5月22日アルバン・ベルグ四重奏団演奏会
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 あのオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の名誉アーティステック・ アドヴァイザーでもあるマエストロ・ギュンター・ピヒラー率いるアルバン・ベルグ四重奏団の演奏会が金沢で開催される。今まで 女性は参加しなかった四重奏団にヴィオラ奏者としてイザベル・シュルツさんを迎えての演奏会であり、しかもモーツアルト・イヤー第4弾 としてモーツァルト弦楽四重奏曲第15番、20番「ホフマイスター」、バルトークの弦楽四重奏曲第6番を演奏するとのことで石川県立音楽堂に出掛けた。

シチリアーノ
 最初の曲は、モーツァルトの弦楽四重奏曲第15番である。この曲は第4楽章のシチリアーノが印象的で、ハイドン・セットというより、 コレルリ・セットと分類した方が良さそうな曲である。ザルツブルグ生まれのモーツァルトによるイタリア旅行の成果であろう右図 に示すシチリアーノのリズムを取り込んだ曲であり、天才モーツァルトは、第4楽章最初のシチリアーノよりフィナーレにおけるシチリアーノ のテンポを早くし、雰囲気ぴったりの曲に仕上げている。アルバン・ベルグ四重奏団の演奏については第2楽章のアンダンテが優秀。 正に上質の音楽であった。第2曲目はモーツァルトの晩年の傑作弦楽四重奏曲第20番「ホフマイスター」である。尚、この曲の最初に カメラを持った聴衆が舞台の袖に進み出て撮影しようとし、演奏は中断という珍事が発生した。カメラ・パーソンは退場し、また最初から 演奏開始されたが、このような珍事は2度と起こらないように願いたい。曲に戻ると、この曲の第3楽章Adagioにおけるヴィオラの音色の 綺麗さが印象に残る好演であった。

 休憩を挟んで、全体の表現記号が「Mesto, メスト(悲しげな)」であり、しかも終楽章は珍しくゆっくりしたテンポのバルトークの弦楽四重奏曲 第6番である。第1楽章最初のMestoの主題もさることながら、第1楽章フィナーレの部分はMestoの雰囲気充分。第2楽章Mesto:Marciaではチェロの ソロが面白い。第3楽章Mesto:Bulrettaでは今にも幽霊が出そうでこれも雰囲気満点。尚、この楽章では今まで余り目立たなかった第2ヴァイオリン のソロも聞けて安心。第4楽章はMestoであり、フィナーレはMestoの主題をヴィオラがppで演奏し、静かに終わる。難曲を揺ぎ無く熱演するアルバン・ ベルグ四重奏団であった。

 アンコール曲は、バルトークの弦楽四重奏曲第4番第2楽章アレグレット・ピッチカートとハイドンの弦楽四重奏曲第74番「騎士」の第2楽章ラルゴ・ アッサイであった。ハイドンの弦楽四重奏曲は通しで聞きたい気がしたが、時間の制約は仕方が無い。以上のようなコンサートであった訳だが、 金沢公演主催者側はプログラムAからFの内プログラムAを選択した。これは金沢市がツアーの最初だから仕方が無いのかもしれないし、それは結構である。しかし、 プログラムAではモーツァルト弦楽四重奏曲の間にバルトークの弦楽四重奏曲が入る予定が、当日は前半モーツァルト、後半はバルトークに変更された。 これはどちらが良かったのだろうか?即ち、モーツァルトでバルトークを包み込むのか、時代順にモーツァルトを済ませてからバルトークにするかである。今年は、 モーツァルト・イヤーであるからプログラムA通りとする考え方。これは、モーツァルトの弦楽四重奏曲第20番「ホフマイスター」のフィナーレは分かり 易く、バルトークの弦楽四重奏曲第6番のフィナーレはppで終わるため拍手のタイミングが難しいという理由も根拠となる。しかし、本日のようにモーツァルトを済ませてからのバルトークは現代的で、プロ向きの選曲と考えられ、決して悪くは無い。従って、どちらにも 一長一短がある−これが私の結論である。


Last updated on May 22, 2006.
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