100525

5月25日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第281回定期公演PH
指揮:井上道義、共演:兵庫芸術文化センター管弦楽団(兵庫PACオーケストラ)
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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プラハ市内
 オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)兵庫PACオーケストラのジョイント・コンサート。両オーケストラ共演による金沢初演「グランド・キャニオ ン」に期待して、石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレ・コンサートは無し。コンサート1曲目は、OEKによる「メ抜き-メヌエット抜き」、即ちモーツァルト:交響曲第38番「プラハ」。 OEKは8-6-4-4-2の対象配置。第1楽章Adagio-Allegroは、イントロのテンポの遅さが優雅さを引き出し、OEKの得意なモーツァルトだけに綺麗。 昨夜のN響アワーで岩倉使節団がアメリカでクラシック・コンサートを聞いた印象の中で、「舞台の真ん中で踊っている人は何をして いるのだろうか」との感想を抱いたことが紹介されていた。将に井上道義マエ ストロも舞台で踊っていたのだが、これは何時もの事。明治の世でも指揮者は踊っていたのだ。第2楽章Andanteは、6/8拍子、ソナタ形式。 優雅な出だしで夢見心地。美しいプラハの町を彷彿とさせる曲想で、好演。第3楽章Finale.prestoは、イントロの第1ヴァイオリンによるユニ ゾンが綺麗で、以降完璧な演奏を披露し、終了した。
 2曲目は、兵庫PACオーケストラによる「唯一のメヌエット有り、緩抜き-緩徐楽章抜き」、即ちベートーヴェン:交響曲第8番。兵庫PACオーケ ストラの弦楽5部は10-8-6-4-4の対象配置らしく、OEKを一回り大きくした感じ。第1楽章Allegro vivace e con brioの出だしはスピード感が有り、 引き締まった演奏で開始された。但し、ffからpに移行した中間部では少々音の乱れ。ベルリン・フィルハーモニーの定期公演を指揮することに決まっ た佐渡裕マエストロが率いているオーケストラだ。ffには強い様である。第2楽章Allegretto scherzandoは、若いオーケストラだけにリズム 感溢れる演奏。第3楽章Tempo di Menuettoは、このオーケストラは木管が少々難点かと思わせたが、何とか無難に収まった。第4楽章はAllegro vivace。イントロの弦が綺麗。ホルンの出も完璧で、力強い演奏で終了した。若手だけに今後の進歩が期待されるオーケストラである。

 休憩を挟んで、3曲目は合同で、グローフェ:組曲「グランド・キャニオン」。弦楽5部は、はっきりしないのだが16-10-8-8-6らしく、兎に角第1 ヴァイオリンが多かった。第1曲Sunriseは、文字通り日の出。しかし、日が昇ってからの描写は、音量が大き過ぎ、日の出がこんな に騒々しいのかとの印象を与えてしまった。日の出は静かに進行する。第2曲はThe Painted Desert。最初の赤い砂漠の表現が演奏からは伺うことが 出来ず、何を表しているのか聴衆には意味不明であったに違いない。しかし、後半の暑苦しい感じは充分感じ取れた。第3曲On the Trailは、以前TV でグランド・キャニオンの谷へロバに乗って下降するシーンが放映されたことがある。将にそのシーン。ロバの牧歌的足音が効果的で、分かり易い楽 章。第4曲Sunsetは、pからのクレッシェンドが綺麗で、壮観。第5曲Cloudburstは夕立。イントロではコンサート・ミストレスのヤングさんに よるカデンツアと言って良いほどの華麗なソロ。これが、凄かった。ヤングさんの実力をまざまざと見せ付けられたシーンであった。その後、ピアノ・ チェレスタのソロ、カンタさんによるチェロのソロがあり、愈愈夕立。ウィンド・マシーンがうなりを上げているようだ。しかし、オーケストラは大 き過ぎて聞こえない。夕立が終息する頃には風の音が聞こえるようになり、照明による雷鳴も加わり、大迫力。コーダで1日を回想し、華麗に終了 した。

 アンコールはエルガーの「威風堂々」。井上道義マエストロは赤いLAエンゼルスの野球帽子を被り、星条旗を振っての、イギリスにおけるプロム ナード・コンサート張りの演出。聴衆の手拍子も加わり、最高潮裡に終了した。さて、ジョイント・コンサートは終了した訳だが、ただ単にジョイント するだけでなく、ジョイント・オーケストラの構成人員は厳格に設定して欲しい。又、これだけ大きくするのであれば、腕を磨き、リハーサル を多くし、ブルックナー等に挑戦して欲しいものである。


Last updated on May 25, 2010.
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