4月21日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第219回定期公演PH
指揮:金聖響、ヴァイオリン:シュロモ・ミンツ
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による、本日のプログラムと同じブラームスの大学祝典序曲と シュロモ・ミンツ共演によるブラームスのヴァイオリン協奏曲のCDを持っている。シュロモ・ミンツは当時30歳であり、現在50歳になる。 30歳時の演奏と如何に変わっているか、又指揮者が違うとどうなるのか興味があり、石川県立音楽堂に出掛けた。

 プレコンサートでは本日のテーマであるブラームスの弦楽六重奏曲第1番第1楽章Allegroが演奏された。この曲は第2楽章のむせび泣きが有名な曲だが、第1楽章のみでもロマンチシズム溢れる名曲であり、コンサート本番に期待 を抱かせるに足る好演であった。

 コンサート1曲目はブラームスの大学祝典 序曲。弦楽は8-6-6-6-4構成らしく、対称配置であった。例の蛍雪時代のテーマが出てくる曲である。ブラームスの名誉博士号の返礼に相応しい曲を オ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は最初少々荒々しい演奏かなと思いきや、金聖響マエストロの抑制を弁えた指揮により、祝典曲らしい華やかな演奏を披露した。尚、金管のトランペット、トロンボーン、チューバが舞台向 かって右手に配置されていたが、舞台正面奥の高い位置の方が良かったのではないだろうか。但し、金管楽器を低い位置に設定した意味は金管楽器を抑えて、ブラームスのロマンチシズムを表現しようとしたのかもしれない。この点は不明。 2曲目は、巨匠シュロモ・ミンツ共演ブラームスのヴァイオリン協奏曲。第1楽章Allegro non troppoにおけるヴァイオリンが演奏開始される部分は、30歳のときより力強く、元気。しかも、その後のビブラートを効かせる部分は若い頃にも増して完璧な 夢見心地を演奏。第1楽章最後のカデンツアはやはり圧巻。第2楽章Adagioでは冒頭のオーボエ・ソロが素敵で、それに続くシュロモ・ミンツのヴァイオリンも的確。第3楽章Allegro giocosoはスピード感溢れる演奏で、 シュロモ・ミンツの上手さが光る演奏であった。アンコールはバッハによる無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番第1楽章Preludio。例のバッハの4連符を完璧に演奏し、ブラームスのみの演奏会にバッハを添えてくれた。

 休憩を挟んで3曲目はブラームスの交響曲第1番。第1楽章Un poco sostenuto Allegroでは第2ヴァイオリンとビオラが少々弱い箇所もあったが、全体的には問題なし。第2楽章Andante sostenutoでは、 フィナーレのヴァイオリンソロが素敵。まさにブラームスのロマンチシズムを感じさせる名演。短い第3楽章を終え、第4楽章Adagio-Piu AndanteAllegro non troppo, ma con brioでは金聖響マエストロは走り出したが、 抑制するところはしっかり抑えて指揮している。コーダ近くになると鳥肌が立つ演奏で全曲を締め括った。

 アンコールは無かったが、本日のコンサートを聴いてOEKも良くここまで来たものだと感慨無量であった。金聖響マエストロについては、ベートーベンの指揮は少々荒いかなと思っていたのだが、ブラームスの指揮は素晴らしいことを実感した。 サカリ・オラモ指揮フィンランド放送交響楽団の演奏より素晴らしい。その原因は、OEKは大型のオーケストラではないのでダイナミズムに走ることは無く、ブラームスのロマンチシズムを表出しやすいオーケストラである。これに対して、 フィンランド放送交響楽団は大型オーケストラであり、抑制がしにくく、ダイナミズムに聞こえ易いと考えられる。辛口をモットーとする私だが、今回は褒めよう。本日の演奏はOEKの歴史に燦然と輝く一ページを記したと思う。今後、 金聖響指揮によるOEKの更なる伝説が生まれる予感のする演奏会であった。


Last updated on Apr. 21, 2007.
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