ダンスをしましょう♪4
ふわりという音すらも立てずにマイルが降り立ったところは船長室だった。
迎えたのはもちろんヌメロス海軍旗艦艦長、そして今は特別大使パルマンの側近も兼ねるガゼルだ。
「申し訳ありませんいきなり…」
ガゼルが指さしたのはミッシェルから預かった特殊な鏡。
「まず用件を言ってくれりゃぁ」
パルマンは今は大使としての仕事ででているらしい。
「ふーん、でお前達はなんとかあの町から脱出をはかりたいわけだ」
カヴァロ脱出…。 こういうことではなかったはずだが気分的にはモンスターよりアホウな腐れ軍人よりも暴走木人よりもよっぽど恐い。何しろ倒すわけにはいかない、無敵で不死身の善意軍団。 「どうしてだ?いい暮らしさせてくれるだろう?」 にやっと笑って、ちょっと含みがあるような言いぐさ。
「もちろん、そうなんですけれども…」
その一曲が問題、というかその一曲にたどり着いていない。
「そうなんですけれども…その…なんていうか…向こうの先生って丁寧すぎると言うか…その」 言いにくい理由に一生懸命言葉を探すマイルに、ガゼルがにやりと人の悪い笑いを浮かべて、 「”基礎のステップをきっちり身につけなければ後々変な癖が残って人の笑いモノになりますよ!曲に合わせて通しで稽古するのはもっと先の話です”だろ?」
ガゼルから発せられた言葉は几帳面で神経質そうな、あきらかに彼のモノではない台詞、モノマネ。
そこへノックもなく扉が開いて1人の男が顔を覗かせた。 「ただいま…っておや?マイル君じゃないか、いらっしゃい」 そんなことが出来るのはもちろんただ1人、この船の長であるガゼルの上司であり、全権大使であり、プライベートでは誰よりも信頼できるパルマンである。 「すまないな、話し中だったか?」 出直そうかと目で語るパルマンにマイルが慌てて手を振る。 「いいんですよ、パルマンさん。ぼくパルマンさんに会いに来たんですから」
その言葉にパルマンは部屋にはいるとマイルの前、ガゼルの船長机の端に軽く腰をかけて、なんだ?と仕草をマイルに返した。
「それなんだがどうやら今回は俺の勝ちだな」 机に頬杖ついて行儀悪く横から口を出すガゼル。その言葉を聞いてパルマンが、ああと、何かに納得したような顔をする。 「……ああ、一週間か…?もっと保つ思ったんだがな」
妙に分かった風というか…謎の会話をしだした二人についていけないマイル。 「まぁ確かにあそこはちょっと違うからな」
二人のやりとりを聞くうちにうすうすと…いや、賢いマイルにはだいぶはっきりと会話の裏が見えてくる。
「…要するにあなた方はこうなるだろうと分かっていて…。おまけにそれを賭けのネタにしていたんですか…」 マイルに地の底から響くような声でそういわれて、賭けの話に熱中しかかっていた二人はハッと己のまずい現状に気付く。 「え?あーと、別にこうなると分かっていたわけでは…」
言い訳たらたら。だって妙に低い声でゆっくりと喋るマイルはかなり恐い。一見大人しい人間ほど怒らせると何があるか分からない的な雰囲気が漂っている。後ろめたい人間がびびらないわけもない。 「そりゃぁ…俺ら経験者だもんな」 そんなマイルの前でもそれなりに自分らしいフランクな物言いを失わないのは、流石海軍司令官であるガゼルであるが、そんな彼も心なしか腰が引け気味である。 「経験者…」
パルマンはとっくにいやな目に遭い済みだったということだ。 「あの文化人街の感覚がかなり違うことは知っていたんですね…」 もしかしなくても自分が逃げ出すために生け贄にしたのかも知れないという考えは、ここでかなり信憑性を帯びてくる。 「まぁ…それなりに…」
もちろんその辺もウソではないだろうが…言い訳じみて聞こえるのはもうどうしようもないだろう。 「そしてそのことでひとをダシに賭けをしてたんですか…」 追求のとどめ。 「…」 「まぁ、ちょっとだけな」 おまけにその賭けが両名とも耐えきれなくなる方に賭けていたんだから、かなり確信犯的犯行である。
「……ま、いいですけどね」 しばらくマイルは最低温の気配を飛ばしながらなにやら考え込んでいたが、それ以上は溜息を一つはくに留まった。追求してもお互いにいいことはないと計算したためである。今怒りをぶっぱなすよりそれをネタにこき使った方がいいに決まっている。
「それよりも今現実の問題なのですが」 さらりと何事もなかったように話を変えるマイル。しかしその語尾に妙な強さを感じるのは聞く二人の精神的な問題か。 「ああ、いいとも。呼び戻すのは簡単だ。そのための文章も用意してある」 やっぱりパルマンですら耐えられないとほぼ確信していやがったらしい。用意のいいことである。 「それはいいんですけど…」
「だめですか…」 もちろんマイル達が自分で調達するのはもっと難しい。酒場で踊るのと、踊り子の踊りと、王宮舞踏では全然種類が違うのだから心当たりすら無い。
「まぁ、まて。おい、マイル君。先ほどのお詫びに俺がヌメロスで一番うまい先生を紹介してやる」
かわいそうなくらいしょげ返るマイルにガゼルは悪戯っぽい言い方で声をかける。 「ああ、それも教え方のうまい先生だ。特にこういう一夜漬け的な特訓は天才的な奴」
誰か心当たりでもあるのか?と驚いたような心配そうな顔のパルマンにガゼルはニヤっと笑う。 「じゃぁきまりだな。パルマンちゃんと教えてやれよ」 「パルマンさん?!」 「私か?!」 マイルも驚くが言われた当人はもっと青天の霹靂だというような顔。 「ああ、そうだ。ヌメロス元第一王子にして、ヌメロスの持てる最高の教師が舌を巻いた、もっとも優秀な生徒にして、荒くれ者遊撃隊の一夜漬けの天才的教師だ。言って置くがこれ以上場数を踏んだ教師は我がヌメロスには他にはいないぜ」 「お、おい」 とんでもない美辞麗句に大慌てのパルマンとは反対に自信たっぷりのガゼル。
「いいんですか?」
苦虫をかみつぶしたようなパルマンの表情。先ほどの大慌ての態度の割にはあっさりと引き受けてくれるあたり、やはり経験はあるとみてとれる。
「ぜひよろしくお願いします!!」 そうしてパルマンの即席ダンス教師が決定したのである。
その後、パルマン達は即カヴァロにフォルト達の引き取り手続きをとり、マイルは喜んで事の次第を告げ、カヴァロを引き払う準備をしに帰った。もちろん賭けの件はマイル1人の胸に納められた。
そしてガゼルの自信が正しかったとその一週間後には証明されることとなるのである。
続 |
次回やっとダンスです。
やろーばっかりのダンスです。
予定よりも雰囲気が危ないカモですね…。
そんな自分がヤダヤダ(笑)
でもこれでやっと綺麗で可愛い(大爆笑)パルマンさん
がかけるかな〜?
ほむら氏とのお約束だしね。
どんなのでも心して受け取るように。
(2004.1.1 リオりー)