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1月24日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第275回定期公演M
指揮:ヘルムート・リリング、 ソプラノT:佐竹由美、ソプラノU:沓沢ひとみ、アルト:永島陽子
テノール:鈴木准、バス:浦野智行、合唱:オーケストラ・ アンサンブル金沢合唱団
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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ミサ曲 ロ短調楽譜
 金沢初演となるJ.S.バッハによるロ短調ミサ曲(正確には、ロ短調でのミサ曲)である。オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)とオーケストラ・アンサンブル金沢合唱団(合唱指揮:佐々木正利さん)を指揮するのはヘルムート・リリング・マエストロ。 彼はウィキ ペディアによれば「バッハの合唱曲を全曲録音した最初の人物であり、(中略)厳しいレッスンで知られる」とある。厳しいゲネプロ、リハーサルによる完璧なミサ曲に 期待して、マイスターシリーズ会員ではないのだが、石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレ・コンサートはカンタさんによるチェロ・ソロ。一曲目はJ.S.バッハによる「無伴奏チェロ組曲」の一曲と思われる。しかし、詳細は不明。2曲目は、現代風のチェロ・ ソナタ。第1楽章はサラバンド的で、心に沁みる演奏であった。作曲者は不明。
 コンサート・ホールでは、定刻ロ短調ミサ曲が始まった。第1部KYRIE 1.Kyrie。オーケストラ・アンサンブル金沢合唱団の女性コーラス、特にソプラノは声が出てい た。昨年のベートーヴェンの第9より迫力あり。OEKの弦楽5部は8-6-4-4-2の通常配置。トランペットは4管。指揮者のヘルムート・リリング・マエストロは暗譜で、譜面 台無し。指揮は淡々としていたが、要所は的確。リハーサル時は厳しかったのであろう、OEKの演奏は非常に丁寧に感じられた。2.Chiste eleisonはソプラノT:佐竹由美さん と、ソプラノU:沓沢ひとみさんによるデュオ。綺麗である。この曲には繰り返し部分をpに落とす箇所がある。これをOEKは正確に演奏。ヘルムート・リリング・マエストロ による指導の賜物と感じられる。GLORIA 4.Gloriaは、早めのテンポ。トランペットは溌剌とした演奏を披露。5.Et in terra paxでは女性合唱の4連符が聞き所。もう少し軽やか にと思った。しかし、問題は無し。続く6.Laudamusteにおける、コン・マスであるヤングさんのヴァイオリンとカンタさんのチェロのデュオは秀逸。8.Domine Deusは、ソプラノT とテノール:鈴木准さんのデュオが素敵。若々しいテノールである。フルート・ソロも華麗。10.Qui sedesは、アルト:永島陽子さんのソロ。むせび泣きの"miserere nobis"をし っとり披露。オーボエの伴奏も傑出。11.Quoniam tuではバス・ソロ。バスの浦野智行さんはプログラムに寄れば最初ホルンを専攻したが、声楽に転向とある。日本人特有の バリトンに近いバス。少々押さえ気味で、伴奏のホルンによる音量に圧倒されたのは皮肉。12.Cum sanctoは合唱が圧巻。"Amen"で第1部は終了した。

 休憩を挟んで、第2部CREDO 1.Credo。"クリード"にも慣れ、違和感無し。2.Patrem omnipotentemでは、第1部でもあったソプラノTとUのデュオが出色。4. Et incarnat us estは、合唱団によるpでの演奏。pでも綺麗であった。5. Crucifixusでは、練習の成果である"r"の巻舌を披露。まだ「巻いても」と思った。しかし、日本人としては上 出来だったのであろう。7.Et in Spritumではオーボエが熱演。バス・ソロは第1部と違って、中々立派。第1部は少々上がっていたのかもしれない。8.Confiteor は、珍 しいチェロとコントラバスのデュオでの伴奏。この伴奏に合唱団は上手く合わせていたのには感心。第3部SANCTUSはトランペットが華麗。最後には合唱団各パートが2部に分 かれて"Osanna in excelsis"を歌う。プログラムではHosannaと記載されている。所が、第4部BENEDICTUS 1.ではOsannaとあり、"H"が消えている。全音楽譜出版社の楽譜では、Osannaと書かれていて、Hosannaはミスプリントということになる。しかし、モーツァルトの「レクイ エム」ではHosannaとある。辞書を調べると、ヘブライ語でhosa'naが起源。ホサナ《神またはキリストを賛美する言葉》とある。即ち、正しいのはHosanna。しかし、ラテン語の 辞書にはhosannaとosannaの両方あり、イタリア語辞書ではosannaと記載されている。勿論、hosannaと書いても[ozan(n)a]と発音する訳で、双方とも用いられてきたと考えられ る。但し、同一の出版物に混在させると、何か別の意図を感じさせてしまう。注意しよう。2. Benedictusはフルートとチェロのソロによるテノール・ソロ。これも逸品であった。 AGNUS DEI 4. Agunus Deiではアルト・ソロが綺麗。終曲DONA NOBIS PACEMは合唱団による大フーガ。"Dona nobis pacem"で荘厳に終了し、HaitiのPort au Princeにおける大地震被災者への平安を祈った。

 さて、135分の圧巻ミサ曲は終わった。多少ドラマティック過ぎるとも思われるが、これも趣向。尚、プロテスタントの国で、何故J.S.バッハはラテン語による教会音楽 を作曲したかとの疑問が湧く。CDの解説に寄れば「ローマ・カトリック教会の典礼文を用いながら典礼の枠にとらわれず、プロテスタント教会のためでもない。あくまでも普 遍的な宗教感情に基づいた芸術作品」とある。成る程。
 最後に希望事項として、コンサートホールにあるパイプオルガンを使用せず、舞台上のオルガンを使用している 件である。伴奏にパイプオルガンを使用し、カラー照明で、ライトアップすれば更に効果的であろうと感じられる。パイプオルガンは大き過ぎて使用不可能な場合でも、ライト アップ位は行った方が良い。次回は、是非実施して欲しいものである。


Last updated on Jan. 24, 2010.
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