7月24日ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮、ピアノ:ダニエル・バレンボイム、チェロ:ハインリッヒ・シフ
ザルツブルグ祝祭劇場大ホール

酢谷琢磨

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ザルツ
ブルグ祝祭劇場大ホール前にて
 待望のザルツブルグ音楽祭に妻と共に参加した。何しろ昨年末インターネットでチケットを申し込んで、7月26日の歌劇 「フィガロの結婚」は売り切れであったが、7月24日のダニエル・バレンボイム指揮におけるウィーン・フィル ハーモニー管弦楽団演奏会のチケットをやっとの思いで入手できたからである。ウィーンから列車でザルツブルグに入り、夜9時からのコンサートに出掛けた。尚、出掛ける 前ホテルのマネジャーに「ネクタイをしなければいけないか」と英語で聞くと、「どのコンサートか」と言う。これは並列に室内オーケストラのコンサートが開催されている からであり、私は「ダニエル・バレンボイムのコンサート」と言うとネクタイを締めろといい、あわてて部屋へ戻ってネクタイを締め、会場のザルツブルグ祝祭劇場大ホールへ 向かった。

 会場に早めに着いた。座席は2階席の最前列であり、最高の場所に期待が高まる。1曲目はモーツァルトによる交響曲第35番ハフナーであった。この曲はモーツァルトの 交響曲の中でも短いが、重厚な曲であり、10-8-6-4-4構成であったと思う。ウィーン・フィルも人の子、最初少し乱れたのにはびっくり。但し、バレンボイムの迫力には感心 した。又、楽章間、楽章中にノイズがあったことも不思議。ウィーンと違ってザルツブルグであったからかもしれない。 OEK(オ−ケストラ・アンサンブル金沢)の演奏会で聴衆に余りノイズ云々を要求するのは いけないのかと反省させられる出来事であった。

 2曲目は世界初演の曲(正確には7月23日のコンサートが世界初演)で、これはすごかった。41歳のJ.M.Staud作曲による 「チェロとオーケストラのための音楽」というタイトルの曲で、最初はドヴォルザークのチェロ協奏曲かと思われる音楽であったが、次第にウィンド・マシンがうなりをあげる。更に、チェロ 独奏者シフがピチカートで日本の琵琶を連想させる演奏を始める。その後自動車の爆走音らしき音楽が始まり、会場からは驚きの声が上がる。私は故岩城宏之マエストロに鍛えられて いるから動じない。これも故岩城宏之マエストロのお陰である。最後はウィンド・マシンが静かな風の音を演奏し、 静かに曲を閉じるというものであった。演奏終了後作曲家のJ.M.Staudが舞台に上がり、ブラボーの歓声が上がった。休憩に入ってロビーに出ると、隣に座っていた夫婦が興奮した口調で、 「素晴らしい曲であり、演奏であった」と私に語りかけてくれたのには、私も同感であった。

 
ザルツブルグ要塞
よりのザルツブルグ街並
 休憩を挟んで3曲目はモーツァルトの 「白鳥の歌」ピアノ協奏曲第27番であった。弦構成はハフナーと違って8-6-4-4-2だったと思う。このため、軽やかな協奏曲に仕上がった。 指揮とピアノのダニエル・バレンボイムも熱演であり、往年のピアニストの面目躍如であった。第2楽章ラルゲットの夢見心地も綺麗、第3楽章の「春の憧れ」も軽やかに終わり、 会場はブラボーの歓声に包まれた。アンコール曲はなかったが、現代曲をうまくモーツァルトではさんだ構成は、さすがダニエル・バレンボイム・マエストロと感心する次第であった。 尚、翌日の新聞に好評が載っていた。ドイツ語で書かれているので誤訳があるかも知れないが、紹介しよう。

 「J.M.Staud(41)は、チェロとオーケストラのための作品-見事なポスト・モダンの産物-を作曲した。彼はオーケストレーション技術と和音の精巧さを超越し、協和音を洗練させた。 この音楽は、60年代の前衛的音楽から影響を受けた色彩と抽象的芸術の音の遊びを進化させた」。つまり彼の音楽は、ウィンド・マシンや自動車の爆走音といったシェーンベルグの 12音技法を越えた後期現代音楽を高らかに宣言したのである。OEKも彼に世界初演作品を委嘱しては如何であろうか?


Last updated on Jul. 24, 2006.
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