ぐらたん                                                
 

   今日の夕食は「グラタン」。
 オーブンの中を今か今かと待ちわびているグラーフ。
 その隣にはちびイドが覗き込んでる様子。
  「まだー?」
  「もう少しだ…」
  ちびイドに急かされながらも一番おいしく出来上がる、その瞬間を待っている。
  いい匂いが部屋中に充満してきた。
  そこへ仕事から戻ったカレルレンが合流する。
  「ほー、今日はグラタンか」
  「あぁ」
  言葉短めに答えると、頃合いを見計らい料理用手袋を付け、オーブンの中から取り出した。
 皿から零れそうな程に盛りつけられたクリィーミーなグラタン。
  マカロニの小さな穴にたっぷりと詰め込まれたグラーフ特製のクリームソース。
 人参とブロッコリで彩られた寒い冬の日の夕食。
 

  まあるく小さな食卓に豪快に盛りつけられた一皿、一皿がテーブルに並んだ。
  待ち構えていたようにちびイドは椅子に座る。
  その隣にグラーフが、カレルレンと並んだ。
  「いただきまーす!」
  元気なちびイドの声がこだまする。
  「熱いから気をつけ……」
  「はふっ…!っ……あちちっ」
  言う間もなく舌をやけどさせて涙目になるイド。
  「そら言わんこっちゃない」
 見かねたグラーフが子供用のスプーンでグラタンをひとすくいしながら、息を吹きかける。
   「ふーふー、ふーふー」
   しつこいくらいに繰り返してからちびイドの口の中へ。
   「はふはふ」
   嬉しそうなちびイド。美味しそうに口いっぱいに頬張った。
 

  そんな様子を端からみていたカレルレンも「ふーふー」して欲しくなった。
  「ふーふー」と言わず口移しでも全然OK。
  けれどそんなこと、どう切り出せばいいのかわからない。
  グラーフはちびイドの面倒で手が放せない。
  それでもこのグラーフ特製のグラタンが冷めきってしまうまでには一度くらい、「ふーふー」して欲しいと願っ た。

  「今度はひとりでやってみろ」
   「…うん」

  ちびイドは頷いて、グラーフがやってくれたように自分でもやってみる。
 「そぅ、そうだ。うん……一度口にいれて熱そうだったら、もう一度吹いてみろ」
 その言葉に頷きながら一生懸命食べているちびイド。
 その様子を端で見守りながら、グラーフも食事の続きを始めようとしたそのとき!
 

  「グーラたん!」
  猫なで声のカレルが隣でニコニコしていた。
  「なっ……」
  一瞬カタまったグラーフ。
  しかもその『グーラたん!』って、いったい……。
 

  「なんだ?」
  「なんだじゃない。とてもじゃないが熱くて食えん」
  「なら冷ましてから食べれば良かろう」
  ツレない一言。
  「ふーふーしろ」
  「は?」
  「命令だ」
  「自分でやれ!」
   またまたツレないグラーフの一言。
  「お前のふーふーがいいのだ!」
  「・・・」
  「何もふーふーした上に口移しをしろ!とまで言ってないだからな」
  そのカレルの一言に、そうして欲しいのだと感じた。
  「今は出来ん」
  今度はカレルがちびイドの前だから、遠慮してくれということなのだなと理解する。
 
 

  そして……。
  深夜おそく。

  ようやくちびイドを寝かしつけたグラーフがカレルレンの部屋にやってきた。
  「待っていたぞ!」
  嬉しそうなカレルレン。
  既に「あーーーん」と口を開けて待っている様子。
  「まったく…」
  呆れながら用意された椅子に座った。
  「ちびイドだけにやって私にしてくれないとは何事だ!」
  しかもいきなり座った途端怒られる。
  「お前は子供か」
  「そうではない!……ちびイドに優しくしてるお前をみていると、取られたよう
  な気分になる」
  「子供にヤキモチ焼いてどうする?」
  面倒見ないわけにもいかないし……と思っているグラーフに。
  「お前を困らせるつもりも、ちびイドに対抗するわけではない……だが」
  詫びるカレルの姿をみながら、グラーフはグラタンを「ふーふー」して一口、自
  分の口の中に入れると、そのまま……。
 


 終

 
 

またもまきむら様から頂きましたゼノ小説。
初チャレンジの甘甘かれぐらなお話をかいてくださいました。カレル父、グラ母、子供イドのかわいい3人です。夢だよねーて。そしてそれを強奪。

続きはご想像にお任せだそうです(笑)
いくとこまでいっちゃっていい(殴)?
今回は本当にわがままを聞いてくださってありがとうございました!

(2004.4.25 ほむら)