「周産期と薬剤」 
妊娠と薬剤の基本的知識 男性に投与された薬剤
妊娠中の投薬の原則 受精前から妊娠3週末
胎児・新生児への薬剤の影響 妊娠4〜7週の末
薬剤との因果関係 妊娠8〜15週の末
妊娠16週から分娩まで
授乳期
妊娠と薬剤の基本的知識
<基本重要事項>
 排卵した卵は卵管膨大部で受精、膨大部の子宮側にしばらくとどまった後、卵管峡部・卵管間質部を通って受精から6日前後で子宮内腔に達し、着床(10日前後には完了)する。着床時には妊卵は胚盤胞にある。卵は分割を続け、受精から14日を過ぎる頃に胎児は器官形成期にはいる。これまでの胎児は胎芽とも呼ばれる。器官の形成には約4週間(7週の終わりまで)かかる。口蓋および外性器の完成にはさらに2ヵ月くらい(妊娠4ヵ月終わり)かかる。

<ヒトの淘汰とは>
 1) 受精までの精子の淘汰:何億の1つ
 2) 着床までの淘汰:いわゆるchemical abortion。臨床的には月経が遅れる程度。
 3) 自然流産:臨床的に妊娠の15%前後。65%に染色体異常あり。おそらく90%は運命的。
 4) 妊娠中期以降の淘汰:子宮内胎児死亡など
 5) 出生してからの淘汰:無脳児、18trisomyなど
妊娠中の投薬の原則
 17,18才から45才くらいまでの生殖可能年齢において「妊娠していません」という言葉ほどしばしアテにならないものは無い。基本的には妊婦にも安全な薬を使うようにしたほうが良い。特にLMPから28日以上たった婦人には注意する(28日以前はほとんど催奇形が問題になることはない)。(妊娠反応検査はすべてのprimary care機関において必要)
 てんかん、膠原病、心疾患、糖尿病、高血圧などの慢性疾患では計画的な妊娠を指導する。糖尿病、甲状腺機能異常、高血圧などでは妊娠に伴い薬剤を変更する。
胎児・新生児への薬剤の影響

1) 受精の可能性のある時期に男性に投与された薬剤の影響

理論的には薬剤の影響を受けた精子は受精能力を失うか、受精しても着床不全や妊娠早期に流産する。出生にいたる可能性があるとしても催奇形は発生しない。また、精子形成機関はおよび74日(±4-5日)なので受精前約3ヵ月以内に投与された薬剤である。(受精直前の薬剤の影響はむしろ考えられない)これまでにその可能性があるとされたのはエトレチナート(チガソン:角化症治療薬)、コルヒチンなどあるが否定的な見解が多い。
胎児・新生児への薬剤の影響

2) 受精前から妊娠3週末までに投与された薬剤の影響

 受精後2週間(妊娠3週末まで)以内に影響を受けた場合は、着床しなかったり、流産して消失するか、あるいは完全に修復されて健児を出産する(all or noneの法則)。
 ただ、薬剤に残留性のある場合(風疹生ワクチン、シオゾールなど)は注意
胎児・新生児への薬剤の影響

3) 妊娠4〜7週の末までに投与された薬剤の影

 胎児の中枢神経、心臓、消化器、四肢など重要臓器が発生分化する時期で絶対過敏期である。サリドマイド奇形の(貴重な)経験から最終月経から32日目以前、あるいは52日目以降には奇形が発生していない。特に注意するべきものとしては、ホルモン剤、ワーファリン、向精神薬、脂溶性ビタミンなど。
胎児・新生児への薬剤の影響

4) 妊娠8〜15週の末までに投与された薬剤の影響

  性器の分化や口蓋の閉鎖などはなお続いている。催奇形性という意味ではいくらか感受性が低下する時期だが無くなるわけではない。
胎児・新生児への薬剤の影響

5) 妊娠16週から分娩までに投与された薬剤の影響

 奇形のような形態的異常は形成されない。問題は胎盤を介しての胎児への機能的発育や成長の抑制、分娩前においては新生児の適応障害や薬剤の離脱障害である。一般的に例外的薬剤をのぞいてほぼ胎盤を通過する。
 ワーファリン→ヘパリンへ(通過性の大小)
 プレドニゾロン:胎盤で代謝されやすい→母体の治療目的
 デキサメサゾンやベータメサゾン:胎盤で代謝されにくい→胎児の肺成熟など

 胎盤を通過した薬剤:50%は直接胎児循環へ、50%は胎児肝を通過して胎児循環へ。胎児の脳血液肝門(BBB)は未発達。
 行動奇形学:胎児期に投与された薬剤が出生後の精神神経発達にどのような影響を及ぼすか?
   アルコール(60ml/d以上)トランキライザー、抗ヒスタミン剤などの長期投与。

 非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDS):抗PG剤→胎児の動脈管閉鎖、尿量減少→PFC
胎児・新生児への薬剤の影響

6) 授乳期における薬剤の影響

 母乳中の薬剤の通過性は胎盤とほぼ同じ。特に生後一週間はBBBが未完成。母乳中の濃度が低くても大量に飲むので注意(ただし消化管を介する)
薬剤との因果関係
1) 奇形が生じた器官の形成時期に一致して薬剤を服用していたこと。
 2) 動物実験で同種の催奇形性が報告されていること。
 3) その奇形が特殊な奇形であること(口蓋裂や口唇裂などのよくある奇形ではない)。
 4) 母体の原疾患(糖尿病やてんかんなど)の影響でないこと。

以上のことを立証できないと因果関係は認めにくい。