失楽園  〜序〜
 
 

それはまさしく孤独と言う名の子供。
その名前すら意味の無いほどに…。

その子はすべてを奪われた。
その子は神によってすべてを奪われ、神によって守られ神の箱庭の中で生まれた。
 

子供は歩く。
瓦礫の中を。
休むことなく。
目的もないまま歩く。
ただそうすれば今自分が歩いている悪夢から抜け出せると信じているかのように歩く。
そうすれば誰かが救いの手をさしのべてくれると、それを頑なに求めて…。
 

その子は神ですら大怪我を負う惨事の中で、神の身を呈さんばかりの守護によりこの地へ新たな生を受けた。
粉々に砕け散った機体も、焼けただれた地面も彼の剥き出しの足に黒いすすすら与えることはない。
神に守られた子。
でも神はそのこの言葉にいらえることなく。
 

だから子供はがれきの中を歩く。
自分を包む暖かい力の源を追うように。
何も解らないまま奪われたすべてを求めて。
無くしたことを知らないままで…。
 

子供は歩く。
少しでも知っている場所、知っている人、そして今何が起きているかを知るために…。
でも子供は何も知ることはない。
まわりにある瓦礫が今まで住んでいた場所であったことも、
もう自分の親も友人も、当たり前のように自分を取り巻いていた人々が跡形もなく砕け散り燃え尽き消してその骨の一つにあうこともできないのだということも…。
しかし、知らないが故にその子はなおも歩く。
気丈にも口をひき結び、泣くことも忘れて。
でもやはり子供は何も与えられない。
 

そう、もうなにも与えられはしないのに。
その子供には…。
自分以外は…。
でも自分のことは…。

それでもその子供は歩かねばならない、たった一人で己が捕らわれし神の箱庭の中を、永遠に…。
 
 
 

その子は神に守られて神の住まう地に産まれた。
神はその子以外を選びはしなかった。
奪われしすべてと引き替えに選ばれし子供はは永遠なる孤独という名の神の祝福を受ける。

でも、その子は決して知ることはない…。
…孤独とはいかなるものの名なのかを…。
 
 
 
 
 



 
無知という名のアベル君な…ポエム(涙)?
意味はあるような無いような。

(2003.4.5 リオりー)