100225

2月25日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第276回定期公演PH
指揮:ヴァシリス・クリストプーロス、ヴァイオリン:漆原朝子
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)を始めて指揮するギリシャ出身のヴァシリス・クリストプー ロス・マエストロ。彼とヴァイオリンの漆原朝子さんによる若いコンビ、及び余り聞けないシューベルトの3番に期待して、石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレ・コンサートは無し。コンサート1曲目は、スカルコッタスによる弦楽のための5つのギリシャ舞曲。始めて聞く曲である。OEKの弦楽5部は8-6-4-4-2構成だが、舞台向かって左 からVnT(8), Cb(2), Vc(4), VnU(6), Va(4)の変則配置。シューベルトの交響曲第3番では、後述するように音がこもる欠点があった。しかし、この弦楽のため の5つのギリシャ舞曲では、問題なし。ギリシャ舞曲は、ハンガリアン舞曲、スラブ舞曲とは全く異なる。第2曲Kretikos(クレタの踊り)はシチリアーノとも異なることに感心。地中海の シチリア島と多島海のクレタ島(約900km離れている)では文化が異質なのである。第4曲Arkadikos(アルカディアの踊り、Αρκαδικοζ, アルカディアの)は、パスツーラル風 の綺麗な舞曲。終曲Kleftikos(クレフテスの踊り)はハチャトゥリアン的舞曲で、ダイナミックに終了した。尚、この曲は最初弦楽四重奏用に書かれたとの事。従って、オーケストラでは 少々ボリュームが有り過ぎる感もあった。しかし、クリストプーロス・マエストロの押さえた指揮で、全体的には上品な舞曲に仕上がった。
 2曲目は漆原朝子さんを迎えてのモーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」。第1楽章Allegro apertoは、漆原さんのこれも丁寧な出だし。彼女のヴァイオリンは高音が響く 楽器らしく、高音がよく伸びる。カデンツァはイツァーク・パールマンかと思われたが、最初だけで、後は異なり、誰の作かは不明。第2楽章Adagioは、叙情的楽章、彼女はこれを優雅に演奏。 優雅のみかと思っていたら、カデンツァが圧巻。現代的で、シェーンベルクかベルクという感じ。但し、作者はこれも不明。第3楽章Rondeau Tempo di Menuettoは、スピード感溢れる演奏。 例の「コガネムシ」の部分は、日本に良く似た童謡があることは知らないと思われるクリストプーロス・マエストロは、やや早めに指揮。短いカデンツァの後、コーダを経て、消え入るよ うに終了した。アンコールは、漆原さんによるバッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番第3楽章Sarabanda。もう少し大胆さがと思ったが、サラバンドだけに強引に演奏する ことは出来ないのであろう。とにかく、綺麗な演奏であった。

 休憩を挟んで、シューベルトの交響曲第3番。第1楽章Adagio maestoso; Allegro con brioのイントロは丁寧であったが、上述したように音はくぐもった感じ。しかし、軽快な第2テー マ以降はそれも解消し、クレッシェンドも効果的に演奏され、前半の2曲と違ったダイナミックな演奏が展開された。第2楽章Allegrettoは、一転して綺麗な旋律。第3楽章Menuetto: Vivace は、プログラムにあった3拍目のアクセントが小気味良い。第4楽章Presto vivaceは、OEKも絶好調。スピード感ある演奏で、華麗に終了した。

 アンコールはロッシーニ:歌劇「絹のはしご」序曲。ロッシーニらしい目まぐるしい展開、及びソロの頻発でシューベルトの交響曲第3番の地味さを解消した。さて、OEK初登場の クリストプーロス・マエストロによるコンサートは終了した。県立音楽堂とOEKにマッチしたオーケストラの配置については多少問題点も有った。次回には是非改善して欲しい。 斯くいう私だが、金子大栄校注:『嘆異抄』、岩波文庫では「煩悩具足の凡夫、火宅無常の世界は、よろづのこと、みな もてそらごと、たわごと、まことあることなきに、たゞ念仏のみぞまことにておはします」とある。南無阿弥陀仏。


Last updated on Feb. 25, 2010.
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