090107

1月7日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第253回定期公演PH
指揮:井上道義、ピアノ:アリス=紗良・オット
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 麻生首相が「百年に一度」と呼称する大不況の2008年も終わり、良き年になることを期待したい2009年オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤー・コンサートである。風邪気味であったが、元気を貰うためと新春にベートーヴェンが似合うのか確か めようと石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレ・コンサートはコンサート・マスターのヤングさんを含む9重奏によるウインナー・ワルツとポルカ。レハール:ワルツ「金と銀」、J.シュトラウスU世:ポルカ「観光列車」、 J.シュトラウスU世:ワルツ「美しく青きドナウ」、J.オッフェンバック:「天国と地獄」の4曲。9重奏でも中々の演奏であり、新春気分を味わうことができた。

 オール・ベートーヴェン・プログラムの1曲目は、「エグモンド」序曲。OEKの弦楽は8-6-4-4-2の対象配置で、ホルンが4管という編成であった。出だし部分は低音の音量不足。この音量不足は、 交響曲第7番ではコントラバスが3人となって、解消される。従って、「エグモンド」序曲でもコントラバスを3人にすれば良かったのである。イントロの音量不足を除けば、テンポは切れ味鋭く、 井上道義マエストロの踊るような指揮も健在であった。中間部におけるホルン奏者4人のユニゾンは綺麗で、フィナーレも立派に仕上がった。
 2曲目はベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」。ピアノはアリス=紗良・オットさん。アリス=紗良・オットさんは白いドレスで、若々しく、21歳だそうだ。第1楽章 Allegroのイントロは、やはりOEKの音量不足。途中ピアノの音が聞こえなくなる部分もあったので、「エグモンド」序曲と同様コントラバスを一人増員すれば良かったと思われる。アリス=紗良・オットさんのピアノは、多少NHKテレビ放送用の テレビカメラを意識して緊張した面もあったが、ホルンとの掛け合いの部分は綺麗で、流麗。ソロも堂々であった。第2楽章Adagio un poco mosso - attacca:のイントロでは弦が超綺麗。この弦の美しさはアンコール曲でも再現される。続いて、第3楽章Rondo. Vivaceが始まる。このアタッカの部分は何度も聞いているが、今回のニューイヤ・コンサートで聞くと、新春に相応しく聞こえたのは私だけであろうか。いかにも「新年が始まるぞ」 という風に聞こえた。フィナーレ近くのホルン(2曲目は2管)のユニゾンの出も問題なく、アリス=紗良・オットさんによる堂々の「皇帝」は終了。アンコール曲はリスト:「ラ・カンパネッラ (パガニーニによる大練習曲第3番)」。アリス=紗良・オットさんはリスト:「超絶技巧練習曲」のCDを出しているとおり、リストが得意らしい。現在は、多少若いが、円熟するとより 一層技巧的なピアニストになりそうである。尚、アリス=紗良・オットさんは1月23日まで日本各地で11公演をこなすようだが、大丈夫だろうか。いかにアリス=紗良・オットさんは若いといっても 11公演をこなすのは大変であり、ソリストは2、3人でワークシェアリングすべきと思う。少々心配な点である。

 休憩を挟んで、4曲目は、ベートーヴェン:交響曲第7番。OEKの弦は8-6-4-4-3とコントラバスが一人増えた。この効果は絶大であり、音に厚みが増した。1曲目からコントラバス3人で 演奏すればと余計感じられた訳である。従って、第1楽章Poco sostenuto - Vivaceは、ボリューム感溢れ、快調。第2楽章Allegrettoでは、弦が綺麗。pp時でも綺麗さを失わない演奏に感心。 第3楽章Prestoでは、井上道義マエストロの踊りが始まると同時に、トランペットも咆哮し、華麗。第4楽章Allegro con brioはテンポも的確、コーダも充実し、怒涛の演奏裡 に終了した。OEKの熱演であった。

 アンコール曲は、NHKテレビ放映のためテレビカメラが入っていた所為か、昨年のNHK大河ドラマ「篤姫」のテーマ。第1主題における弦の演奏は綺麗で、N響の演奏を上回っていた。さて、今回のオール・ ベートーヴェン・プログラムを聞いて、新春にはベートーヴェンの「皇帝」と交響曲第7番が似合うことを理解できた。来年は、シューマンの生誕200年である。 来春のニューイヤー・コンサート・プログラムには是非シューマン:交響曲第1番「春」を入れて欲しいものだ。


Last updated on Jan. 07, 2009.
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