091008

10月8日オ−ケストラ・アンサン ブル金沢第268回定期公演PH
指揮:ロルフ・ベック、ソプラノ:ステファニー・ダッシュ、アルト:ヴァレンティナ・フェティソヴァ
テノール:ユライ・ホリイ、バス:トーマス・セルク
合唱:シュレ スヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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モントリオール・ノートルダム教会
 9月11日BS2で放送された井上道義指揮ベートヴェンの交響曲第7番(2009年1月のコンサート)が凄かったオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は、今回シュレスヴィ ヒ=ホルシュタイン音楽祭で活躍中の合唱団を率いたロルフ・ベック・マエストロによる「ロルフ・ベックの世界」と題してモーツァルトのレクイエムを演奏する。私は、モーツァルトのレクイエムをOEKで は2、3度、及び1982年シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団で聞いたことがある。場所はモントリオールにおける青のステンドグラスが綺麗なノートルダム教会だった。ロルフ・ベック・マエストロ によるOEKとシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団のレクイエムは如何にと思い石川県立音楽堂へ出掛けた。

 コンサート1曲目は、シューベルト:交響曲第8番「未完成」。第1楽章Allegro moderatoは、イントロがチェロとコントラバスによる低音部の演奏で、スムーズ。OEKは弦楽5部が通常の8-6-4-4-2構成。対象 配置。ロルフ・ベック・マエストロの指揮は合唱指揮者と思えぬ堂々とした指揮で、大袈裟ではなく、さらりと、しかも劇的な演奏をも促し、好感。トロンボーン3人の演奏はオーケストラに厚みを演出し、OEKの 堂々たる演奏。少々硬く聞こえたのは、ピリオド奏法だったかもしれない。第2楽章Andante con motoは、クラリネット・ソロ、オーボエ・ソロが綺麗で、フィナーレ近くのホルンのユニゾンも好演であった。尚、 何故モーツァルトのレクイエムの前に「未完成(Unfinished, 英、Unvollendeter,独」を配置したかというと、プログラムにもあったようにモーツァルトのレクイエムも実は「未完成」であり、「ラクリモーサ(涙 の日)」の9小節からはジェスマイヤーの補作だからである。

   休憩を挟んで2曲目は、その「未完成」をContextとするモーツァルトのレクイエム。第1曲「イントロイトゥス(入祭唱)」(プログラム記載による)は、合唱が凄い。音が天井へと立ち上っていく。大聖堂で聞い ているようである。しかも、ラテン語の発音が明瞭で、綺麗。又、ソリストも上手く、最初のソプラノによるソロは出色であった。尚、この曲では、ロルフ・ベック・マエストロは合唱指揮者らしく、合唱にも的 確な指示を出しているのが窺われた。第2曲「キリエ・エレイソン(主よ、憐れみ給え)」はフィナーレにも現れる壮大 なフーガを現出。第3曲@「ディエス・イレ(怒りの日)」ではロルフ・ベック・マエストロのスピード感溢れる指揮が印象的。決して煽っているのではないのに、劇的な演奏がなされるのに感心。第3曲Aは「ト ゥーバ・ミルム(不思議なラッパ)」。イントロでトロンボーンが少々のミス。それに続くバス・ソロは、ドイツオペラのバスという感じではなく、バリトンに近く、日本人的で、親しみのある音質であった。 第3曲C「レコルダーレ(思い出し給え)」では4重奏が綺麗。第3曲Dの「コンフターティス(呪われた者)」には、sotto voceの部分がある。これはpでは無く、文字通り優しく歌わねばならない。ソプラノ、アル ト・ソロはこれを優美な二重唱で披露。次いで、楽譜では記載されていないattaccaにて第3曲E「ラクリモーサ」へ移行。これも趣向である。むせび泣きにドラマチックな部分を上乗せし、熱演。最後のアーメン では、これも楽譜には無いfからpへのデクレッシェンド。これが、効果的で、感動的に仕上がった。第4曲@「ドミネ・イエス」はソプラノ・ソロが出色。第4曲A「ホスティアス・エト・プレチェス・ティビィ (賛美の生贄と祈り)」では、pでの綺麗な合唱が披露される。将に、アーノルド・シェーンベルク合唱団レベルである。この綺麗さはアンコールでも再現される。第5曲「サンクトクス」は、一転して劇的。第6曲 「ベネディクトゥス(祝福されますよう)」はベートーヴェンも参考にしたと思われる綺麗さの四重奏。第7曲「アニュス・デイ(神の子羊)」は、合唱団の音が天井高く上昇していくのを再確認。終曲は「コムニオ (聖体拝領誦)」。壮大なるフーガで終了。圧倒的なレクイエムであった。
 
 アンコールはモーツァルトの「アベ・ベルム・コルプス」。シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団はpでも綺麗な演奏を再現。超感動的であった。さて、モーツァルトのレクイエムはヨーゼフ・ハイドン の弟ミヒャエル・ハイドンのレクイエムと類似点があるといわれている。第2曲「キリエ・エレイソン」、終曲「コムニオ」のフーガの部分などがそうである。ウィキペディア(Wikipedia)によれば現存する最古のポリフォニックなレクィエムはヨハネス・オケゲムによる らしい。しかし、モーツァルトのレクイエムの20年前に作曲され、その魁となったミヒャエル・ハイドンのレクイエムも是非聞いてみたい曲である。来シ−ズンの実現を期待したい。


Last updated on Oct. 08, 2009.
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