1月8日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第234回定期公演PH
指揮:井上道義、ソプラノ:森麻季
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)恒例のニューイヤー・コンサートである。今年は、音楽監督の井上道義マエストロが登場する。 新機軸に期待し、石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレコンサートはウィーン風弦楽五重奏であった。1曲目は、途中入場したため曲名は不明。しかし、レントラーのような優雅な一曲。2曲目は「観光列車」とのこと。フロアからは 汽笛の音が入ったりして、ほのぼのとした楽しい曲。4曲目に「取り壊しポルカ」という曲が披露されたが、入場者200万人目のセレモニーがあり、印象は希薄。最後に、「ラデッキー行進曲」の一部が演奏され、終了した。司会者から は曲名の紹介はあったが、作曲者の紹介が無かったのは残念であった。

   コンサート1曲目はJ. シュトラウスUによるワルツ「美しき青きドナウ」。イントロで、ウィーン・フィル ハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートの如く拍手をして良いのか、悪いのか分からなかった。しかし、終了後井上道義マエストロより「新年明けましておめでとうございます」との挨拶があったので、拍手をしても良かったのだと 思った次第。これは、後の祭り。OEKは弦楽5部が8-6-4-4-2で、金管はホルンが4本。トランペットとトロンボーンは2管編成であり、バランスは最高。今回位の編成がベストだと思われた。尚、イントロのホルン・ソロは大成功で、出だし 最高であり、井上道義マエストロ指揮するワルツは優雅であった。
 2曲目はプログラムを変更して、同じくJ. シュトラウスUの「芸術家のカドリーユ」。メンデルスゾーン、モーツァルト、パガニーニ等の曲が盛り込まれた楽しい曲。続いて、森麻季さんによるプッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」から 「ムゼッタのワルツ」とフランクの「天使の糧」が演奏された。フランクの「天使の糧」は始めて聞く曲だが、中々綺麗な曲であった。再びオーケストラに戻って、チャイコフスキーの「弦楽のセレナーデ」第2楽章Valse.Moderato.Tempo di valse、 所謂ワルツ。弦楽だけの8-6-4-4-2編成では、重量感が不足であったが、演奏は綺麗。前半最後の曲、ニコライの歌劇「ウィンザ−の陽気な女房たち」序曲は、イントロのコントラバス・ユニゾンが効果的で、コンサート・マスターのマヤ・イワブチさんの ソロも力感溢れる演奏で、金管もこの曲だけだった思う3管編成で、重量感に溢れ、歌劇の序曲に相応しい出来となった。会場からブラボーが飛んだのも頷ける。即ち、OEKのバランスは最高であった。

 休憩を挟んで、後半1曲目はブラームスの「ハンガリー舞曲第6番」。これは定番だが、何故ニューイヤー・コンサートに選曲されたのか不明。2曲目は故武満徹の「3つの映画音楽より”ワルツ”(他人の顔)」という曲。武満徹 の曲と思えないほど優雅で綺麗な曲。後半の3曲目は、一柳慧さん作曲の「交響曲第7番-イシカワ パラフレーズ-岩城宏之の追憶に-」という新曲。パラフレーズは「言い替え」の意。曲は打楽器がふんだんに出てきて、故岩城宏之マエストロを追想 するには相応しい曲であった。しかし、全体的には八木節風、馬子唄風で、石川の「言い替え」には程遠い関東風ラプソディーに聞こえた。プレトークで池辺晋一郎さんが言及したようにコンポーザ・イン・レジデンスはやはり石川県、 金沢市に居住し(居住しなくても滞在して)、この地域独特のメロディーを直に聞いて作曲すべきである。さて、後半4曲目と5曲目は森麻季さんの再登場で、山田耕作「からたちの花」とJ. シュトラウスUのワルツ「春の声」が演奏された。衣装もからたちの花に 合わせて白のドレスにお色直しをして、しっとりとした情感溢れる歌唱を披露した。森麻季さんは宗教曲が得意みたいだが、宗教曲だけではないことが実証された。「春の声」は、森麻季のコロラトゥーラぶりが遺憾なく発揮され、フィナーレを飾るに相応しい熱演であった。

 アンコール1曲目はショスタコーヴィチによるジャズ組曲第2番第5曲「小さなポルカ」。2曲目は、J. シュトラウスTの「ラデッキー行進曲」が演奏された。さて、愈々OEKの2008年がスタートする訳だが、私の 希望を披露したい。60名規模のオーケストラへの変身もさることながら、ハイドンの交響曲全曲演奏をやってみては如何であろうか?104曲の交響曲を1回のコンサートで第1番から番号順に3曲程度演奏する。これを フィルハーモニー・シリーズの年間コンサート10回の内2、3回実施する。2回であれば104/6=17.3即ち18年掛かり、3回であれば104/9=11.6即ち12年掛かる。どちらにしても壮大な計画といえる。しかし、やってみる 価値はありそうである。なにしろ、前任の音楽監督故岩城宏之マエストロはモーツァルトの交響曲全曲演奏を東京で行った筈である。2008-09シーズンでは、ハイドンの交響曲全曲演奏を是非金沢で井上道義マエストロ により着手して欲しいものである。


Last updated on Jan. 08, 2008.
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