081031

10月31日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第250回定期公演PH
指揮:井上道義、能:金沢能楽会
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 能とオーケストラのコラボレーションというサブタイトル。オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と金沢能楽会によるWorld Premiere(世界初演)に期待して、石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレ・コンサートは無し。コンサート1曲目は、金沢能楽会による舞囃子「高砂」。地謡、太鼓、笛のきりっとした演奏で舞台を引き締める。

 小休憩の後、OEKによる作曲者不詳の「十字軍の音楽から」。第1楽章:王の舞曲はオーボエとティンパニーによるトルコ風の曲。世阿弥の年代に合う西洋 音楽を選択したようで、1096年の音楽だそうだ。この時代は、十字軍もイスラム軍も同じような音楽を奏していたようである。第2楽章:王のエスタンピT。エスタンピは、プログラムによると「足の踏み鳴らし」らしい。今度は、第1ヴァイオリンと手回しオルガン。第3楽章:王のエスタンピUは、チェロ、 コントラバスとティンパニー。第4楽章:王のエスタンピVはトランペット、ヴァイオリン、ティンパニーで、コーダは全員で合奏という曲。各楽章とも11世紀の雰囲気を醸し出していた。
続いて、OEKの柳浦慎史さんがソリストとなるヴィヴァルディ:ファゴット協奏曲「夜」。第1楽章 Largo-Andante moltoは、優雅。第2楽章I fantasmi(幻影)は、照明も相俟って、幻影の雰囲気を充分演出していた。しかし、ファゴットの音量が少々不足。もう少し、ffで演奏しても良かったのではと思ったが、タイトルが「夜」だから仕方が無いのだろうか。第3楽章Il sonno(眠り)で は照明が赤く変わる。これは、Nightmare(悪夢)を表したのであろう。第4楽章Sorge l'aurora(夜明け)は、照明が夜明けを表し、最後は少々明るすぎる感があった。しかし、全楽章を通して、ファゴットのラルゴの音と細かい音を堪能できたといえる。

 休憩を挟んで、4曲目は、狂言「見物左衛門(けんぶつさえもん」。シテ野村祐丞氏の独演で、一人で舞台を取り持つ技量を感じた。聴衆の笑いが中々得られなかったのは聴衆が緊張していた所為であろう。しかし見物左衛門が次の演目『「能とオーケストラのコラボレーション」を見物しようか』との台詞に聴衆の 期待を込めた笑いが湧出したのは野村祐丞氏の腕前。
さて、5曲目は世界初演『能とオーケストラのための「井筒」』。旅僧が業平の亡婦囗(囗=白+鬼)霊の夢を懐かしむが、夜明けと共にその夢が破れてしまうという話。何故、ヴィヴァルディ:ファゴット協奏曲「夜」を選曲したのかの理由が分 かった演目である。イントロの旅僧が登場する場面では、OEKは通奏低音程度の演奏。しかし、これが囃子と協奏しているのは、作曲者の高橋裕氏の苦心の作か。途中、囃子のみでOEKが休止する部分もあったが、「序の舞」からOEKの演奏が活発。囃子の笛による演奏が無い部分をOEKのフルートがカバー。 シテ和歌が「こゝに来て・昔ぞかへす・在原の。」の部分でOEKはff。又、地謡が「寺の鐘もほのぼのと」と歌うところで、OEKがぴったりのタイミングで鐘の音を演奏したのには関心。作曲者の高橋裕氏の作曲の妙と、井上道義マエストロの指揮の妙が冴え渡る演奏であった。総体的に、囃子方の演奏、掛け声が 立派で、コラボレーションを引き締めていて、世界初演は成功といえる出来栄えであった。尚、石川県立能楽堂と異なり、大きなホールでのシテ舞であったため、舞は少々見にくかった。即ち、能のシテ舞にはスポット照明を 当てるとより幻想的になったのでは思ったが、如何であろうか。

 アンコール曲は、囃子方と地謡による演奏。張り切り過ぎたきらいもあった。しかし、日本古来の楽器でここまで演奏できることを示し、好演であった。さて、金沢らしい世界初演を聴くことが出来た訳であるが、今後は高橋裕氏の更なる作曲活動、世界初演に期待したい。


Last updated on Oct. 31, 2008.
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