狭いベッドの中で抱きしめたアヴィンの身体は、まだそれとわかるくらいに熱さを残していた。
前髪をかき上げて額に軽く口づけると、腕の中でくすぐったそうに肩をすくめる。
見上げてくる瞳は微かに涙が滲んでいて、それだけでいつもとは雰囲気が変わって見える。
「可愛い」というよりも「綺麗」という言葉が似合う笑顔。
そんな笑顔も、この心地よい熱さも、間違いなく僕だけのもの。
それがうれしくてもう一度強く抱きしめた時、ふいに名前を呼ばれた。
「どうかした?」
のぞき込むと、緑色の瞳は少しだけ恥ずかしそうに僕を見つめてくる。
「腕枕。今日はしてくれないのか?」
……そういえば、今日はしてなかったんだっけ。
あわてて頭の下に腕を差し入れると、アヴィンは当然のように頭をのせた。
「ありがとな」
「どういたしまして。でも、君、そんなに腕枕好きだっけ?」
「う……ん、好きとか嫌いとかじゃなくってさ、ええと、何て言えばいいんだ?」
アヴィンは首を傾げる。
困ったような瞳に見つめられて、意味もなくどぎまぎしてしまう。
考えるふりをして目をそらし、思いついた言葉を口にしてみた。
「そうだね。例えば、物足りないとか?」
それを聞いて、アヴィンはそうか、とつぶやいた。
「いつもしてもらってることを今日はしてもらってないから、何だか物足りなかったんだ」
納得したように頷いて、胸にこつんと額をくっつけてくる。
そんな甘え方が可愛くて、思わず笑いがこぼれた。
アヴィンはそれが気にくわなかったのか、少し顔を上げ、不機嫌な声で訊いてくる。
「なんだよ?」
「ううん。ただ、君っていつからこんなに甘えんぼうになったんだろうなって思っただけだよ」
「……いいだろそんなこと」
そっけない返事。
でも、その顔はおかしいくらいに真っ赤だ。
僕がそんなところをどうしようもなく可愛いと思ってることに、本人は気がついていない。
恥ずかしがりやで、時々必死と思えるくらいの意地っ張りで。
全然素直じゃないくせに、実は人一倍さびしがりやの甘えぼうで。
そんな無器用で可愛らしいところが、アヴィンを放っておけない理由なんだ。
「だって、しかたないじゃないか」
アヴィンは僕の胸に額を押しつけ、小さな声で続ける。
「お前に甘えられるのは、こういう時しかないんだから」
耳まで赤くしたアヴィンの台詞に、つい口元がゆるんでしまう。
そう、時々だけど、こんな風に素直になってくれる時もあるんだ。
ほんとに時々だけどね。
「僕は、いつ甘えてもらってもいいんだけど?」
苦笑混じりの僕の答えに、アヴィンはきっと顔を上げた。
「ば、馬鹿っ。そんなにいつも甘えてられるかっ!」
必死ににらみつけてくるアヴィンの顔はやっぱり真っ赤なままで。
アヴィンには悪いけど、そんな潤んだ瞳でにらまれても逆効果にしかならないんだ。
こらえきれずに笑い出してしまった僕をもう一度にらんでから、アヴィンはぷいと背中を
向けた。
「どうかした?」
その肩に手をかけると、小さな声が返ってくる。
「……だって、お前笑うから」
怒ったような拗ねたような、それから微かに涙の混じった声。
くすりと笑って、僕はアヴィンを後ろから抱きしめた。
拗ねるアヴィンってすごく可愛いから、ずっと見ていたいんだけど。
でも、このままでいると本格的に拗ねちゃって、後が大変なんだ。
だから笑い出したくなるのを必死でこらえて、耳元で謝った。
赤くなった頬をやさしく包んで。
噛みしめられた唇をそっと指でなぞって。
「ごめん。もう笑ったりしないからさ、だから……こっち向いてくれないかな?」 |