090421

4月21日オ−ケストラ・アンサン ブル金沢第259回定期公演PH
指揮:下野竜也、石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 ウィーン懐古と題した演奏をオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が下野竜也指揮の下で行う。直訳は第二次 ウィーン楽派であり、日本語の文献では一般的に新ウィーン楽派と呼ばれるシェーンベルグ、ウェーベルンの曲とウィーンで学んだスッペの曲が紹介される。新ウィーン 楽派の12音技法に期待して、石川県立音楽堂へ出掛けた。

 プレ・コンサートは弦楽三重奏曲。1曲目はハイドンとのことで、ディヴェルティメントであったと思うが、第何番かは不明。しかし、綺麗な曲であった。2曲目はモーツァルトのメヌエット との紹介であった。これも、弦楽三重奏のためのディヴェルティメントと思われる。この曲にはメヌエットが2楽章あり、どの楽章かは不明。

 コンサート1曲目は、バッハ/ウェーベルン:6声のリチェルカーレ[1]。リチェルカーレ(Ricercare)とは、プログラムでもイタリア語で「探求」を意味するとある。 イタリア語リチェルカーレ(Ricercare)の第1義は確かに「探求」の意味だ。しかし、野上素一「新伊和辞典増訂版」白水社によれば第7義に「走り回る」意味がある。私は、これがフーガ に発展したと解釈する。因みにフーガ(Fuga)は列、並んでいるものの意であり、カノン(Canone)[2]は教会規範の意である。即ち、リチェルカーレは単に6声が不規則に「走り回 る」のである。
 さて、バッハの「音楽の捧げもの」を編曲したウェーベルンによる「6声のリチェルカーレ」は、イントロはトロンボーンが受け持ち、チェンバロで聞くバッハとは格段の違い。OEKは弦楽5部が 8-6-4-4-3編成で、チェロを舞台向かって右手前に配置する通常配置。前半は金管部門が主であった所為か、6声のリチェルカーレの意味が分かり難い曲想。演奏も難しかったと思われる。しかし、中間部 以降は弦楽部門も加わり、高揚感を持って終了。但し、後で分かるのだが、この曲は下野竜也マエストロ向きではなかった。下野竜也マエストロは金管楽器咆哮の曲が得意のようである。でも、 無事終了。ホッ。
 2曲目は、シェーンベルグ:室内交響曲第2番。この曲はプログラムによれば、第1楽章の作曲から、28年の中断の後第2楽章が作曲されたらしい。従って、第1楽章fと第2楽章は随分曲想が 異なる。その第1楽章Adagioは、浮遊感を持って始まり、新ウィーン楽派らしい展開。主題の提示が2度あり、中間部の第1ヴァイオリンの熱演もあったが、全体としては冗長な感じ。第2楽章は Con fuoco, lento。このfuocoはイタリア語で熱烈という発想標語である。この楽章はマエストロの得意とする金管部門が活躍し出し、指揮にも威厳が出てくる。この楽章の方がリチェルカーレだと 感じた次第。尚、楽章間はAttaca気味にすぐ始まるのだが、マエストロは充分時間をとる。これは、演奏時間の調整だったのかもしれない。

 休憩を挟んで、3曲目は「軽騎兵」で有名なスッペの歌劇序曲集。3-1曲目は「ウィーンの朝、昼、晩」序曲。トロンボーン3管、ホルン4管編成で、ツィンバロムまたはチターの代わりかギターが入る。 中間部では「昼」をイメージするのであろうカンタさんのチェロソロ。カンタさんのチェロの馥郁さは健在で、非常に綺麗であった。3-2曲目は喜歌劇「怪盗団」序曲。イントロから金管部門が熱演。 対蹠的に中間部の弦楽は静かで、綺麗。3-3曲目は喜歌劇「美しきガラテア」序曲。中間部のウィンナーワルツの微妙なテンポの取り方が抜群。フィナーレはオペレッタ風で快調。3-4曲目は喜歌劇 「スペードの女王」序曲。女性チューバ奏者が加わる。時代である。イントロはpで始まるが、徐々に高揚する。中間部はトロンボーンとチューバが重厚で、ボリューム満点な演奏。フィナーレは 下野竜也マエストロの快速が効果的。ウィンドオーケストラは終了した。尚、プレトークで池辺晋一郎さんが解説していた如く、マエストロは4つの序曲を4楽章の交響曲に準えたらしい。しかし、 終わってみると、各序曲毎に舞台裏に引っ込んでしまう様式で、交響曲を意図したのであれば一々舞台裏へ下がらず、続けて演奏した方が良かったと思われる。しかし、これは演奏者の出入りがあっ た所為かもしれない。そういう訳で、4つの序曲による交響曲は余り実感が湧かなかったが、盛り上がりは予想以上であった。

 アンコールは、スッペによる「軽騎兵」序曲。イントロのトランペットによるユニゾンが颯爽、フィナーレの盛り上がりも充分な演奏であった。さて、ウィーン懐古を堪能した 訳だが、今度のニューイヤー・コンサートは是非下野竜也マエストロに依頼したらと思わせる演奏だったと言える。次回にはじっくり聞かせるppの曲を含むコンサートに期待したい。

[1] ウィキペディア(Wikipedia)による リチェルカーレ (ricercare):楽曲様式の1つ。ルネッサンス期に発達した模倣楽曲に端を発する。「リチェルカーレ ricercare」は「探求」を意味するイタリア語で、英語の research と語源を 一にする。この名称は15世紀にはすでに用いられているが、同様に模倣楽曲を指すファンタジアやカンツォーナなどと厳密な区別はなかった。オルガンや器楽のための作品が多く、中には教育 目的のリチェルカーレ集もある。17世紀までは様々な作曲家がリチェルカーレを作曲したが、以降次第にフーガに取って代わられることになった。

[2] ウィキペディアによるカノン(Canon): 複数の声部が同じ旋律を異なる時点からそれぞれ開始して演奏する様式の曲を指す。一般に輪唱と訳されるが、輪唱が全く同じ旋律を追唱するのに対し、カノンでは、異なる音で始まるものが 含まれる。また、リズムが2倍になったり、上下または左右(時間の前後)が逆になったような特殊なものをも含む。有名なパッヘルベルのカノンは、3つの声部が全く同じ旋律を追唱し(ただし 同時に終わるために最後がカットされる声部がある)それに伴奏が付けられたものである。ポリフォニーの一つの典型である。ルネッサンス時代には合唱曲において頻繁にカノン様式が用いられ、 多くのカノン技法はこの時代に生まれた。古くはフーガと称され、ジョスカン・デ・プレやパレストリーナらの「フーガによるミサ」はカノン様式による作品である。


Last updated on Apr. 21, 2009.
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