7月18日歌劇「トゥーランドット」
指揮:井上道義、ソプラノ:マリアナ・ツヴェトコヴァ、
小林沙羅
テノール:アレクサンドル・バディア、鈴木寛一、バス:ジョン・ハオ
合唱:金沢カペラ合唱団、新国立歌劇場合唱団、
OEKエンジェルコーラス
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢、金沢歌劇座
酢谷琢磨
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プッチーニによる歌劇「トゥーランドット」である。2006年トリノ冬季オリン
ピック開会式で故パバロッティが熱唱した(病気のため口パク)「Nessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)」を思い出す。ソプラノのマリアナ・ツヴェトコヴァ、小林沙羅さん、
テノールのアレクサンドル・バディアさん、管弦楽のオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の熱演
に期待して金沢歌劇座へ出掛けた。
バスが30分遅れ、金沢歌劇座に17時58分に到着。息つく暇も無く第1幕が始まった。尚、オペラではオーケストラ楽員は初めからオーケストラ・ピッに入って居るのが普通だ。
これにに対し、今回は「セミステージ形式」故か一斉に入場した。演奏会形式のオペラを意識した演出である。又、井上道義マエストロがモーツァルト風の衣装で入場したのはご愛嬌。第1幕イントロは金管部門が絶好調。OEKの弦楽は10-8-6-6-4だったらしく、弦楽、木管と打楽
器群でオーケストラ・ピットは満員。このため金管部門のホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ1楽員は舞台上での演奏であった。しかも、カーテンコールで分かったの
だが、金管奏者が舞台裏で演奏を補助したらしい。従って、迫力満点。合唱は金沢カペラ合唱団に新国立歌劇場合唱団が加わった所為であろうか、これも大迫力。但し、オペラで
は合唱団は舞台上ばらけるのが常である。しかし、今回は「セミステージ形式」らしく、演出者の茂山千之丞さんはオラトリオの合唱団風に整列させた。この効果であろう、コーラ
スも強力になったと思われる。OEKエンジェルコーラスも中国風で、しかも日本の童謡のような曲を綺麗に披露。これも絶品であった。第1幕フィナーレは金管の熱演で効果的に終了。
但し、幕が下りない。この原因は、「セミステージ形式」の所為かもしれないが、金管部門が舞台上に配置された為とも思われる。金沢歌劇座はオーケストラ・ピットを大きくした
筈。まだ、不十分だったのである。歌劇座を標榜するのならば早急な更なる改良を望みたい。
休憩を挟んで第2幕が始まる。イントロは印象的な衣装を纏った大臣の3重唱。中々の熱演でこれも綺麗であった。次のトゥーランドットが出てきて3つの謎を出す場面では、
トゥーランドット役のソプラノ:マリアナ・ツヴェトコヴァさんの熱演に感心。彼女に「魔笛」の「夜の女王」役を是非金沢でと願ったのは私だけであろうか。但し、答えを示す場面
では前列の合唱団員が巻物を開いて見せた。多分漢字とカタカナで書いてあったのだろうが小さくて2F席の後ろで見ていた私には判読不能。もう少し大きな巻物にして欲しかった。
第2幕フィナーレも金管による迫力の演奏裡に終了。但し、幕が下りず、休憩が無かった為、暗転のまま少休止。休憩が無いのは構わないが、幕が下りないのは少々奇異。
小休止の後第3幕が始まる。愈愈テノール:アレクサンドル・バディアさんによる無名の王子(カラフ)が歌う「Nessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)」である。アレクサンドル・バデ
ィアさんは少々バリトン寄りのテノールではあるが、さすが凄い。音吐朗々たる歌声は、歌唱終了後オーケストラは演奏しているのに拘わらず拍手が沸き起こったことが立証している。
中間部には、チェロのユニゾンが挿入されたが、これは超綺麗。又、無名の王子の名前を知っているリューの死の場面では私の隣のご夫人が涙を拭いていたのが印象的。彼女はリューが
名前を言うと無名の王子は死なねばならない事を知っていたのである。さて、第3幕第2場トゥーランドットとカフカの愛の場面は、ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」に似て
妖艶。フィナーレはNessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)」の大合唱で歓喜のうちに終了。金沢発の一大スペクタルであった。但し、ここでも幕が降りず暗転のみとなったのは仕方が無
いのだろうか。尚、衣装担当の金沢文化服装学院と小道具担当の金沢美術工芸大学の学生スタッフがカーテンコールに登場した。中々の製作技術であったことを追記しておく。
かくして、キーワードが"la Speranza(希望)"であるプッチーニの歌劇「トゥーランドット(杜蘭朶)」は終わった。さて、金沢公演のオペラで最大にして、最高の内容であった今回の
公演で、舞台右手と左手に第1幕では「合」、「別」の文字が浮き出る大灯篭が掲げれた。又、トゥーランドットとカラフの愛の場面である第3幕第2場では「愛」、「愛」が掲げられ
た。これは、本年の大河ドラマ「天地人」で直江兼続の「愛」の前立物を持つ兜が話題になっているのも影響しているのかもしれない。しかし、「愛」には異説あることを紹介したい。
Somerset Maugham:"The Moon and Sixpence",PENGUIN MODERN CLASSICS(1961)は有名な小説である。即ち、ゴーギャン(文中ではストリックランド)が株式仲買人の職を捨て画家を目指
し、パリ、マルセイユ、タヒチへと流浪した後名作を残すという、ほぼ実話に近い秀作である。この小説の41節に”Love is a disease”という言葉がでてくる。直訳すると「愛は病気
である」。中野好夫訳「月と六ペンス」新潮社(2008)によると「恋愛というのは、あれは病気さ」とある。これも正論である。
Last updated on Jul. 18, 2009.