Little Song For …


 「こら、リック。駄目だよ、そこにいたらひけないだろう?」
「ちう」
トビネズミは少し首を傾げるような仕草をしたが、キタラの上からどこうとはしない。
「こら。・・・もう、しょうがないな。練習にならないじゃないか」
フォルトはキタラの練習を諦めて、小さく溜息をつくと愛用の楽器を胸に抱え込んだ。 
「ウーナの誕生日に間に合わなかったらリックのせいだよ」
少しだけ拗ねたような口調で文句を言ってみるが、トビネズミはくりくりとした瞳で見上げるだけだ。邪魔をされた仕返しに鼻面でも弾いてやろうかと伸ばした指先に、遊んでもらえるとでも思ったのか、リックの小さな前足がじゃれかかる。
「こら、指先は噛んじゃ駄目だよ。弦をひけなくなったら困るから」
慌てて指を引っ込めると、それが不服とトビネズミが「ちう」と鳴く。 
「そんなに邪魔ばかりしてると、この曲の代わりにお前をプレゼントにしちゃうからな」
ひとしきり文句を言ってから、フォルトはごろりと桟橋に横になった。午後の陽射しが水面に反射し、フォルトの顔の上にゆらゆらと白い模様を映し出す。
「あーあ。どうも上手くいかないなあ。これじゃあウーナの誕生日に間に合わないよ」
幼馴染みの少女の顔を思い描きながらフォルトは盛大に溜息をつく。
 もうすぐ彼女の誕生日。幼馴染みで、ずっとそれだけの存在だと思っていた。それが変わったのはつい最近のこと。意識し出したら今まで何て事のなかった彼女の誕生日がとても大切な日のように思えてきて。 
何かをしてあげたい。
そう思っても自分にはあげられるような物は何もなかった。
だから。
自分ができるたった一つのこと。彼女のために曲を作って、彼女の為に演奏しよう。
音楽は言葉以上に自分の心を伝えてくれるはずだから。 
 しかし、最初に思っていた以上にそれは難しいことだった。言いたいことはたくさんあるはずのに、それが形にならない。もどかしい思い。
 「こんな時じいちゃんだったらどうするのかなあ」
思わずそんなことまで考えてしまって、フォルトはぷぷっと吹き出した。 
「じいちゃんが好きな子のために曲を演奏するところなんて、想像がつかないや」 
「(そんなことをせんでもわしの周りには女の子がいっぱいいたぞ)」
あの祖父ならそう言ってうそぶくことだろう。 
「ちう」
笑い出したフォルトをリックが不思議そうに見上げている。
「おいで、リック」
ちいさな生き物は差し出しされた手に飛び乗ると、 そのままキタラの上を駆け上る。
「じいちゃんはじいちゃん。僕は僕」
フォルトはトビネズミの頭を撫でながら語りかける。
決して英雄なんかじゃない、大勢の人の助けがなければ生きていけない、未熟で、子供な自分。旅の途中で出会った人達のような強力な魔法も、誰にも負けない剣術も、未来を見とおすかのような思慮深さも、自分には何一つない。今作りかけのこの曲のように試行錯誤ばかりを繰り返している。
でも。 
「 きっとどんな曲だってウーナは喜んでくれるよね」 
それだけははっきりと言える。彼女はびっくりしたというように目を丸くして、それから
「ありがとう、フォルちゃん」
と笑ってくれるに違いない。 
「それで十分。ね、リック」
意味がわかっているのかいないのか、トビネズミはくるりと宙で回転する。
「さあ、もうひとがんばりするかな 」
「ちう」
 その日、太陽が海に沈むまで、一人と一匹は桟橋の上で曲を奏で続けた。 



 

いつも素材でお世話になっている澪様に
ファルコムのRPG海の檻歌絵を捧げましたところ
それに素敵なSSをつけて下さいました!!
それじゃ御礼にならない〜(笑)!!!!
世界を巡業し、世界を救った少年フォルト。
フォルトは頭が良くてそれなりに鋭くて強くても
恋すらもまだな素直でおひとよしな少年なんですよね。
そんな等身大のフォルト君を書いてくれました〜!!
あーかわいい!!リックも可愛い!
本当にありがとうございました!!!

(2000.4.23 ほむら)


 

(壁紙:自作(無謀…))