090321

3月21日オ−ケストラ・アンサン ブル金沢第258回定期公演PH
指揮:尾高忠明、ピアノ:小菅優
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

English
スマホ版へ

 ドイツ音楽、フランス音楽と聞いた。今度は、音楽の友2009年4月号で「あなたが今もっ とも注目している国内オーケストラは?」で10位に入ったオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が尾高忠明 指揮の下でイギリス音楽の系譜と題する演奏を行う。私個人としてはブリテンによるヴァイオリン協奏曲を聞きたかった。しかし、今回は「若きアポロ」という珍しい曲をプログラムに 含むので、期待して石川県立音楽堂へ出掛けた。

 プレ・コンサートは山野祐子さんによるバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータからの1曲。到着が遅くて何番か不明。2曲目はコンサートマスター・ダウスさん、 カンタさんの豪華ソリストを含むモーツァルトによる弦楽四重奏曲第1番全曲。第1番を始めて聞いたが、綺麗な曲で感心した。

 コンサート1曲目は、イギリス音楽史上最大の作曲家であったらしいパーセルによる歌劇「ディドとエネアス」組曲。この歌劇は古楽器で演奏されるようだ。これをOEKは弦楽5部 3-3-3-2-1編成で、舞台に向かって右手前にヴィオラ、後方にチェロの配置。最初の『序曲』は、古楽器で引きずるような演奏とは異なり、イントロはpで、しかも綺麗で現代的な演奏。次の 『勝利の踊り』、『復讐の女神の踊り』、プログラムでは直結と有ったが一旦停止した『リトルネッロ』、『水夫の踊り』、『魔女の踊り』と演奏された。勿論、歌劇なので本来は声楽 が入る、しかし、オーケストラだけの部分で編集されたこの組曲は、全曲を聞いてみると声楽が無くても音楽として充分機能していた。又、イントロにおける元気が無いように思えたp での演奏は、『復讐の女神の踊り』におけるffの演奏の伏線であり、これを強調するためイントロをpで演奏した訳だ。尾高忠明マエストロの当を得た演出であった。

 2曲目は、小菅優さんをソリストに迎えて、モーツァルト:「ピアノと管弦楽のためのロンド」。OEKの弦楽5部は従来の8-6-4-4-2編成。プログラムによるとモーツァルトのピアノ 協奏曲第5番の第3楽章を書き直した曲とのこと。従って、ドドドレレレというモーツァルトによる初期のピアノ協奏曲の面影を残しながら、晩年の装飾音を多く含む大人の曲に書き換えられ た事が良く分かった。ソリストの小菅優さんは丁寧な演奏であった。尚、何故モーツァルトがイギリス音楽の系譜かというと、初期のモーツァルトによるピアノ協奏曲はイギリス 滞在の直後に書かれたらしい。
 3曲目は同じく小菅優さんをソリストとし、ダウスさん、カンタさんを含む弦楽四重奏団及びOEKによる、ブリテン:ピアノ、弦楽四重奏と弦楽合奏のための「若きアポロ」。イントロは 前曲のモーツァルトと異なって、力強い出だし。若きアポロは力感溢れる神であった。古事記における建速須佐之男命である。続いて弦楽四重奏団によるブリテンらしい現代 的であり、一風変わった感じのする第2主題。続く中間部における弦楽四重奏は綺麗。フィナーレ近くの小菅優さんによるカデンツァも立派であり、現代曲として眠っていた事が惜しまれる 名曲であった。アンコール曲は、バッハ:パルティータ第6番第5曲Sarabande。チェンバロによる演奏とは異なり、現代的でしかも情緒豊かなサラバンドとなった。

 休憩を挟んで、4曲目は、ディーリアス:小管弦楽のための2つの小品。プログラムによるとディーリアスがグリーグと知り合ってノルウェイを訪れて作曲したという曲らしい。アンコー ルで演奏されたグリーグの曲と比較すると、暗い曲想で、ティンパニー無しの演奏である。グリーグはノルウェイを綺麗に、ディーリアスは暗く捕らえていたことを浮き彫りにしている。
 5曲目はハイドン:交響曲第104番「ロンドン」。ティンパニーは小型を使用。第1楽章Adagio-Allegroのイントロは堂々たるGreat Britainを表しているかの曲想。しかし、OEKの 8-6-4-4-2構成の弦楽5部はfで演奏。これも中間部でのffを強調するための演奏であったかもしれない。しかし、もう少し堂々と演奏しても良かったのではないだろうか。第2楽章Andanteは、 いかにもハイドンらしいアンダンテ、即ち歩くくらい速度が素敵。第3楽章Menuet:Allegro-Trio-Menuetでは、尾高忠明マエストロのテンポのとり方が抜群。第4楽章Finale:Spiritosoは、フィナーレ近くの シンコペーションの部分で少々乱れがあったものの、堂々とFinaleを締め括った。

 アンコールは、グリーグによる「抒情小曲集第2集」第6曲『挽歌』もしくは「抒情小曲集第4集」第7曲『挽歌』かの何れかで、弦楽のみの綺麗な曲であった 。 さて、イギリス音楽の系譜をじっくり聴いた訳だ。こういう多品目も良いが、ブリテンのヴァイオリン協奏曲を含む大作をじっくり演奏しても良かったのではと思われる。次回に 期待したい。


Last updated on Mar. 21, 2009.
2009年コンサート・レビューへ