080620

6月20日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第242回定期公演PH
指揮:沼尻竜典、クラリネット:ヴェンツェル・フックス
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 ベルリン・フィル首席奏者ヴェンツェル・フックスがクラリネット協奏曲を2曲披露する。クラリネットとオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のアンサンブル を味わおうと石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレ・コンサートは無し。当日のリハーサルも無しの所為か、コンサート1曲目ウェーバーのクラリネット協奏曲第2番第1楽章Allegroは、やや不安げな出だし。この原因は、後で気がついたのだが、どうもノン・ビブラート奏法のためらしい。 だったら、余計リハーサルを入念にしなければならない。指揮者の沼尻マエストロの指揮は最初やや遅めであったが、徐々にテンポを上げ、体を大きく使った指揮で、熱演。OEKは弦楽が8-6-4-4-2の対象配置。ヴェンツェル・フックスの クラリネットはさすがベルリン・フィルの首席奏者だけに上手く、カデンツァも堂々。第2楽章Romanze. Andante con motoは、本日の第2楽章全てが緩除楽章ということもあり、最初の夢見心地。クラリネットをゆっくり長く吹くのと、忙しく短く 吹くのとどちらが大変なのかと思いながらの楽章であった。尚、この楽章は、ドニゼッティ:歌劇「愛の妙薬」におけるアリア「人知れぬ涙」に似ていて、しかもフィナーレはそっくりである。ウェーバーとドニゼッティは同世代であり、 クラリネット協奏曲第2番が作曲されたのは1811年、「愛の妙薬」が作曲されたのは1831年。従って、どうもドニゼッティがウェーバーのクラリネット協奏曲第2番第2楽章を盗作したのではないのだが、昇華させたものと考えられる。何故ならば、 これら2曲の速度表記はRomanze(独語、ロマンス)とRomanza(伊語、ロマンス)だからである。さて、第3楽章Alla Polaccaは伊語でポーランド式にという意味。OEKも調子が出てきて、リズミカルな演奏ではあった。しかし、フィナーレ近くの クラリネットとオーケストラの掛け合いの部分ではヴェンツェル・フックスの演奏が早過ぎて、OEKの方が多少遅れ気味。やはり、 リハーサル不足であった。
 2曲目は、モーツァルトのクラリネット協奏曲。第1楽章Allegroは、OEKの得意なモーツァルトだけに安定感がある。第2楽章Adagioは、本日2度目の緩除楽章。ウエーバーの緩除楽章と同様、綺麗。後半のpの部分も緊張感あり、好演。 第3楽章Rondo. Allegroは、クラリネットとオーケストラ双方がダイナミックな演奏。計2曲のクラリネット協奏曲は、ヴェンツェル・フックスの熱演であった。

 休憩を挟んで、3曲目は、ベートーヴェンの交響曲第2番。第1楽章Adagio molto - Allegro con brioは、メンデルスゾーンに影響を与えたであろう快活な楽章。OEKは8-6-4-4-3とコントラバスを一人増員し、ノン・ビブラート奏法で演奏したようである。 このため、イントロの金管もノン・ビブラート(スタッカート)奏法で、全体的に硬い感じ。しかし、小気味良い演奏であったともいえる。第2楽章Larghettoは、3度目の緩除楽章。この楽章は、第1ヴァイオリンの音が余り聞こえず、バランスが 悪かった。コントラバスを増員するときは10-8-6-4-4程度に全体的に増やしたほうが良い。第3楽章Scherzo Allegro - Trioは、ベートーヴェンによって完成されたオーケストラによる真のスケルツォである。プログラムでは、爽快な楽章と記載 されていたが、私には重厚に聞こえた。第4楽章Allegro moltoは、ダイナミックで、やはり硬い。この音の硬さは、ティンパニーが原因と思っていたのだが、どうもノン・ビブラート奏法の所為なのである。当時の演奏はどうであったかは別として、 硬派な交響曲に仕上がった。

 アンコール曲は、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」序曲。沼尻マエストロは楽しそうに指揮をしていた。沼尻マエストロはオペラ指揮者なのだ。こうなったら是非ドニゼッティ:歌劇「愛の妙薬」を指揮して欲しいものだ。さて、 先月OEKは、ドレスデン国立歌劇場(Staatskapelle Dresden)と友好交流を結んだとのニュースが流れた。ドレスデン国立歌劇場といえば、本日演奏された ウェーバー:クラリネット協奏曲(ヘルベルト・プロムシュテット指揮)、クライバー指揮、ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」、ワーグナー:歌劇「トリスタンとイゾルデ」等が有名である。金沢でこれらの室内楽とオペラを鑑賞出来る日が待ち遠しい。


Last updated on Jun. 20, 2008.
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