『箱庭の小さな世界』




ぱたぱたと物や人が動くたびに小さくほこりが立つ小さな部屋。
そんな書斎の片隅で面白いものを見つけたのかフェイがぱらぱらと
本をめくり出す。

 「ねぇ先生?これって何?」
「……ああ、これは世界地図ですね。この世界の地図ですよ」
書かれていないことの多い嘘の地図。
それでもこの大地を知るのにこの部屋にあるただ一つの地図。
「へー世界ってこういう形をしているの?」
「ええ、そうですよ、ってフェイ、あなたは掃除を手伝ってくれているんですか?
邪魔をしに来ているんですか(笑)?」
実はさっきからこれに近いやりとりが繰り返されて掃除はちっとも
進んでいないのだけれども。
子供の好奇心はきっと見るもの全てが面白くそして新鮮なのだろう。
それが古びた本の端に書かれた落書きでも…。

「えー?ちゃんと手伝っているよぅ!それより先生?ラハン村ってどこ?
先生の家の山は?」
「もう……ここですよ」
口をとがらせていう子供に諦めて地図の端にある小さな山を指さしてあげる。
「えーーこんなに小さいの?」
「村が小さいのではなく世界が広いといった方がいいでしょうね」
「ふーん、こんなに広いんだ…」
瞬きをして何度も何度もその場所を眺める。

生まれたばかりの子供、
ここの村だけが知り得る世界…

世界はもっと広く複雑で…そして残酷なのだと
この子も大人になれば知ることになるのだろうか…。

しばらくとりつかれたようにその小さな世界図を見入っていたフェイは
急に顔を上げてうれしそうに笑う。
「ねぇ、先生!」
「はいはいなんですか?フェイ」
「一緒にいろんな所を見て回ろうよ」
一瞬返事に困る。
どんなつもりで言ったのか。
あっさりといってくれるものである。
「……………」
「あ、どっか行くのキライ?俺と出かけたくない?」
こっちが黙っているのを見て悲しそうに見上げてくる。
でかけたくない…ってこの子はこの世界の広さを何だと思っているのだろうか。

もしかして…

「おべんと作ってもらって釣り竿もって行こうね。」

やっぱり…

さすがにこらえきれなくなって笑い出してしまう。
 

最近強く意識する平和。
今いる世界はこのカーテンから漏れる光のように穏やかで
人々は優しく時はまるで止まってしまったように凪いでいる。
あまりにも平和な世界。
誰もが望む優しさと光に満ちた世界。

ただしそれはこの村、世界にいるのなら…だ。
ここは箱庭の世界、作られた平和…。
そう、ここから出ることがなければきっと何もかも知らないままに
平和で…悲しむこともなく、残酷な現実など見ることもないのかもしれない。
そしてその方がこの子のためにも…そして温もりを知らない
もう一人の子供のためにもいいのかもしれない…。

それでもきっと…

「ええ、どこへでもお供しますよ?」
どこへなりと行きましょう。
貴方の望むところへ…。
それがどんな世界の果てでも地獄でも…
自分はきっと一緒に行くだろう。
それが最悪の選択でも…。

「本当!?約束だよ!お弁当もっていこうね!!」
「ええ、約束しましたよ、それよりそっちの本を取っていただけませんかねぇ…
掃除…今日中に終えないとユイがさすがに怒りそうなんですが…」
「あ、うん…」
生返事をするフェイはすっかり地図の虜のようだ。
あっちの川で釣りをして、湖で泳いで…
そんな予定を頭なかで組立てしきりとぶつぶつと繰り返している。
「これは今日中には終わりませんね」
ため息を一つ。
でも笑いながら後ろから覗き込んで場所の説明をしてやる。
ユイもこの子供の事ならば怒りはしないだろう。

今はまだ箱庭の平和の中で
外の世界も同様に小さく、
幼子は紙の上の大きな世界は優しく
腕を広げて自分を待っているのだと信じている。
やがてそれは全てうち砕かれてただ痛いばかりの現実は
この子どもにどんな決断を強いるのか…。

それでもきっと…

「ええ、どこへでも行きましょうね…」

それでもきっと自分は言うのだ…
行きなさい…と
生きなさい…と
壊れゆく箱庭の世界を飛び出して
どこへでも、どこまででも…

そして自分は見届けるだろう。
たとえ嫌われても、憎まれても…。

「一緒に行きますから…」

その言葉はきっと果たされるだろう。
誓いのように、
呪いのように…。
 

冷たい風が外を吹き抜けていく。
今は窓に阻まれて部屋の中に冷気をもたらすことは無かったが、
たった一度かたりと窓枠がおとをたてた…。
 
 
 

−終−
 
 

          700番を踏んで下さったなみ様へ愛を込めて…


またやっちまったよ…二度とやるもんかっていった矢先に
タブレット絵…。おまけにパーツが細かいものだから
オフ塗りの方が楽ーって終始わめいてました(笑)。
実際何で先生の腰巻きってピンクなんだろう(爆)。←関係ないだろう!
はてさて〜またも合作風味です。
というか今度は文が先でした。
ゼノの方のリクってシチュエーション指定なさらないので
楽といえば楽、頭をひねらなければならないと言えば
そんなかんじです(笑)。
ということで文書きにシチュエーシャンを頼る私(殴)。
これでほのぼのはクリアできましたでしょうか〜>なみ様

(2001.5.17 ほむら)
 

しまった…先生がいい人過ぎますね(もともと私の先生は
かなりいい人なんですけれども…)。
ゲームやり直さなければイメージ矯正は出来ないでしょうねぇ。
こんなのでよろしいのでしょうか…(心配)。
(2001.5.16 リオりー)