12月11日第2回金沢歌劇座オペラ公演「ラ・ボエーム」
指揮:現田茂夫、 演出:直井研二、ソプラノ:田井中悠美、藤谷佳奈枝、テノール:西村悟
金沢カペラ合唱団、OEKエンジェルコーラス
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢、金沢歌劇座

酢谷琢磨

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ラ・ボエーム・プログラム表紙
 キー・ワードはla speranza(希望)とAmor(愛)であるプッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」が金沢歌劇座で金沢初演される。ミミ役の田井中悠美さん、ロドルフォ役の西村悟さん、金沢カペラ合唱団、OEKエンジェルコーラス 並びに管弦楽のオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の熱演を期待して金沢歌劇座へ出掛けた。

 第1幕出だしはOEK好調。舞台装置は金沢美術工芸大学生が担当したそうだが、若々しく、好感。最初の男性四重唱はテンポも的確で、綺麗。しかし、大家が出てくる場面で、大家は赤い 帽子とトルコ風衣装を身に着けていた。これは奇異。ここは、山高帽の大家が出てくるのが普通。その後、ロドルフォ役のテノール西村悟さんのアリア「冷たい手を」が始まる。 "la speranza"の高音(ハイCかどうかは不明)部を期待していた。しかし、押さえ気味に歌ったため、淡白な表現になってしまい残念。次の、アリア「私の名はミミ」はヒロイン 田井中悠美さんのソプラノが綺麗に纏め、これは好演。第1幕フィナーレの"Amor"を遠くで歌う2重唱も綺麗で、無事第1幕は終了。OEKの弦楽は8-6-4-4-2編成と、通常 編成であったと思われるが、金管がボリュームたっぷりに演奏し、室内オーケストラとは思えない華麗な演奏であった。
 幕は降りず、暗転のまま舞台装置 転換があり、華やかな第2幕が始まる。金沢カペラ合唱団、OEKエンジェルコーラス、ムゼッタ役のソプラノ藤谷佳奈枝さんが好演で、華麗な舞台を演出。舞台装置もドイツ風の ハーフティンバーハウスに見える高い建物を背景に用い、ドイツ風はさておいても、舞台に奥行きと花を添えていた。第2幕最後に出てくる軍隊の行進は、プログラムを見ると石川トラン ペットソサイエティと金沢大学フィルハーモニー管弦楽団が演じたらしく、中々の好演で、カーテン・コールでも存在感を示していた。

 休憩を挟んで、第3幕。舞台装置は古臭くなく、若々しく好感。しかも、最初の場面で雪国金沢らしく雪を降らせたのは綺麗な演出。オペラで雪を演出した舞台を余り見ていない だけに新鮮。開始部では、ロドルフォ、マルチェッロ、ミミの3重唱が素敵。尚、第2幕のムゼッタの熱唱に刺激されたのかテノール西村悟さんも声量を挙げ、熱演を取り戻した。 これを第1幕で演じて欲しかったが、後の祭り。続いてミミのアリア「あなたの愛の呼び声に」も熱唱となり、ムゼッタの叱咤激励が功を奏した感じ。

 15分の休憩の後、第4幕が開始。イントロのOEKの演奏は、トロンボーンが少々遅れ気味であったが、すぐ回復。最初のマルチェッロとロドルフォの二重唱が綺麗。その後、ムゼッタは ミミの手が冷たいので「マフ」をと歌う。この「マフ」は日本では余りお馴染みではなく、「両側から手を入れて寒さを防ぐ円筒状の服飾小物『広辞苑第6版』」である。後で ムゼッタが「マフ」を持参したようだけれど、子供達が「マフってなあに」と言わないよう、もう少し「マフ」を聴衆に示して、説明すれば良かったと思う。フィナーレの前に間奏曲もどきの オーケストラのみによる演奏がある。ここでは、ミミの死を暗示するチェロの演奏が印象的。愈愈フィナーレ。ミミの臨終の場面ではミミが絶命しているにも拘わらず、出演者が無視し、時間を置いて ロドルフォが「ミミー」と絶叫するのはミミが可哀想。臨終と絶叫を重ね合わせるべきであった。しかし、全般的には若々しく、しかも瑞瑞しい好演であったといえる。

 プッチーニは聴衆を泣かせるのが上手い。
「悲劇の中に、われわれは音楽から再生した悲劇的神話をもっている。―そしてこの悲劇的神話の中で、諸君はあらゆるものを希望し、もっとも苦痛なものをすら忘れていいの だ!、ニーチェ『悲劇の誕生』筑摩書房、 1960」より。尚、次回は来年7月に同じくプッチーニの「トゥーランドット」とのこと。トリノ冬季オリンピック開会式でパバロッティの熱唱(病気のため口パク) 「Nessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)」を思い出す。期待したい。


Last updated on Dec. 11, 2008.
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