090523

5月23日オ−ケストラ・アンサン ブル金沢第261回定期公演PH
指揮:広上淳一、チェロ:ジョルジ・カラゼ
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 「世界の潮流」と題した演奏会をオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が広上淳一指揮の下で行う。ジョルジ・カラゼ さんにをソリストに迎えたハイドンのチェロ協奏曲第1番と余り聴けないメンデルスゾーンの交響曲第1番に期待して 石川県立音楽堂へ出掛けた。

 プレ・コンサートは無し。これは、無くても良かった。しかし、コンサート1曲目イントロ不安定症候群を回避するためには、短い曲でも行った方が良かったと思われる。この効果についてはコン サート1曲目で明白となる。

 コンサート1曲目は、メンデルスゾーン:交響曲第1番。第1楽章Allegro di moltoのイントロは、トランペットとオーケストラとのバランスが悪く、問題有り。例の1曲目イントロ不安定症候群 である。これは、弦楽器が少々弱かった所為かもしれない。第2楽章Andanteはスコットランド風で、綺麗。しかも、クラリネットとフルートソロも優雅。第3楽章Menuetto & Trio:Allegro molto - では、やはりイントロでトランペットが入る。今度は問題無し。第1楽章のイントロは何だったのだろうか?やはり、1曲目イントロ不安定症候群なのだろうか。第4楽章Allegro con fuocoは、 弦のピチカートとクラリネット・ソロが絶妙。フィナーレ近くのフーガの部分では、広上淳一マエストロによる強弱の指定がアクセントとなり、効果的。フィナーレも堂々とし、メンデルスゾーン の交響曲第1番は終了。第1楽章イントロ部を除けば素敵な交響曲であったと言えよう。しかし、以前にも引用した中野雄:「ウィーン・フィル 音と響きの秘密」文芸新書では『トスカニーニは、一 九三三年一〇月、楽友協会大ホールで行われる定期公演指揮に当たって、五回のリハーサルを要求した』とある。OEKもコンサート当日、コンサート1曲目のリハーサルを必ず行うようにしたらと思 われる。時間的余裕が無い場合は、1曲目のゲネプロは演奏会場の違い等による音響効果を充分考慮して、特に念入りに行って欲しいものである。

 2曲目は、1761〜1765年の間に書かれたと推定されるハイドン:チェロ協奏曲第1番。第1楽章Moderatoにおけるジョルジ・カラゼさんの演奏は綺麗過ぎる。ヨーヨー・マとマイスキーのチェロの 中間的音質の楽器を駆使し、力強さは抜きにして、叙情的で、ロマンティクな演奏である。第1楽章と第2楽章との間に2階席で聴衆が入場した。この為マエストロが少々待たされたのは頂けない。 第2楽章Adagioは、チェロ・ソロとOEKの音量を広上淳一マエストロが小まめにコントロールした成果が現れ、好演。第3楽章Finale. Allegro moltoは、快速である。この楽章の中間 部は、1725年出版されたヴィヴァルディの協奏曲集《和声と創意への試み》第4番、所謂「冬」の第3楽章Allegroのフィナーレ部に似ている。ハイドンは偉大な作曲家である。しかし、ヴィヴァル ディの影響も受けているのである。この部分を彼は正確に演奏し、綺麗過ぎる協奏曲は終了した。私個人としては、もう少し深みと大胆さが備わればとも思った。しかし、大胆さを演出する余り、 綺麗さを失っても困る。グルジア(Georgia:コーカサス山脈を望むワイン発祥の地)生まれで、長身のジョルジ・カラゼさんの今後に期待しよう。アンコール曲は、バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番 第6曲Gigue。緊張が解けた所為か、大胆さが備わった好演。私には、このアンコール曲の方が伸び伸びとして、心地よく聞こえた。

 休憩を挟んで、3曲目はハイドン:交響曲第60番「うつけ者」。第1楽章Adagio - Allegro di moltoのイントロは、やはりトランペットが入る。今度は茫漠。但し、これも中間部では解消。 広上淳一マエストロによる一旦停止の指示も的確であった。第2楽章Andanteは、ホルンのユニゾンがバランスよく、しかも綺麗。ホルン部門は腕を上げたと思われ、うれしい限りである。尚、ここ で広上淳一マエストロによる首での指揮に関心。第3楽章Menuettoは、いかにもメヌエットという感じで、トランペットも調子を取り戻しつつあった。第4楽章Prestoは、快速楽章であり、テンポ は的確であった。第5楽章Adagio(di Lamentatione)は、まさにハイドンによる弦楽のセレナーデ。中間部では調子を取り戻しつつあり、期待のトランペットがffで演奏する部分があったが、ユニ ゾンは違和感。トランペット部門の更なる研鑽を望みたい。Attaccaで続くかと思いきや、一旦停止した後第6楽章Finale:Prestissimoは始まった。すぐチューニングの部分になる。 ここは、本来ヴァイオリンの4番線についてFからGに戻すのを忘れたためこれを修正するよう指摘され、コンサート・マスターが音を出して、調弦をする曲想。広上淳一マエストロは2番線のA音 のチューニングで済ませたように聞こえた。これでも、違和感は無し。無事Il Distratto(うっかり者) は終了した。

 アンコールは、ハイドンの弦楽四重奏曲第77番「皇帝」第2楽章Poco Adagio:Cantabile。弦楽四重奏曲をオーケストラ用に編曲した版を用いたものと思われる。弦楽四重奏より重厚で、 力感あり、素敵なオーケストラ曲に仕上がった。さて、「世界の潮流」と題したコンサートを聴いた訳だ。「世界の潮流」は広上淳一マエストロか、ジョルジ・カラゼさんか、はたまたOEKか不明 であったが、メンデルスゾーン生誕200年、ハイドン没後200年の記念すべきコンサートであったことだけは確かであろう。


Last updated on May 23, 2009.
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