090226

2月26日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第256回定期公演PH
指揮:ジャン=ピエール・ヴァレーズ、ヴァイオリン:吉本奈津子
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による近代フランス音楽集と銘打ったコンサート。指揮者のジャン= ピエール・ヴァレーズはゲスト・コンダクターを辞めるとか辞めないとか言っていたが、兎に角久しぶりの登場で、フランス音楽をずらりと並べたプログラムである。期待して石川県立音楽堂に出掛けた。

 開演前ラ・フォル・ジュルネ金沢2009のチケット引き換えを行っていたら遅くなり、プレ・コンサートのフィナーレ近くに2Fに上がった。この為、プレ・コンサートの曲名は不明。しかし、カンタ さんがソリストであったことは確認しているので、どうもバッハの無伴奏チェロ組曲よりの1曲らしかった。カンタさんのチェロは依然として馥郁とした響きを醸し出していた。

 コンサート1曲目は、シャブリエ:「田園組曲」。第1曲Idylle(牧歌)のイントロはファゴットによるpでの演奏、フランス音楽らしく洒脱な出足。ジャン=ピエール・ヴァレーズ・マエス トロは少々年をとったという感じではあったが、それが幸いしてかじっくりと聞かそうとしているような指揮で、好感。OEKの弦楽5部は8-6-4-4-2構成で、対象配置。尚、ティンパニーは 久しぶりにトーマス・オケーリーさんである。トーマス・オケーリーさんによるテインパニーの音は硬くなく、それでいて切れ味鋭い。昔を思い出して懐かしかった。第2曲Dance villageoise(村の踊り)の イントロはクラリネットで、力感ある、上手い演奏。ホルンの出も好調であった。第3曲Sous-Bois(木陰で)は、チェロによる通奏低音が間段なく演奏され、バッハ風。これが、夏の暑さによる けだるさを上手く表現。フィナーレもチェロが締め括って、綺麗。第4曲Scherzo-Valse(スケルツォ・ワルツ)は、ffでボリューム感もあり、ダイナミックな演奏。こうなると、コントラバス をもう一人増員し、低音を補強した方がと思えるのだが、フランス音楽の洒脱さはその欠点を解消してくれた。フィナーレにスケルツォが戻ってくるが、高揚裡に終了。立派なフランス 音楽であった。
 2曲目はサン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番。この曲はツィゴイネルワイゼンで有名なサラサーテに献呈され、初演もサラサーテの独奏で演奏されたという曲 。第1楽章Allegro non troppo は、従って、ジプシー風。これを独奏者の吉本奈津子さんは黒のドレスで、ヴィオラのように引きずって、しかも上品に演奏した。第2楽章Andantino quasi allegrettoは、シチリア風に更に 装飾音が着いた夢見心地。舟歌らしい。彼女のヴァイオリンは高音に向いた機種だったようで、イントロは音が少々鋭かった。しかし、高音部の演奏は超夢見心地。ヴァイオリンを追いかける フルートの演奏も更なる夢見心地を演出していた。第3楽章Molto moderato e maestoso - Allegro non troppoのイントロはやはりサラサーテ風で、彼女はこれも上手く纏めた。コーダのppの 部分も中々の演奏で、優雅に終了した。この曲は日本では余り演奏されないのだが、サン=サーンスの傑作であることが分かった。このように綺麗な曲を日本で演奏しなかったのは不思議。ジャン= ピエール・ヴァレーズ・マエストロに感謝したい。尚、アンコール曲はイザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第4番第3楽章Finaleで、吉本奈津子さんは中々の技巧派であることも示していた。

 休憩を挟んで、3曲目は、デュパルク:夜想詩曲「星たちへ」。綺麗な部分も垣間見られた。しかし、全体的には少々重い感じ。コンサート終了が9時を過ぎたのだから、この曲は必要なかったかもしれない。
 第4曲目はグノー:交響曲第2番。OEKはホルンが4人となる。第1楽章Adagio - Allegro agitatoのはイントロは少々遅過ぎるかもと思われたが、イントロ部を過ぎると軽快。ジャン=ピエール・ ヴァレーズ・マエストロはこの対比を企図したのかもしれない。第2楽章Larghetto(non troppo)はイタリア・オペラ風であり、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲に似ていると同時に、 ドニゼッティによる歌劇「愛の妙薬」のアリア「人知れぬ涙」にも似た綺麗な楽章。ドイツの交響曲との違いが浮き彫りにされた楽章といえる。第3楽章Scherzo:Allegro moltoは、ベートーヴェン風の スケルツォなのだが、やはりフランス的スケルツォ。第4楽章Finale:Allegro, leggiero assaiは、終曲だけに、ボリューム感ある演奏。こうなると、低音不足が少々気に掛かる。しかし、コンサート・ ミストレスのヤングさんを含む第1ヴァイオリンは綺麗で、しかも軽快な演奏を披露していた。
 アンコール曲はビゼー:「アルルの女」第1組曲第3曲Adagietto:Adagio。コントラバスを除いた弦楽4部、pでの演奏で、綺麗であった。尚、アダージェットはマーラーの交響曲第5番第3部4曲が有名。 しかし、作曲された年代を調べてみると、ビゼーのアダージェットは1872年。マーラーのアダージェットは1902年ということで、ビゼーの方が先蹤なのである。さて、久し振りのフランス音楽は新鮮で、 非常に良かった。重厚なドイツ音楽ばかりでなく、洒脱なフランス音楽を挟むことは重要なことなのである。熟年の境地と思われるジャン=ピエール・ヴァレーズ・マエストロには今後も、日本でめったに 演奏されないフランス音楽の発掘に尽力して欲しいものである。


Last updated on Feb. 26, 2009.
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