10月3日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第229回定期公演PH
指揮:大山平一郎、石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 ペーター・シュライヤー監修によるシューベルト・フェスティバルの劈頭を飾るシューベルトの2大シンフォニー「未完成」と「ザ・グレート」である。ペーター・ シュライヤーは病気で来日出来ないらしい。しかし、マエストロ大山平一郎がモーツァルトで鍛えたオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)に如何なるシューベルト色を出させるか、又私の好きな第3楽章の Scherzoに続くAllegro vivaceをどのように演奏するかに興味があり、 石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレコンサート&トークは、交流ホールでピアノ:マインハルト・プリンツさん、ソプラノ:中田留美子さんによる「シルビアに寄す(An Silvia)」とピアノ・ソナタ イ長調の一部が演奏された。「シルビアに寄す」はサブタイトルに、Shakespeares「Die beiden Edelleute von Verona(The Two Gentlemen of Verona)」からと記載されている。即ち、この曲はシェイクスピアの喜劇:「ヴェローナの二紳士」に曲想を得た歌曲なの である。尚、シューベルトの歌曲はテノール、バリトンが主と思っていたら、高声(ソプラノ)用の楽譜もあり、ソプラノによるシューベルトの歌曲も情緒があることが 分かった。さて、コンサート1曲目は余り聞いたことの無い歌劇「アルフォンゾとエストレルラ」序曲であった。9月のコンサート「椿姫」の余韻の所為か金管が活躍し、 8-6-4-4-2の弦楽が少々貧弱。これは、第2ヴァイオリンが舞台向かって右手前の対象配置でなかったことが一因かもしれない。後の2曲が良かったこともあり、相対的 に考えると少々バランスを欠くと同時に、練習不足気味の演奏であった。2曲目の「未完成」第1楽章Allegro moderatoはバランスが良く、出色。尚、例の「ドソドシドレ」 が花売り娘の歌とのプログラム記載は、私も知らなかった。しかし、その雰囲気を感じられたのは不思議。第2楽章Andante con motoはソロも綺麗で、2楽章の交響曲は 静かに終了した。

 休憩を挟んで「ザ・グレート」第1楽章Andante - Allegro ma non troppoは、イントロのホルン・ソロが大成功。その後の演奏も未完成と違って壮大。但し、金管が活躍すると 「弦が弱いシンドローム」は再発する。第2楽章Andante con motoは、オーボエ・ソロが綺麗。チェロのユニゾンも出色。第3楽章中間部のAllegro vivaceの部分は、 プログラムには「天国的」なシューベルト風とある。前述のごとく私の好きなところである。マエストロ大山平一郎は、余り強調する訳でもなくさらりと指揮したが、 中々の出来。第4楽章Allegro vivaceでは、プログラム記載のベートーヴェン「第9交響曲」の変形主題を明確に認識することが出来た。つまり、シューベルトは ベートーヴェンを充分意識していたのである。尚、この楽章も金管に弦楽が圧倒され、バランスが悪かった。しかし、「ザ・グレート」全曲としては、成績「優」の演奏であっ たといえる。

 アンコール曲は時間が足りなかった所為か、無し。本日のコンサートを聴いての結論は、「未完成」クラスの金管が余り活躍しない曲では、8-6-4-4-2の弦楽5部で充分。しかし、 歌劇「アルフォンゾとエストレルラ」序曲や「ザ・グレート」では金管が活躍するため8-6-4-4-2の弦楽5部では弱く、金聖響のブラームスのごとく10-8-6-4-4に増設しなければならないと思われる。 又、今回のシューベルト・フェスティバルの一連のプログラムを見ると、一見豪華そうだが、肝心のシューベルトの「ミサ曲」を欠いている。海外における作曲家を 特集するフェスティバルでは、必ず「ミサ曲」又は「レクィエム」が含まれている。今後、このようなフェスティバルを企画する場合は、フェスティバル対象作曲家を偲ぶ意味で、 ミサ曲を必ず含めて欲しいものである。


Last updated on Oct. 03, 2007.
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