夫人》から「ある晴れた日に」。これは濱真奈美さんが歌いこんだ曲らしく絶品。最後は、ヴェルディ:歌劇《運命の力》から「神よ、平和を与えた まえ(Pace, pace, mio Dio!)」。この曲は高揚感溢れるアリアで、ハープとのデュオが綺麗。金沢でもヴェルディ:歌劇《運命の力》を上演して欲しいと思わせた一曲であっ た。時間の所為かアンコールは無し。

 休憩を挟んで、ドヴォルザーク:交響曲第9番《新世界》。OEKは一回り大きくした10-8-6-4-4の対象配置。第1楽章Adagio-Allegro moltoは、中型編成のため迫力ある演 奏。ホルンも元気で、フィナーレ近くで井上道義マエストロも乗りのり。第2楽章Largoは、水谷さんのオーボエ・ソロ「家路」が圧巻。一旦停止も決まり、楽章最後のコントラ バスの2拍で余韻を残し終了。第3楽章Molto vivaceは、一転して3拍子の舞曲(レントラーか?)。井上道義マエストロの踊りも華やか。第4楽章Allegro con fuocoでは、ク ラリネット・ソロが綺麗。中間部は金管楽器が咆哮し、大迫力。コーダで全楽章を締め括り、静かに望郷の念を抱かせて終了した。

 アンコールは、ドヴォルザーク:スラブ舞曲集第4番。これはカンタさんのチェロ・ソロ、リズムの変化あり等熱演。OEKの史上屈指の演奏となったことは間違いない。さて、 先日プラトン(藤沢令夫訳):『国家(下)』岩波書店を読んでいて、「音楽家(教養ある人)」との記述に遭遇した。これを古川晴風:『ギリシャ語辞典』大学書林で調べると、 「μουαικοζ, 音楽の、学芸に通じた、教養のある」とあり、間違いない。即ち、古代ギリシアでは、音楽を奏でる人は教養ある人だったのである。2011-2012シーズン において、教養ある人(井上道義マエストロ始め、OEK団員)による更に洗練された演奏に期待したい。


Last updated on Sep. 08, 2011.
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