6月22日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第223回定期公演PH
指揮:アヴィップ・プリアトナ、クラリネット:遠藤文江
ソプラノ:ラトナ・クスマニングルム、 メゾ・ソプラノ:フィトリ・ムリアーティ
テノール:ファルマン・プルナーマ、バス:ライニール・レウィレイノ
合唱:バターヴィア・マドリガル・シンガーズ、
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 オール・ウェーバー・プログラムとのこと。歌劇「魔弾の射手」はCDで持っているが、ミサ曲「魔弾の射手」は全く始めてで興味津々。しかも、インドネシアの合唱団は、珍しいので 石川県立音楽堂に出掛けた。

 会場に到着したら、プレトークでバターヴィア・マドリガル・シンガーズが合唱曲を披露していた。ppでのハーモニーが綺麗な合唱団である。さて、コンサート1曲目はウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲。アヴィップ・プリアトナ・マエストロの指揮はきびきびとして、 合唱団を指揮している所為か大げさでなく、気持ちがいい。インドネシアに置いておくのはもったいない感じもする。2曲目はウェーバー:「舞踏への勧誘」である。イントロとコーダでのカンタさんによるチェロ独奏は素敵。ワルツの微妙なタイミングもアヴィップ・ プリアトナ・マエストロがウイーンの音楽大学で学んだ為か非常にうまい。オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)も小編成ながら華麗なアンサンブルを披露し、素敵な舞曲に仕上がった。

 3曲目は、ソリストにOEKの遠藤文江さんを迎えた、ウェーバーのクラリネット協奏曲第1番である。クラリネット協奏曲はモーツァルトが有名だが、ウェーバーのクラリネット協奏曲も中々いい。第1楽章は超絶技巧を披露。第2楽章は牧歌的雰囲気の曲で、ウェーバーらしさを 遠藤さんは演出。ホルンも良い出来であった。ウェーバーは若い頃ザルツブルグで暮らしたらしいが、その影響であろう、第3楽章にはモーツァルト的な部分が垣間見え、興味深かった。アンコール曲はベールマン「アダージョ」とのこと。このアダージョも、 しっとりした好演奏であった。

 休憩を挟んで、通称「魔弾の射手ミサ」が始まった。この曲は、クラシック・データ資料館で検索しても存在しないので、おかしいと思っていたのだが、実はこの曲は クラシック・データ資料館[ウェーバー]作品表にある「聖なるミサ変ホ長調(Missa sancta)Op.75a,J.224」とオッフェルトリウム「栄光と名誉もて汝は彼の者に戴冠せり」(Offertorium "Gloria et honore coronasti eum")J.226を合わせた曲で、これを通称ウエーバーの「魔弾の射手ミサ」と呼ぶのである。 兎に角も疑問は解消した訳で、曲に戻ろう。第1曲「キリエ」は厳かに開始されたが、合唱団の中に衣装と同じコバルト・ブルーのベールを被った女性がいることに気が付いた。この女性はソプラノのソリスト:ラトナ・クスマニングルムさんであり、以後ソロに 度々美声を聞かせることになる。それは結構なのだが、ベールを被るというのはイスラム教信者だと考えられる。すなわち、イスラム教信者がキリスト教のミサ曲のソリストを務めている訳であり、感動的であった。「グローリア」、「クレド」に次いで「オッフェルトリウム (奉献唱)」が歌われる。奉献唱は「レクィエム」で通常歌われるが、ミサ曲ではグノーの「聖チェチーリアのための荘厳ミサ」で「クレド」の後にオーケストラ曲(間奏曲)として入っているのが例外的で、一般的には挿入されない。従って、ウェーバーの奉献唱は、単独曲 として歌われた曲を後世「クレド」の後に挿入し、通称「魔弾の射手ミサ」と称したのである。終曲「アニュス・デイ」は静かに平和を祈りつつ、綺麗なハーモニーで曲を終えた。少人数のバターヴィア・ マドリガル・シンガーズの合唱が光った演奏であった。尚、アンコールは2曲披露された。1曲目はインドネシア語で歌われたのだろう。従って、歌詞の意味は分からなかったが、涙が出そうな感動的な曲であり、2曲目は沖縄風の明るいコーラスを披露してくれた。

 さて、今回のコンサートで感じたことは、先ず第1点として、日本の合唱団は人数が多いわりに、ソリストがいなく、外部からソリストを招聘している。OEK合唱団もソリストを自前でやれるようレベルアップを目指して欲しいものだ。第2点は、アンコール1曲目についてだが、 歌詞は分からなかったが音楽の意味するところは伝わった。即ち、音楽に国境は無い。又、イスラム教信者がキリスト教のミサ曲を歌う。音楽には宗教をも超越する力がある。イラクでは同じイスラム教信者同士、スンニ派、シーア派で戦闘が繰り返されている。イラク の人々に平安が訪れますように!
Dona Iraqis pacem!


Last updated on Jun. 22, 2007.
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