100404

4月4日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第279回定期公演PH
指揮: 現田茂夫、ソプラノ:佐藤しのぶ、アルト:井戸靖子
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 我等が郷土の誇り、西田幾多郎:『善の研究』、岩波文庫では、「或芸術の修練についても、一々の動作を意識し ている間は未だ真に生きた芸術でない、無意識の状態に到って初めて生きた芸術となるのである」とある。今回は、「佐藤しのぶ喋々夫人」と題したオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会である。私の妻もチケットを購入した為夫婦揃ってこのコンサートに期待し、生きた芸術 かの確認の意味も含めて石川県立音楽堂に出掛けた。

 駐車場探しのため14時半を過ぎてホールに到着した所為で、プレ・コンサートが有ったのか、無かったのかは不明。コンサート1曲目は、プッチーニによる交響的奇想曲。OEKの弦 楽5部は8-6-4-4-2構成で、お馴染みの対象配置。金管ではホルンが4管、トロンボーンが3管、トランペット2管、チューバ付きという構成。イントロはティンパニーで始まる。これ が中々の迫力と切れ味で出足好調。尚、今回のティンパニー奏者は切れ味抜群で、最後まで熱演であった。さて、現田茂夫マエストロの指揮は最初やや遅いかなと思われた。しかし、こ れも丁寧な指揮のなす業であり、中間部では迫力もあり、的確な指揮であったと思われる。2曲目は、余り知られていないチレア:歌劇『アドリアーナ・ルクヴルール』から、先ず前奏 曲、次いでソプラノ:佐藤しのぶさんによる「私は、芸術の召使です」。佐藤しのぶさんは、春らしく若草色のドレスで、切々と熱唱。リリカルで、優しい歌声である。続いてアルト: 井戸靖子さんによる「苦い喜び、甘い苦しみ」。彼女はイタリアでペルゴレージを歌ったそうで、その経歴の通り高音から、低音域まで音域の広い、しかも迫力のあるアルトを披露した。 三曲目は、プッチーニ:弦楽四重奏曲「菊」(弦楽合奏版)。この曲は、現田茂夫マエストロによるOEK向きの好選曲であり、弦楽のみのとても綺麗な曲であった。次は、ヴェルディ: 歌劇『トロヴァトーレ』から、井戸靖子さんによる「炎は燃えて」、佐藤しのぶさんによる「穏やかな夜には」の2曲。井戸靖子さんのいかにも『トロヴァトーレ』的な歌唱と、日本人 では中々難しい"r"の発音を巻き舌できちんと発音した佐藤しのぶさんの熱唱が光った。彼女も、イタリア、フランスで歌っていたのである。後半に期待を抱かせる熱演であった。

 休憩を挟んで、プッチーニ:歌劇『喋々夫人』から。すずき役はアルトの井戸靖子さん。喋々夫人は、着物をイメージしたのであろう振袖のある青とピンクのドレスにお 色直したソプラノの佐藤しのぶさん。最初の抜粋部は。二人の二重唱から「ある晴れた日に」に到る部分で、二重唱はリズミカル、「ある晴れた日に」は佐藤しのぶさんの独壇場。彼女 の歌唱は大胆さは無い。ところが、西田幾多郎のいう無意識の状態、すなわち衒ったところが無く、好演。続く抜粋部は「かわいい子よ」の部分。二重唱が華麗。最後はフィナーレの部 分で、白のドレスにお色直しした佐藤しのぶさんによる「お前、小さな神さまであるお前!」で、感動的なフィナーレ。抜粋では無く、全編を聞きたい気がした『喋々夫人』からであっ た。

 さて、「佐藤しのぶ喋々夫人」と題したコンサートは終了した。選曲も良く、歌唱レベルも高いコンサートであったといえる。しかし、このような歌劇の抜粋を行うのであれば、 本当の意味での演奏会形式による歌劇「喋々夫人」を行った方が良かったと思う、これが不可の場合は、ベルリオーズ:歌曲集「夏の夜」、シューマン:歌曲集「女の愛と生涯」、もし くはリハルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」等の選択も考えられた。次回は、是非考慮して欲しいものである。


Last updated on Apr. 04, 2010.
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