決して油断したつもりはないけれど、それでもどこかに隙があったのかもしれない。
「うわっ」
沢山のラケルタ獣の中の一匹が突然アヴィンに襲いかかってきたのだ。その鋭い爪がアヴィンの腿を切り裂いた。
「アヴィン!」
マイルが慌ててレアを唱える。
「だ、大丈夫だ。それより早く片付けよう」
「う、うん」
マイルはアヴィンの怪我を気にしながらも、ブーメランで獣をなぎ払う。もちろん自分の周りよりもアヴィンの回りの獣達を、だ。
「ふう、なんとか退治できたな」
「ちょっとてこずったね、怪我は大丈・・・アヴィン!」
無事にラケルタ獣を退治できて気が抜けたのか、アヴィンがふらっと倒れ掛かったのを、マイルが慌てて受け止めた。
「だ、大丈夫だ」
「何が大丈夫なんだよ。もう!」
マイルは目一杯不機嫌な顔をすると、決して軽くは無いアヴィンを抱え上げた。
「お、おい、マイル!下ろせってば!」
「怪我人はおとなしくしていて」
アヴィンはしばらくじたばたとしていたが、怪我の失血が堪えるのか、それとも単に諦めたのか直におとなしくなった。
「さ、これでいいよ」
マイルが白魔法を唱えると、寝台に腰掛けていたアヴィンの顔色は見違える程よくなった。
「うん、もうすっかり大丈夫だ」
アヴィンは身体をあちこち動かしてみて頷いた。足元に跪いてそれを心配そうに見上げていたマイルも、アヴィンの笑顔にようやくほっとした顔をする。
「あんまり無茶をしないでよ、アヴィン」
その心配げな顔に、流石にアヴィンも心配をかけたと申し訳なく思った。
「ごめん。その・・マイルにはいつも心配かけて・・・」
「何を言っているの。僕とアヴィンの仲じゃない」
「うん。マイルがいるから俺は安心して戦えるんだし」
照れくささを押さえてアヴィンがそういった途端、マイルの表情が崩れる。
「マイル・・・?マ・・・うわっ」
アヴィンは慌てて寝台に後ろ向きに倒れそうになるのを堪えた。何となれば、マイルがアヴィンの胸にどしんとぶつかってきたからだ。その手でアヴィンの身体を硬く抱きしめ、顔をその胸に埋める。
「マ、マイル、何やってるんだよ」
「アヴィン、君って、君って・・・」
マイルは何か言いたいらしいが、アヴィンにはさっぱりわからない。
「マイル!」
引き離そうとした腕は、難なく捕らえられてしまう。
「マイル!」
「動かないで。もう少しだけこうしていて・・・」
マイルはそのまま黙ってしまう。妙な体勢での沈黙。アヴィンは居心地の悪さにもじもじとするが、マイルは気にしていない様だ。臥せられた面にどのような表情を浮かべているのか、アヴィンの位置からでは判らない。
「マイル、おい、マイル、重いってば」
「うん・・・」
「離れろってば。苦しい」
「うん・・・」
うん、と返事をしながらも、マイルは動かない。
この友人は何を考えているのか。腕と腰を捕まれた体勢のまま、アヴィンは考えを巡らせた。人の好意に鈍いといわれてばかりいるアヴィンだが、それでもマイルのこの行動に思い当たる節はあった。もしかして、それほど心配をかけてしまったのか。そうなるとアヴィンとしても無理やり引き離すわけにも行かなかった。この友人にいろいろ無理を聞いてもらっているという自覚は彼にもある。
「・・・ちょっとだけだぞ・・・」
もう少しだけじっとしていてやろうと、アヴィンは諦めて身体の力を抜いた。
「うん!」
アヴィンの胸の中で、マイルが猫のように懐いて喉を鳴らした。その温もりが嬉しかった・・・などということはマイルには絶対言うつもりの無いアヴィンである。
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